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第七十五話 ミーア姫、FNYる

「船遊びをするのであれば、もしかして、水着を仕立てる必要があるのではないかしら?」

 男子たちが離れていったのを見て、ラフィーナがミーアに話しかけてきた。

「はて……? 水着、ですの?」

 聞いたことのない単語に、ミーアは瞳をパチクリする。

「そう。泳ぐための服よ。さすがにドレスや普通の服で泳ぐのは難しいのではないかしら……」

 ラフィーナは制服の裾をちらっと持ち上げながら言った。

「なるほど、確かに泳ぎづらかったおぼえがありますわ」

 川に落ちたり、湖に落ちたり……。溺れそうになった時のことを思い出し、ミーアは深々と頷いた。

「となると、なるほど。新しく服を仕立てる必要がございますわね……。ふむ……」

 ミーアは、腕組みして考え込む。

 ティアムーンには、あまり水遊びの文化がない。従って、そのための服というのも、恐らくほとんどないように思われる。

「ちなみに、ラフィーナさまは、そのような仕立て屋に心当たりが?」

「そうね……。ノエリージュ湖で遊ぶために、私も仕立ててもらったことがあるわ。その職人さんだったら、ミーアさんに紹介できると思う」

 それから、ラフィーナは眉をひそめながら言う。

「しっかりとしたお店で仕立ててもらわないとね、いかがわしいデザインの服もあるみたいですし」

「いっ、いかがわしい、ですの?」

 ミーアはビックリして声を上げた。

「ええ、なんでも、こう……お腹のところが丸出しになっていたりとか……」

「まぁっ! お腹がっ!? なんていかがわしい!」

 ミーアは無意識に、自らの腹部に手を当てた。

 ……心なしか、ふにょふにょしている気がする!

「実に、いかがわしいっ! お腹が露出してるなんて由々しき問題、けしからんことですわっ!」

 激しく同意するミーアに、ラフィーナは重々しく頷いた。

「泳ぐわけだから、多少は肌の露出はあると思うのだけど、過剰になれば貞節が損なわれるわ。慎重に仕立てなくては……」

「まったくですわ。お腹が出てるなんて、信じられませんわ! そんな服、ありえませんわ!」

「そうよね。わかっていただけて嬉しいわ! ミーアさん」

 一見すると“わかりあった二人”に見えないこともないが……、致命的な部分でなにかがズレていることに、その場の誰も気づかなかった。

「だから、そうね……。もしよろしければ、今度、仕立て屋さんを呼びましょう。ちょうど私も新調しようと思っていたところだし……。あ、みなさんもよかったら……」

 かくて、生徒会女子部のメンバーで水着を仕立てることになったのだが……。


 ラフィーナ御用達の仕立て屋は、三日後にやってきた。

「本日は、よろしくお願いいたします」

 キリっと鋭い顔をした女性の職人は、てきぱきと仕事を進めていく。

 詳しい採寸をする前に、とりあえず、ということで、水着の試着をさせてもらうことになった。

「サイズの調整などは後でいたしますが、とりあえず、デザインなどをご確認いただければ幸いです。ラフィーナさまのご指示で、露出を控えめにするとのことですので……」

 いくつか水着を取り出して並べる。

 それは、ミーアがダンスパーティーの時に身に着けていたドレスのスカートを短くしたようなデザインだった。さらに、そのスカートの下に太ももの半ばぐらいまでの長さの半ズボンをはくようになっている。

「そうですね……。ミーア姫殿下は、お体が小さいので、このぐらいで……」

 などと職人がズボンを取り出す。「これを下に何も着ずに着ます」

「まぁ、下着のようですわね」

「そうお考えいただいてもよろしいかと。それとサイズですが、体にぴったりくっつく方が泳ぎやすいので、少しきつめになっております」

 その言葉に頷きつつ、ミーアは渡された水着をはいてみた。

 ――ちょっと……というか、ものすごくキツイですわ、これ……。コルセットと同じぐらいキツイけれど、こういうものなのかしら……?

