表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/1477

第二十八話 一万の軍勢

 肩までつかって温まり、ぽーっと気持よくなってきたところで、

「ところで、ミーア姫、明後日に入学記念パーティーがあるのはご存じかしら?」

 ラフィーナは聞いてきた。

「入学記念パーティー? はて……」

 ミーアは首を傾げた。

 そんな話を聞いた覚えもなければ、前の時間軸の記憶もない。

 いったいなぜ? そんなミーアの疑問はすぐに解消される。

「新入生を歓迎するためのダンスパーティーなのですが、お聞きではないかしら? てっきり、もう、どなたかからダンスに誘われているものと思っていたのだけど」

 ダンスと聞いた瞬間、ミーアの背筋に稲妻が走った!

 ――そうでしたわっ! あの忌々しい時間のこと、すっかり記憶から消し去っておりましたわっ!

 前の時間軸において、ミーアは、シオン王子と付き合うものだとばかり思っていた。

 だから、当然、ダンスパーティーのお誘いも向こうからやってくるものだと信じきっていたし、周りにもそのように吹聴して回っていた。

 そのため、当日、彼女は地獄を見るのだ。

 なにしろ、シオン王子にその気はない。けれど、事前に言いふらしていたせいで、自分をダンスに誘おうという者もおらず。

 パーティーが半分終わったころに、ようやく気が付いた者たちが声をかけてくるが、それはすべて自国の顔なじみばかり。

 しかも、その顔に気遣わしげな、困ったような笑顔が張り付いていれば、ミーアの自尊心が申し出を受け入れるはずもなく。

 結局、ミーアはその日、ボッチパーティーを満喫するはめになるのだ。

 ――あ、あ、あんな思い、もう二度とごめんですわ!

 幸い、今回はシオンとダンスの約束が、などと言うウソは言っていない。申し込みはある……、そのはずだ、なきゃおかしい!

 ――あっ、ありますように……。

 などと、弱気にお祈りをしそうになって、ミーアはあわてて首を振る。

 ――そんな弱気ではだめですわ。それに、これはコネを築くための絶好のチャンスですわ!

 そう、ミーアが目標に掲げる二つのこと。

 危ない人たちとコネを築かないこと、それに、自分を助けてくれる人とコネを築くこと。

 一つ目は早くも危ういけれど、二つ目に関してはこれからなのだ。チャンスは積極的に狙っていきたい。


 かつて、ミーアはシオン・ソール・サンクランドという、最上の男子を射止めようと考えた。

 なにしろ、シオンはイケメンだ。笑顔がとても爽やかだ。

 ミーアはどちらかと言えば面食いなのである。

 さらに剣術は同級生どころか、上級生ですら並ぶ者がいないほどだ。

 剣術大会の時などは、相手が自分より大きくとも勇敢に立ち向かい、けれど、普段は優しくて穏やか、ともなれば、文句のつけようがない。

 少なくともミーアはそう思っていた。

 ……大いなる間違いだった。

 直接にではないにせよ、彼のせいでギロチンにかけられたミーアは、彼の性格が偽りのものだと見抜いていた(ミーアの中ではそうなっている!)

 しかし、彼個人の人柄以前の問題として、第一王子を婿に取ろうなど、そもそも不可能なのだ。

 ミーア以外に後継者がいない帝国から、ミーアが嫁に出ることは不可能だし、サンクランド王国の側としても、シオンを婿に出すことなどありえないだろう。

 ――むしろ、狙い目としては、第二王子以降、王位継承権がそこまで高くない方ですわ。

 そうして考えて行く時、ミーアには思い当たる人が一人いた。

 ティアムーン帝国とサンクランド王国、二つの一級国家には及ばないまでも、中堅の国家群の中では比較的大きく、なおかつ軍事力が充実した国。

 さらに、ティアムーン帝国からは多少距離があるものの、ちょうどサンクランド王国の反対側に位置している国。

 国名をレムノ王国という。

 そして、幸運なことに、レムノ王国の第二王子、アベル・レムノは、ミーアたちの同級生なのだ。

 もし、アベルを婿にするか、最低限、恋仲になっておけば、サンクランド王国に攻められた時、援軍を頼めるだろう。

 そうすれば、挟み撃ちで、サンクランドを討てるではないか。

 ――学校が始まってからゆっくりアプローチをしようと思っておりましたが、そうも言ってられないようですわ!

 共同浴場を後にして、部屋に入ったとたん、ミーアはアンヌに言った。

「作戦会議をいたしますわ、アンヌ。あなたの恋愛知識を総動員していただきますわ」

 ミーアの号令を聞き、アンヌはすっと姿勢を正した。

「わかりました、ミーア様。不肖、このアンヌ、ミーア様のために全身全霊、知恵を絞らせていただきます」

 気合いの入った返事に、ミーアは満足げにうなずいた。


 ……ミーアは知らないのだ。

 頼りにしているアンヌの恋愛知識が、妹が書いていた恋愛小説をもとにしたものであることを。

まさか、自分より五歳も年上のアンヌが、まだ恋すらしたことがない恋愛初心者であるということなど……。

 想像すらしなかったのだ…………。

「たのもしいですわ、アンヌ。わたくし、一万の軍勢を味方につけた気分ですわ!」

 その一万の軍勢がハリボテに過ぎないということなど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >その一万の軍勢がハリボテに過ぎないということなど。 間違っていない(確信)
[一言] 姉より妹の方が恋愛マスターなのか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