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第七十八話 恐るべき事実……(恐怖!)

「ところで、ミーアさん、縁談話というのは、なんのことかしら? それに、ティオーナさんまで一緒にいるなんて、何事が起きたというの?」

 アベルとのイチャイチャがひと段落したところで、ラフィーナが話を振ってきた。

「ええ、そうですわね」

 ミーアは、一瞬、あたりを見回す。はたしてここで話しても大丈夫だろうか? と。

 それを察したのか、ラフィーナは優しい笑みを浮かべた。

「大丈夫よ、ミーアさん。ここのお店のご主人は、とっても口が堅いし、信用できる方よ」

 その言葉に、ちょうど料理を運んできた主人が苦笑する。

「そう言っていただけますと、まことに恐縮です。本日はラフィーナさまがいらっしゃるとのことで、貸し切りとさせていただいております。私もお料理をお出ししたら、すぐに奥に下がらせていただきますので」

 主人のほうも心得たもので、スムーズに対応してくれた。

「彼はね、実は、ヴェールガの間者なのよ?」

「…………はぇ?」

 声を潜めるラフィーナに、ミーアは思わず目を白黒させる。

 なにしろ、諜報機関だとか、間者などというものは、公にしてはならないもの。

 たしかにミーアたちは混沌の蛇と戦うための同盟を結んでいる。けれど、それとは別次元で国同士の外交というものは存在しているのだ。

 いくらミーアが仲間とはいえ、そう簡単に口にしていいものではないのではないか……? などと心配になるが、直後、ラフィーナは悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべた。

「うふふ、もちろん、間者は間者でも、国を探るための間者ではないの。彼はね、蛇と戦うための間者なのよ」

「ああ、なるほど、そういうことですのね……」

 それで、ミーアは納得する。なるほど、蛇は神出鬼没。各国に、蛇に対しての諜報員を配置するというのは、理にかなったことのように思えた。

「ふむ、そういうことであれば……」

 意を決すると、ミーアは話し始めた。

 ……一度、口を開くと、その舌は非常に滑らかに動いた。

 なにせ、難しい話が絡んでいるとはいえ、結局のところ、それは男女の関係のお話。ミーアとて一応は女子であるのだから、その手の話に関心がないわけではなく……。怪談話などよりはよほど好物なわけで……。

 エメラルダとサンクランドの第二王子エシャールとの間で交わされようとしている婚約のこと、ランプロン伯の手引きと、帝国の反女帝派の動向などを交え、ミーアは大変賢そうな口調で語ったのだ。

