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第三十二話 ミーア姫、正論っぽいフォローを入れてくる

「勝利のカギはキノコ鍋にあり、ですわ!」

 ミーアの有無を言わさぬ説得力に、思わずその場の全員が流されそうになった時、

「ちょっ、ちょっとすみません」

 すかさず、キースウッドが声を上げる。

 自らの主、シオンが判断を誤りそうな時、止めるのが彼の仕事である。

 仮に一時の不興を買ったとしても、声を上げるべき時がある! 今こそがその時だ!

 そんな直感に背中を押され、キースウッドはミーアの前に敢然と立ち塞がる。

「キノコの中には毒があるものとないものとがあり、それを見分けるのはとても難しいはず。我々でやるには、いささか危険が高すぎるかと思いますが……」

「ふふん、前からキースウッドさんは、気にされておりましたわね。ですけど、問題ございませんわ。そのことはすでに解決しておりますわ」

「は……? か、解決、ですか? それはいったい……?」

 その問いかけに、ミーアは意味深な笑みを浮かべた。

「だって、この島は神に祝福された島ではありませんの。毒のあるものは生えませんし、持ち込むこともできない。そうではなくって?」

「あっ……」

 キースウッドは思わず、声を失った。

 地上の楽園、大陸で一番安全な地、セントノエル島。

 そこは神に祝福され、守られた地だ。

 ノエリージュ湖の清らかな水により、この島には毒のある植物は生えず、毒を持つ生物も住まうことはない。

 それはある種の常識といえるほど、人々の中に根付いた認識だった。

「いや、しかし……」

 と、反論しかけたキースウッドに、ミーアは静かに微笑みかける。

「あなたの言いたいこともわかりますわ。万に一つも毒を持ったキノコがあったら大変だ、ということでしょう。その危惧は当然理解しておりますわ」

 あくまでも穏やかな口調で、まるで幼子に言い聞かせるように、ミーアは言った。

 ……若干、ウザい。

「ならば、詳しい方の同行をお願いすればいいだけのこと。実はわたくし、つい最近そういう方と出会うことができましたの」

「キノコに詳しい方? それは、いったい……?」

「帝国の四大公爵家が一角、イエロームーン公爵家のシュトリナさんが、キノコとかに詳しいらしいんですの」

「イエロームーン公爵のご令嬢が……?」

 意外な名前を前に、キースウッドは考える。

「しかし、イエロームーン公爵家は、混沌の蛇との関係が疑われていたのでは? 信用できるのですか?」

 そんな質問を投げかけられても、あくまでもミーアの表情は穏やかなままだった。

「そう……。疑惑がございますわね。わたくしは、シュトリナさんは無関係だと信じておりますけれど……、でも、それでは、もしも仮に彼女が蛇であったとしたら……、そんなあからさまなことをするかしら?」

「それは……」

 なるほど、確かにそれは正論と言えるかもしれない。

 恐らく、イエロームーン公爵は自身が疑われていることを知っているはず。その娘であるシュトリナにも疑惑の目が向いていることに気がついているはずで……。

 ――シュトリナ嬢を犠牲にして、生徒会メンバー全員の抹殺を狙うという可能性もあるかもしれないが……、疑われていることがわかっている以上、全員が同時にその鍋に口をつける可能性は低いか。

 そして、最初に食べた者が倒れれば、残りの者は当然それを口にしない。

 遅効性の毒というのもないではないが……、そもそも都合よくそんな毒キノコがこの島に生えているかどうか……。運の要素があまりにも強すぎるように、キースウッドには思えた。

「それに、生徒会の結束を強めるためには、共に仕事をするだけでは不足なのではないかと、わたくしは思っておりますの。親睦を深めるようなことをせずに来てしまったのは、わたくしの不徳の致すところ。聖夜祭という大きなイベントの前に、みなで楽しみながら、親睦を深められればと思っているのですけれど……」

「それは……そうかもしれませんが……」

 ……なぜだろう、帝国の叡智が正論っぽいフォローをいちいち挟んでくるのが、若干ウザく感じるキースウッドである。これには、危険に踏み込むための理論武装を、シオンから聞かされている時と同じようなウザさがあった。

 それはさておき……、

「そして、ちょうど良いことに、シュトリナさんとベルがとても仲が良くて、キノコ狩りをするならぜひ同行したいと言ってくれておりますの」

 それから、ミーアはラフィーナの方に目を向ける。

「ラフィーナさま、確かセントノエル島には、そうしたキノコ狩りを楽しめる森のような場所があったと思いますけれど……」

 話を振られたラフィーナは、小さく首を傾げる。

「確かに、この島の東部には規模は小さいけれど森があるわ。キノコが生えているかはわからないけれど……」

 と、わずかに不安げなラフィーナに、ミーアは、どうどうと手をひらひらさせた。

「大丈夫ですわ。シュトリナさんもおりますし……、それに、わたくし自身も少し本を読んで調べておりますのよ。ねぇ、クロエ」

「あ、はい。そうですね。先日からミーアさまは、キノコ鍋パーティーの実現に向けて、本を読んで準備を進めておられました」

 ――なるほど、つまり、今回の≪策謀≫は以前から企てられたものであると、そういうことか……。

 キースウッドの頭で、微妙な翻訳がなされているのだが……。

 それを知ってか知らずか、素知らぬ顔でミーアは言った。

「毒のあるものが生えない祝福の島、神に守られし安寧の島セントノエルで、シュトリナさんとわたくしという二人のベテランキノコガイドにリードされてのことです。万に一つも心配はございませんわ」

 自信満々に胸を張る自称ベテランキノコガイドであるミーアを見て、キースウッドは……、なぜだろう……、逆に不安が大きく膨れ上がるのを感じていた。


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[一言] 理論武装で珍しく人間らしさを出す皇女
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