 首を傾げつつ、ぐいぐい、水着を着ようとするミーア。不意に、その耳に、

「…………あら?」

 と、仕立て屋の意外そうな声が聞こえてきた!

「……どうかなさいまして?」

「ああ、いえいえ、なんでもありませんよ。そうですか、それですと、少しキツイかもしれませんね……えーっと……」

 焦ったような声を出す仕立て屋。

 ミーアはそれを見て、ふむ、とうなる。

 ――この方、デザインの方はラフィーナさまのお墨付きをいただいているようですけど、サイズの見立てはいまいちみたいですわね……。

 などと、思っていると、

「ああ、他のみなさまはちょうどいいみたいですね。では、姫殿下のみ、もう少し大きめのサイズで……」

 などという声が聞こえてきた!

 ミーアは一瞬、はて? と首を傾げる。けれど……、ふと顔を上げた先、アンヌが衝撃を受けたような顔で……、

「……そういえば、最近、少しキツくなったっていうドレスがあったような……。ううん、違う。ミーアさまは成長期なんだから、そういうことも……」

 などと、ぶつぶつつぶやいているのが見えた。

 ミーアは、すとん、っと表情の消えた顔で、自らのお腹をさすってみた。

 心なしか…………、ふにょふにょしてるような気がする!!!

「……アンヌ、忌憚なき意見を聞きたいのですけれど、わたくし……少し太りまして?」

「い、いえ、ミーアさま、決して、そのような……。そう、成長! ミーアさまは成長期だから、体が大きくなられる時期なので……」

「なるほど、確かに少しずつ身長が伸びていることはわたくしも知っておりますわ。けれど、アンヌ、身長と比較して著しく横に膨らんでいったら、それは成長ではなく、膨張ですわ!」

 ちょっぴり上手いことを言って、ミーアはアンヌの顔を上目遣いに見つめる。

「アンヌ、もう一度聞きますわ。あなたはわたくしに嘘は言いませんわね? あなたは、わたくしの忠臣ですから。ねぇ、アンヌ、わたくし……ちょっとだけ、太りまして?」

 そう聞かれたアンヌは、わずかばかり、視線を逸らして……、

「少しだけ……ですが。最近、ケーキやお菓子を含めて少し食べすぎのことが続いておられたのが、気にはなっていたんですけど……」

 自らの一番の忠臣に認められてしまった瞬間、ミーアは、ひぃっ! っと息を呑んだ。

 頭をよぎるいくつかの光景。

 そういえば、馬に乗った時、馬が一瞬固まったような……。

 ベッドに寝転んだ時、ギシギシきしむ音が大きかったような……。

 それから、それから……。

「ミーアさま、あの……、運動とかするとやせるって、本に書いてありました」

 横からクロエが気づかわしげな声をかけてくる。

 ちなみに、クロエは、仕立て屋が渡した水着を難なく着こなしている。

 裏切り者に向けるような瞳を向けて、ミーアは言った。

「ああ……、そういえば、最近、あまり馬に乗ってませんでしたしね……。ダンスの鍛練も少しサボり気味でしたし……、ああ、そういうことですのね」

 悲しげに、ずーんっと沈んだ顔をするミーアに、クロエは、あわわ、と慌てた声を出す。

「わかりましたわ……。もっと馬に乗って、ダンスも頑張るようにいたしますわ」

「ああ、それはとても良い心がけですね、姫殿下」

 傍で聞いていた仕立て屋が偉そうに言った。

「水着とは関係ございませんが、二の腕などにも、少しお肉がついて来ています。今ならば、少し運動を増やすだけでもまだ間に合うでしょう。乗馬は足やお尻の引き締めにも効果があるかと思いますし……」

 仕立て屋の説得力のある言葉に力を得て、ミーアはやる気を取り戻した。

「頑張りますわ。帝国に戻ってからも、毎日、馬に乗るようにいたしますわ。それにダンス……、頑張りますわよ!」


 結局、ミーアはやせることを見越して、結構キツめのサイズで仕立ててもらうことにした。

 これからの短い時間で、どれだけ痩せられるかが勝負である!


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