 まぁ、九分九厘ルードヴィッヒの受け売りではあるが……。

 そして、もちろん、エシャールがシオン暗殺を企んでいるという危険情報は伏せてである。

「なるほど、帝国内の反ミーアさん派とサンクランドの反シオン王子派が結託しようとしている、と、そういうことね」

 ミーアの説明は、実際のところ、まぁまぁ欠けの多いものであったが、ラフィーナには、きちんとわかってもらえたらしい。

「あの、ラフィーナさま……、もしもご存知でしたら教えていただきたいのですけれど、ランプロン伯というのは、どういう方なんですの?」

「んー、そうね……」

 ラフィーナは、ちょこん、と小首を傾げてから、

「典型的な、古いサンクランド貴族という印象かしら……。サンクランドの王室は、正義と公正を重んじる、というのはミーアさんも知っていることでしょう?」

「ええ、まぁ、痛いほど……」

 なにせ、そのせいで頭を落とされたほどである。その痛みはギロチンの痛みなのだ。

 ミーアにとって忘れようのないことである。

「けれど、サンクランドのそれは、なにも、サンクランド特有のものではない。そもそも、中央正教会の考え方自体が、それを提唱しているのだから」

 貴族とは、神よりこの地を治めるように権威の剣を与えられた者。王とは、その貴族たちを率いて、その地の秩序を守るため、より強い権威の剣を与えられた者。

 すべてはその地に住まう民が、安んじて生きられるようにするため。王侯貴族は与えられた剣に相応しく、自らを律し、正義と公正をもって悪を裁く者でなければならない。

 それが、中央正教会の神聖典が規定する貴族像だ。この地の貴族はその文言を根拠として、各々の領地を治めているのだ。が……、

「それがしばしば都合よく解釈されることがある。貴族は民を治めるよう、神から剣を与えられている、権利を持つのだから、好き勝手に虐げて良いのだ、とか。悪逆な行いをする王もいて、それを正さなければいけないのは確かなこと。そして、時に、正しく民を統治できない領主を裁かなければいけない時もある」

 同じ神により、その地を治めるように任じられた王であり、貴族である。神聖典を根拠にした王権である以上、神聖典に反する横暴が行われた場合には、他の王権を持つ者によって咎められる。

「……そして、サンクランドでは『他国の王族は軒並み腐っているので、善政を敷くサンクランド国王の統治に入ったほうが、民の幸せになる』という価値観が古くから浸透してきた。公正なる民の統治を実現するためには、正義の国王による統治を実現するのが近道である、とね」

 そして、その理屈をさらに過激にしたものこそが白鴉だった。

「それは、しばしば他国を侵略する大義名分に使われたりするのだけど、ランプロン伯という人は、そうした覇権争い的な野心とは縁遠そうな人だった。むしろ、サンクランド貴族の信条を素朴に信じる人、という印象ね。正義と公正のため、という大義名分を心から信じている人だと思うわ」

「ああ……、それは少し、面倒くさそうな人ですわね」

 相手が覇権を狙う野心家であれば、妥協を求めることができるだろうけれど、素朴な信念の人である場合、自分の正義を疑わないため、説得は容易ではない。

「シオン王子は、レムノ王国事件の時に、サンクランドのやり方に疑問を感じたのでしょう。サンクランドが他国に出て行って、というやり方には少し慎重になっているけれど、ランプロン伯は、それを快くは思っていないでしょうね」

 ――ふぅむ、なるほど。要するに、シオンのことが邪魔なわけですわね……。とすると、もしやこれは、エシャール王子の裏にいるのがランプロン伯だった、ということになるのかしら? それとも、エシャール王子が野心によって行ったものだったのかしら?

 ミーアはうーむ、とうなりつつ腕組みする。

 ――シオンとか、ラフィーナさまの評価を聞く限り、どうも、ランプロン伯は、王族の暗殺とか大それたことをしそうにない感じがするんですわよね……。せいぜい、多数派工作とか、そのぐらいで……。

 ミーアはなんとなーく、ランプロン伯から、柔軟性を欠いた無能感というか……、ポンコツ臭を嗅ぎ取っていた。

 ――まぁ、蛇に利用されたということは考えられますけど……、ふーむ。


 ところで、ここに恐るべき事実が存在していた。

 ……この時、シオン暗殺事件について、最も進んだ考察を行っていたのは、なんと……、ほかならぬミーアであった。

 ほかならぬミーアなのだった!!

 それもそのはず、シオンの暗殺について感づいているのはミーアだけであり、当然、その考察を行えるのもミーアだけだからなのだが……。

当事者であるシオン……以上に、キースウッドがすべてを知ってしまったら、卒倒してしまいそうな事実であった。


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第1回キャラクター投票」を開催中です。

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今から誰がなるのかドキドキです。

あ、ちなみになぜミーア母がランキングに入っているかというと、コミックの番外編SSに登場するからだったりします。コミックのほうももしよろしければ、チェックしてみてくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] キャラ投票良いですねー お祭りイベント!って感じで。
[気になる点] 蛇と教会もなんだか、蛇が荒らすと教会が(教会の価値観を持つものが)焦土作戦的に一切合財刈り取ってるような…。
[良い点] ええ、まぁ、痛いほど••••••に笑いました 笑い事ではないんですがね それに最後の勢いのある怒涛の恐るべき事実も面白過ぎです
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