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第三十三話 楽しい楽しいレジャー計画

「地図、もらってきましたわよ。リーナさん」

 ラフィーナから首尾よく地図をせしめたミーアは、早速、シュトリナの部屋を訪れた。

 キノコ狩り計画の素案を作るためである。

「これは、ミーア姫殿下、ご機嫌麗しゅう」

 ドアを開けてくれたのは、シュトリナの従者の初老の女性だった。

 生真面目そうな表情を浮かべる顔、その瞳には、いささか鋭すぎる光が湛えられている。

 仕事はできる代わりに、自分の仕事に頑なな女性……、そんな印象を受ける女性だった。

「こんにちは、えーっと、バルバラさん、だったかしら?」

 首を傾げるミーアに、その女性、バルバラは深々と頭を下げる。

「私の名を覚えていただくなど、恐れ多きことながら……」

「あら、そんな大したことではございませんけれど……」

 実のところ、ミーアはバルバラのようなタイプは、あまり得意ではない。

 ――この方、サボってるとルードヴィッヒぐらいガミガミ言ってきそうですわ!

 ということで、危険を察知して、そそくさと部屋に入っていくミーアである。

 部屋の中にはシュトリナと、勉強を教わっているミーアベル、さらに、リンシャの姿もあった。

「ご機嫌よう、リーナさん。いつもベルと仲良くしてくださってありがとう」

「いえ、そんな、お礼を言っていただくことじゃありません。ベルちゃんは、リーナの大切なお友だちですから」

 そう言って、シュトリナはニコニコと可憐な笑みを浮かべた。

「えへへ、ありがとう、リーナちゃん」

 それを見て、ベルも嬉しそうに笑った。

 ミーアとしても、孫娘とお友だちとの仲が上手くいっているのを見ると、ついつい微笑ましくなってしまう。気分はすっかりお祖母ちゃんだ。

 それから、軽くリンシャの方に視線を送る。と、リンシャは小さく頷き返してきた。

 ――ふむ、おかしなところはなし……、と。リンシャさんが目を光らせておいてくれるのは、心強い限りですわ。

 ミーアはホッと一息吐いてから、気持ちを切り替える。

「あ、それで、お話しした例の生徒会のキノコ狩りのことなんですけど、地図をもらってきましたわ」

 本題は、むしろこちらの方だ。

 野草や薬草、キノコにまで造詣が深いシュトリナと、今度のキノコ狩りの打ち合わせをするために来たのだ。

「ああ、ありがとうございます。ミーアさま。それでは早速、ルートの計画を練りましょう」

 ちなみに、シュトリナの部屋はミーアの部屋と同じ造りになっていた。

 家具として勉強机とベッドが備え付けられているが、特別なものはない。飾り気のない部屋だった。

 節約生活中のミーアの部屋と比べても、味気ない部屋だった。

「シュトリナさんは、あまりご実家から物を持ってこなかったんですのね」

「はい。うちは、四大公爵家といっても、歴史が長いだけの最弱ですから。そんなに贅沢するお金はないですから。こんな部屋にお招きしてしまい、申し訳ありません」

 そう苦笑するシュトリナに、ミーアは若干気まずくなる。

「いえ、まぁ、わたくしの部屋もそんなに変わりませんわ。それより、なにか困ってることはございますかしら? わたくしもあまり自由に使えるお金はありませんけれど……」

「ありがとうございます。ですけど、リーナは大丈夫です。知りたいことは、図書館で調べればいいですし」

 シュトリナはなんでもないことのように言って、それから少し考えた。

「床に地図を広げるのもどうかと思いますし……、ちょっとお行儀が悪いですけど」

 小さく舌を出しながら、シュトリナはベッドの上に地図を広げる。

「この上でしませんか?」

「まぁ! 楽しそうですわね!」

 なんだか、みんなで悪戯を計画するような、ちょっぴり楽しい気分になってしまうミーアである。

 そういうのは大好きだ!

 けれど、同時に少しだけ心配にもなってしまう。

 ――あのバルバラさん、なにも言わないかしら?

 そちらの方をうかがうと、バルバラは入り口のところで、黙ってこちらを見つめていた。

 ――注意の一つもするかと思いましたけれど……、少し意外ですわね……。

 首を傾げつつも、ミーアはルンルン気分でベッドに上った。


 キノコ狩りをする森は、セントノエル島の東方に位置していた。

「行ったことはありませんでしたけど、森があるんですのね」

「それほど大きな森ではありませんが、結構、キノコが群生していて楽しめると思いますよ。入ってすぐのところでも十分に楽しめますし」

「それは良いことですわね!」

 あまり歩き回らずにキノコ狩りができるのであれば言うことはない。

 基本的にミーアは怠惰人(サボリヤー)なのである。ご存知のこととは思うが……。

「それと、森の奥の方になりますが、ヴェールガ(だけ)が群生しています」

「まぁ! ヴェールガ茸……。ここにもありますのね。クロエの本で読みましたわ。鍋にぴったりの絶品だって」

「さすがはミーアさま。ご存知でしたか。とても深みのある味がする白いキノコなんですよ……でも」

 と、そこでシュトリナは難しい顔をした。

「あら、どうかしましたの?」

「実はよく似た偽ヴェールガ茸というのもあって、こちらは毒があるんです」

「まぁ、毒が?」

「ただ、そこまで強い毒でもなくって、三日間ぐらいお腹を壊して、腹痛に苦しむだけで済むのですけど……、見分けるのは玄人でもとても難しいと言われます」

「ふむ……玄人……」

 腕組みし、何事か考える顔をするミーアであったが……。

「なので、ヴェールガ茸は避けた方がいいと思います。だから……」

 シュトリナは森の南から入って、入り口付近を回るコースを提案した。

「このコースなら特に危険ということはないと思いますが、あまり森の深くには入らない方がよいのではないかと思います」

「なるほど、そうですわね……」

 ミーアは、ふむ、と鼻を鳴らした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読み返してみたら、ここでシュトリナは、「毒キノコのないはずの島に存在する毒キノコの存在」を仄めかしてますね。 ということは、シュトリナなりに動いていていたということに…?
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