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第十七話 馬の威を借れ! ミーア姫!

「ふむ……、こんなものかしら?」

 もっさもっさと巨大なフォークで牧草を整えるミーア。

 早起きして、花陽のもとへ通うようになってから、早七日が経とうとしていた。

 本当は初日のみで、後はサボってしまおうと思ったミーアだったのだが……、花陽のお世話をした後の荒嵐が、すこぶる乗りやすかったのが気になってしまったのだ。

 試しに、翌日も花陽の世話をした後、荒嵐のところに行くと、やっぱり荒嵐は、比較的ではあるが素直にミーアの指示に従った。くしゃみをぶっかけられることもない。

「これは、いったいなぜ……?」

 そこで、ミーアは推理した。

 考えつつスイーツをモグモグし、モグモグしつつ考えて、モグモグしつつモグモグして……、結果、一つの結論にたどり着く!

「ははぁん、なるほど……。そういうことですのね。要するに、花陽は……」

 カッと目を開き、言い放つ!

「荒嵐のボスなんですのね!」

 そうして見てみると、花陽には、荒嵐にはない気品のようなものが感じられる。荒嵐には、というか、他のどの馬にもないような、女王然とした気品と、堂々たる雰囲気が花陽にはあるのだ。

 馬の上に立つ馬という風格があるのである!

「ということは、荒嵐のやつは……ビビッているんですのね……。ふふん、あのような態度をとっていても、しょせんは荒嵐は月兎馬の中では小物ということですわね」

 そうだ、思い返してみればミーアの知る限り、変に威張っていたり、偉そうな態度をとっている奴というのは、たいていが小物に過ぎないのだ。

 自分の前にも確か、そんな貴族が媚びを売りにきたことがあったではないか。あれと同じことである。

「恐らく荒嵐も、花陽の匂いを身にまとったわたくしに恐れをなしたに違いありませんわ」

 そして、その気持ちが理解できないミーアではない。ラフィーナやシオンを恐れていたミーアは、荒嵐の気持ちがよくわかる。時に、絶対に逆らってはいけないものというのがこの世にはいるのだ。ゆえに……、

「そういうことならば、これを利用しない手はございませんわね!」

 ミーアは、そう心に決めた。

 馬の威を借るミーアである。

 ということで、翌日以降も毎日、ミーアは花陽のもとに通った。

 さらに、自らに花陽の匂いをつけるべく、熱心にその体を拭いてあげたり、馬龍の指示に従って、毛を梳いてやったりしたのだ。

「ふむ……。なんだか、この毛並み……、なぜかしら、親近感がわきますわね……」

 などと、ぶつぶつつぶやきながら……。

 そうして、八日目の午後のこと。いつも通り、ミーアは厩舎を訪れた。

「ご機嫌よう、花陽。お元気?」

 ミーアが声をかけると、花陽が静かに顔を上げた。ゆっくりとしたその動きに、微妙な違和感を覚える。

「あら? 少し様子がおかしいような……? ふむ、後で馬龍先輩に言っておいたほうがいいかしら?」

 などとつぶやきつつも、掃除を始める。

 ちなみに、その頭には布の被り物をし、その服は汚れてもよいように長袖長ズボンの専用のものである。

 すっかり掃除が板についてきたミーアである。気分は完全に馬の専門家だ。

「ふふふ、なんだか、こうして働いているとちょっぴり爽快な気持ちになってきますわね」

 よく食べ、よく馬に乗り、よく食べて、よく働いて、よく食べて、よく寝る。

 完全無欠に健康優良児を極めているミーアである。

 ちなみに、少し運動量が減ると途端にFNY街道まっしぐらの、綱渡りの生活と言えないこともないが……。

 ともあれ、掃除をして綺麗になった馬房を見ると、なんとも言えぬ達成感があって……、ミーアは思わず笑みを浮かべる。

「ペルージャン農業国では王族が刈り入れの陣頭指揮に立つと言いますし、ルドルフォン辺土伯のところでも同じような感じと聞きますわね。なるほど、額に汗して働くというのも、なかなかに良いものですわ」

 そうして、ミーアが、汗をキラキラ輝かせながら、掃除を続けていると……、

「こんにちは、ミーアお姉さま」

「お邪魔します。ミーア姫殿下」

 厩舎の入り口の方から可愛らしい声が聞こえてきた。

「あら、ベル。それに、リーナさんも……、あ、もしかして、見学に来ましたの?」

 先日、共同浴場で言われたことを、ミーアは思い出した。

「そう言えば、馬に興味がある、みたいなこと言ってましたものね?」

「はい、今日はお邪魔させてもらいました」

 シュトリナはニコニコと華やかな笑みを浮かべながら言った。ちなみに、二人の服装はいかにも見学者に相応しい普通の制服だった。厩舎に入るには、やや不適切と言えるだろう。

 それを見たミーアは、

 ――ふふん、素人さんに、しっかりとベテランの技を見せてやらねばなりませんわね。

 ちょっぴり、上から目線で思うのだった。ややウザいドヤ顔をしつつ……。

「それにしても、すごく綺麗な馬ですね、ミーアおば、お姉さま」

 ベルが花陽の方に歩み寄りながら言った。

「そうですわね。その馬は、恐らくこの学園で飼っている馬の中で、一番綺麗な馬ですわ」

 どこかの荒嵐とは大違い! と心の中で付け足すミーア。

「ここの掃除が終わったら、わたくしが馬に乗ってるところもお見せいたしますわね」

「ふふ、そうなんです。リーナさん。ミーアお姉さま、すごいんですよ。馬を完全に乗りこなして……あれ?」

 と、そこでベルが不思議そうな声を上げた。

「ミーアお姉さま、変です。なんだか、この馬、苦しそう……」

「はぇ……?」


 そして……、かつてない修羅場がミーアを待っていた。


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