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第二十五話 ガールズトーク

 女子寮の部屋にたどり着いた途端、ミーアは大きくため息をついた。

 あの後、ティアムーン帝国皇女の名に引かれた人々が、次々に挨拶に来たため、その対応に追われていたのだ。

 ――有象無象(うぞうむぞう)との挨拶など、ぜーんぶ投げ出してしまいたいですわ。

 などと、傲慢(ごうまん)なことを考えつつも、そこはそれ、中途半端に小心者なミーアである。

 アンヌの手前もあり、礼を尽くして挨拶してくる相手を無視していくことができずに、いちいち相手をしてしまったわけである。

「……疲れましたわ」

 適当に靴を脱ぎ散らしたミーアは、そのままベッドに倒れこんだ。だらんと両手足を投げ出した姿は、皇女にあるまじきはしたなさだったが……、

 ――関係ありませんわ! わたくしは栄えある帝国皇女。だれに文句を言われる筋合いもありませんわ!

 心の中では強気なミーアである。

「お疲れ様です、ミーアさま」

 ミーアを気遣うように、アンヌが笑みを浮かべた。

「ええ、本当に疲れましたわ」

「お茶でもお持ちいたしますか? それとも、湯浴みの準備にいたしますか?」

「そうですわね……」

 部屋には、きちんとバスルームが据え付けられている。お湯さえもらってくれば、いつでもお風呂に入ることが可能だ。

 そもそも水が豊かなこの国では上下水道がいきわたっているため、水を節約する必要がない。

 砂漠の国出身の者などから見れば、言語道断の贅沢国なのである。

 ゆっくりお湯につかって、馬車で凝り固まった体をほぐしたい、そう思わないでもないミーアだったが、すぐに首を振った。

「いえ、それには及びませんわ。あと一時間もしたら、共同浴場が開きますから、そちらに行きましょう」

 女子寮には、決まった時間に入ることが許される温泉設備が完備されている。手足を伸ばして湯浴みするために、今は我慢することにしたのだ。

「それより、アンヌ、少し聞きたいことがあるのですけれど……」

「はい、なんでしょうか?」

 ミーアは、改めてベッドのふちに腰かけると、アンヌにも、隣に置かれたベッドに座るように指示する。

 ちなみに、ベッドの大きさや豪華さに違いはない。本来、貴族令嬢と使用人とが同じ部屋に暮らすということは、あり得ないことだが、セントノエル学園の場合、ついてきた使用人自体が大貴族の血筋ということもあり得る。

 なので、学校側は、貴族の子弟が二人過ごしても問題ないように設備を整えているのだ。

 そんな豪奢なベッドに、こわごわとした様子で、腰を下ろすアンヌ。

「あの……なんですか? ミーア様……」

「折り入って、相談がありますの」

「相談……ですか?」

 首を傾げるアンヌ。

「ええ、大事なことなのですが……」

「大事なこと……」

 こくり、とアンヌが、唾を飲み込んだ。

 そんなアンヌを見つめてから、ミーアは大きく息を吸って、吐いて、

「理想的な殿方との出会い方、というのは、どのように演出すればよろしいのかしら?」

「…………へ?」


 前の時間軸において、ミーアは、自分がシオンと結ばれるものと確信していた。偉大なる帝国皇女である自分にふさわしいのは、サンクランド王国王子のシオンしかいないと思っていたし、逆もまた同じだと思っていた。

 なので、ミーアのシオンに対するスタンスは、常に「誘ってもよろしくってよ?」というものだった。

 ダンスパーティーでもそう、晩餐会でもそう、休日の前日もそうである。

 シオンの前に行っては「誘ってもよろしくってよ?」アピールをするのである……ウザいことこの上ない。

 今ではミーアも薄々は、それが間違いであったことに気づいていた。

 成長である。大きな一歩である。人類にとっての大きな一歩ではないかもしれないが、ミーアにとっては十分大きな一歩だったのだ。

 もちろん「シオンの性格が歪んでいるのが原因だ!」と思いはするものの、地下牢での生活が、ミーアに「もしや、わたくしにも悪いところがあったのでは?」という、多少はマシな常識観を植え付けたのである。

 シオンに恋愛アプローチをかけるつもりは、さらさらないミーアではあるのだが、自身をギロチンから救うコネは作っておかなければならない。

 その筆頭となるのは、やはり、恋人であり、結婚相手なのである。

 なのでミーアは、自分の恋愛アプローチが間違っていないか、アンヌに聞いてみようと思ったのだが……。

「……ミーア様、それ、誰に聞いたやり方ですか?」

 話を聞き終えたアンヌは、引きつった顔で言った。

「誰って……」

 わたくし自身ですが……、と言おうとしたミーアの肩を、アンヌがガシッとつかんだ。

「いいですか、ミーア様、それ、全部間違ってます! どこの大貴族の令嬢にお聞きになったのか知りませんが、そんな上から目線の人、誰も相手にしてくれませんよ」

「そっ……そうかしら?」

「そうです。確かにミーア様は皇女殿下ですから、それでもお付き合いしてもらえるかもしれません。でも、それは、ミーア様の権力を見てのこと、ミーア様個人に好意を抱いてではありません。第一、そんなのミーア様に相応しくないです」

 ふん、と鼻息荒く言ってから、

「それで、ミーア様、どなたにアプローチをかけるつもりなんですか? 作戦を考えましょう!」

 やる気満々と言った様子で、アンヌは言った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「もしかしたら、  自分は間違っているのかもしれない」 ミーア様、とんでもなく大きな一歩です。 自分もこれに気付くのが、 後◯年早ければ ・・・ (笑) [一言] 人の上に立つ指導者が …
[気になる点] 湖の島って流れがないから上水はともかく下水は大変そうだなぁ…
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