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第二十四話 ささやかなる復讐~下ごしらえ~

「ところで、ミーアさま、このシャロークからの申し出は断るのは良いのですが、どのように処理いたしますか?」

「ん? どのように? どういうことかしら?」

 きょとん、と首を傾げるミーアに、ルードヴィッヒが続ける。

「使者を送りますか? それとも、直接、お会いになりますか?」

「ああ、そうですわね……」

 ミーアは、しばし考えてから……、

「うふふ、あちらからの申し出ですし、どうせなら呼びつけてやりましょう」

 言ってやりたいこともありますし……と、ミーアはにんまりほくそ笑む。

 前の時間軸、わざわざ会いに行った自分に言ったことを、そっくり返してやろう、と思い至ったのだ。

 ささやかなる復讐である!

「私も、そのほうがよろしいと思います。例の蛇と関係しているかもしれませんし……」

「蛇? ああ……」

 なるほど、言われてみればそうかもしれない、とミーアは小さく頷く。

 たしかに、これは蛇の攻撃と考えられないこともない。けれど……。

「そうですわね、そのあたりも少々探りを入れてみる必要がありそうですわ」

 そうは言いつつも……、実のところミーアは、あまりそのことを疑ってはいなかった。

 理由ははっきりとはわからないが……、なんとなくあの男は、秩序の破壊者というイメージには合わなかったからだ。

 ――あれは、どちらかというと金の亡者、いえ、信仰者という感じでしたわ。

 ミーアの本能が告げていた。あれは、恐らく……蛇ではない、と。

「では、手配いたします。準備ができるまで、私もヴェールガに滞在することにしましょう」

「ええ、助かりますわ」

 頷きつつ、ミーアは腕組みする。

「ふむ……、あの男の背後関係も一応はチェックしておく必要がありますわね……」

 こうして、ミーアは動き出した。


 シャロークは、ヴェールガの飛び地である港湾都市「セントバレーヌ」を拠点にしている商人ではあるが、ヴェールガの出身というわけではない。

 セントバレーヌの西方にあるミラナダ王国という国が、彼の出身国だった。ミラナダは、ティアムーンはおろか、レムノ王国にすら及ばない小国であるが、国土に比して、非常に豊かな国だった。

 その豊かさを支えるものこそ、セントバレーヌによってもたらされた、活発な商人の活動である。

 それゆえ、ミラナダ王国において、商人の地位は比較的高い。

「嫌味の一つも言ってやるつもりですけれど、一応のコネを調べておく必要がありますわね」

 もしも、シャロークがミラナダやその他、どこかの有力貴族とコネを持っているならば、後々で厄介なことになるかもしれない。

 幸いにもミラナダ出身の者はセントノエルにもいるはずだから、一応は聞いておこうか、というミーアである。

「ふむ……、しかしミラナダ王国出身の者ならば、たしか以前にルードヴィッヒに聞いていたような……」

 セントノエル学園に来る前、ミーアは築くべき人脈の下調べをしたことがあった。

 その際、逃亡先として、いくつかの国をピックアップしたのだが、その中に、ミラナダ王国も入っていた。

 なんといっても港があるのは魅力。そこから海外に逃げてしまえば、帝国の革命の火も及ばないだろうと考えてのことだった。

 ちなみに、ミラナダの関係者を調べろと言われたルードヴィッヒは「姫殿下は港を欲しておられるのか……」などと忖度していたのだが、それはまた別の話だ。

「わたくしの記憶が確かならば……、貴族の子弟が数人通っていたはずですわ、たぶん……」

 などと考え事をしつつも辿り着いたのは上級生の教室。そこで、ミラナダ出身の者の所在を聞いてみたミーアは……、

「その三人でしたら、下級生の教室に行ったみたいですけど……」

 などという情報を頼りに、今度は下級生の教室へ。そこで……、

「あら……? あなたたちは……」

 ミーアは見覚えのある者たちを見つけた。

「ひぃっ!」

 ミーアの顔を見て、ギョッと飛び上がる三人の男子生徒。そして、その三人に囲まれるようにして、居心地悪そうにしている少女が一人……。

 微妙に見覚えがある面々、その中でもミーアは少女に視線を向ける。

 深く沈んだ灰色の髪、おどおどとあたりを惑う瞳の色は、濃い緑色をしていた。なんというか、こう……ついつい頭を撫でたくなるような、小動物めいた可愛さのある少女だった。

 それから、ミーアはその周りの男子たちを見る。びくびく、おどおどとする少年たち、彼らは……。

「あなたたち、まさか、またいじめていた、わけではありませんよね?」

「いいえ! 滅相もございませんっ!」

 そう、彼らは先日廊下で、ミーアから叱責を受けた少年たちと、いじめられていた少女だったのだ。

「ふむ、では、なにをしておりましたの?」

「みっ、ミーア生徒会長のご命令通り、彼女を守っておりました!」

 言われて、ようやく思い出す。そういえば、そんなこと言ったんでしたっけ……などと。

 それから、ミーアは少女のほうに目を向けた。

「あなた、本当にいじめられておりませんの? えーっと……」

「タチアナです。ミーア生徒会長……、先日はありがとうございました。おかげさまで、あれ以来、こうして守っていただいております」

「それならば良かったですわ」

 そう頷きつつも、こんな風に上級生の男子に囲まれてるのって、うっとうしそうですわね……、などと思ってしまうミーアである。

「と、ところで、ミーア生徒会長、今日はどのようなご用件で……?」

 男子生徒の一人に話しかけられて、ミーアはポン、と手を打った。

「ああ、そうでした。忘れるところでしたわ。今日はお聞きしたいことがあってきましたの。あなた方、ミラナダ出身ですわよね? あなた方のお国の商人で、シャローク・コーンローグという男のこと、ご存知かしら?」

「シャローク・コーンローグ? ああ、金の亡者シャロークですか……」

 一人の男子が、嫌そうな顔をした。

 おやおや、ずいぶんな言われようですわね……、などと思いつつも、ミーアは言った。

「だいぶ、いろいろとやって儲けているみたいですけれど、貴族にも相当なコネをお持ちなんでしょう?」

 そうして、聞き取りをしたところ、どうやらシャロークは、それなりにコネを持ってはいるものの、ミーアが気にする必要がありそうな者はいないようだった。

 良くも悪くも金の付き合いの者が多いらしく、帝国との仲を悪化させてでもシャロークの味方をしようという者は、あまりいないように感じた。

 ――サンクランドやヴェールガのお偉いさんとつながりが深いようだったら問題でしたけど、そういうこともなさそうですわね。これならば、ガツンと嫌味を言ってやるぐらいは大丈夫じゃないかしら?

 ぐふふ、っと笑みを浮かべるミーアは、気付かなかった。

「シャローク・コーンローグさま……」

 タチアナが、小さくそうつぶやいたことに……。


先日、廊下で助けた少女はモブだと言ったが……あれは嘘だ!

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― 新着の感想 ―
[一言] ラノベやなろう小説ではモブだという設定の主人公やヒロインって多いですもんね(笑) さて、どう転んでもミーア様の運には勝てないわけですね。 ……ミーア様が転びかけないと状況が好転しないという…
[一言] 先日、廊下で助けた少女はモブだと言ったが……あれは嘘だ! Σ(´Д`;) この章のキーキャラだと!? どういう関係なのか更新を楽しみにしています!
[良い点] いいね!実はあの少女の…拾い親!ここにいる男子たちが以前なぜいじめていたのかというとこの子がシャロークの身内で地元ではシャロークが嫌われていたため!恐らく教会(信仰はお金)に孤児を集め商人…
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