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第三十三話 聖女か、策士か、小悪魔か?

「あらら、見事にフラれてしまいましたね、シオン殿下」

 ミーアとアベルが去った後、残されたシオンにキースウッドが歩み寄る。

「しかし、まさか断られるとはね。あのお姫さまもなかなかやるなぁ。まぁ、確かに、友誼(ゆうぎ)を深める良い機会ではあるが、これが最後というわけでもないのだし、気を落とすことも……おや?」

 とそこで、キースウッドは違和感をおぼえる。

 シオンが……、幼いころから王族としての節度と自制心を鍛えられてきた、自らの主が……、とてもとても珍しいことに、不機嫌そうな顔をしていた。

 いや、不機嫌そうというか、どこかふてくされたような顔で……。

「もしかして、ダンスのお誘いを断られて機嫌を損ねたって言うんじゃないでしょうね?」

「べつに、そんなことはない」

 シオンは笑みを浮かべるが、その笑みはわずかばかり引きつっている。

「彼女の行動は立派だったし、アベル王子の面目も立った。レムノ王国の第一王子もあまり褒められた性格ではなかったし、アベル王子に肩入れすることは、よくわかる」

 ――って、まるで自分に言い聞かせてるみたいだな。

 シオンより四つ年上のキースウッドがシオンに抱く思いは、一言では言い表せないものがある。

 それは尊敬すべき主に向ける尊敬であり、恩義を受けた王の息子に対する忠義であり、ともに育った幼馴染に対する友情でもある。

 そして、今、彼がシオンに対して抱くのは、弟をからかってやりたいという、兄のような感情だった。

「それに、申し込んだのはこちらだ。当然、受けるにしろ拒否するにしろ、あちらに選択権があることぐらいわかっている」

「なのに、なんとなくモヤモヤすると?」

「だから、べつにモヤモヤなんかしてないって!」

 その子どもっぽい反論に、キースウッドは少し驚く。

「ただ、少し残念だっただけだ。気にしてなんかない」

 そう言いつつも、シオンは唇を尖らせる。

 ――ふむ、殿下がこんなにムキになるとは、珍しいこともあるもんだ。

 いつもは、キースウッドがからかっても、冷静にあしらわれてしまうのに。

 ――もしかすると、冷静な興味以上の感情を抱き始めてるのかもしれないな……。

 シオン自身すら気づいていない心理を、キースウッドは正確に読み取っていた。今彼が抱いている感情が、気になる女の子に冷たくされて、ちょっと不機嫌になった男子とよく似ているということに。

 ――ミーア皇女殿下、か。

 彼にとっても、ミーアの返答は意外なものだった。

 こう言ってはなんだが、キースウッドが見たところ、アベルにはシオンに勝っているところなど一つもなかった。

 なるほど、確かに見栄えは悪くない。顔立ちは整っていたし、立ち居振る舞いも一見すると華麗に見える。

 学校が始まれば人気を集めるだろう。

 ……が、それだけだ。

 キースウッドが見たところ、アベルの魅力はとても表面的なものだ。いわばメッキ。そのようなものに惑わされるような人物など、とるに足らない人物。

 ――普通ならそうなんだが、問題は比較対象がシオン殿下ってことなんだよな。

 そうなのだ、アベルとシオンとを比較した場合、例え表面的なものに限ったとしても、シオンの方が圧倒してしまうのだ。

 見た目に惑わされる者であろうと、本質を見抜く賢者であろうと、あまねく魅了する本物が、シオン・ソール・サンクランドという王子だった。

 にもかかわらず、ミーアはシオンとダンスパートナーとなる権利を蹴ってまで、アベルをダンスパートナーに選んだ。

 本人が辞退しようとしていたにもかかわらず、だ。

 ――アベル王子の誇りを守るため、というのは理解できないことではないが……。

 それ以外にも理由があるような気がしてならなかった。

 あの時にかけた言葉も、なんだか、檄を入れているようにも見えたし。

 ――俺には見えないアベル王子の資質が見えていたとでもいうのか?

 仮にも帝国の叡智と謳われる皇女殿下だ。なにか考えがあってのことなのかもしれない。

 ――相手の誇りを慮る慈愛の聖女か、緻密な計算に基づいた策士の行動か……。

 ふいに、キースウッドは、ミーアの顔を思い出しながら、苦笑する。

 ――あるいは、シオン殿下をからかっていただけ、とか? あの時の笑みは聖女というより小悪魔って感じだったしな……聡明な殿下を手玉に取る小悪魔がいるとはな。


 キースウッドがミーアの思惑(と彼本人が思うもの)を知るのは、少しあとのことになる。

 その時、彼はミーアが帝国の叡智と呼ばれる理由を、まざまざと見せつけられ(たつもりに本人がなってるだけ)戦慄することになるのだが。

 それはまた別の話。今、確かなことは一つだけ。

 ミーアが当人の知らぬ間に、称号「小悪魔」を取得してしまったことのみだった。


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