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第七十四話 同伴者と何かのフラグ……

「夏休みに、グリーンムーン家の令嬢と船遊び?」

 ミーアの話を聞いた生徒会の面々は、一様に心配そうな顔をした。

「大丈夫なのかい? ミーア、その……、四大公爵家の中には確か……」

 眉をひそめ、気づかわしげな顔をするアベルに、ミーアは笑みを浮かべて見せた。

「ええ、おぼえておりますわ。けれど、恐らく大丈夫じゃないかしら。エメラルダさんは、そうした陰謀に加担して平然としていられるような性格ではありませんし……」

「いえ、それでもやはり危険ではありませんか、ミーア姫殿下。そのように油断しては……」

 横から苦言を呈したのは、サフィアスだった。

「どのように善良な顔をしていても、腹の中では何を考えているかわからないもの。それはあのエメラルダ嬢だって同じこと!」

 ……俗に言う「お前が言うな!」というやつである。

 ラフィーナの笑みが、出来の悪い子に向ける母親のような色を帯びる。その視線の生暖かさが逆に怖いミーアであった。それはさておき……。

「ご心配でしたら、あなたも一緒にいらっしゃいます? サフィアスさん」

 エメラルダと同じ四大公爵家の者であるサフィアスであれば同行するのも問題ないだろうと考えて、ミーアは話を振ってみた。のだが……。

「うえ? あ、あー、えーとですね。ご一緒したいのはもちろんですし、本来であれば姫殿下の傍らに侍るのが、臣下の当然の務めではあると思うのですが、その……、実は許婚と遊び……じゃない。出かける予定がありまして」

 ちょっと慌てた様子で、サフィアスは首を振った。

 皇女の安全より許嫁との夏休みを優先するサフィアスであった。

 ――ふむ……、この方、ブレませんわね。こうして見るとサフィアスさんには、お父さまに近いものを感じますわ。

 大好きな人に一途な想いを寄せる。一人の女性を何物にも優先してしまう、その一直線さ……。そこにミーアは、自身の父に通じる気質を感じ取っていた。

 ――まぁ、妻になる方にとっては浮気をされなくて良いかもしれませんが……娘でも生まれたら、きっとウザがられますわね……お可哀そうに……。

 将来、娘にウザイと言われて、しょんぼりするサフィアスを想像して、ミーアは憐みの目を向けた。

「? あの、なにか?」

「いえ、なにも……」

 正直なところ、サフィアスが同行したからと言って、どうなるものでもないとミーアは思っていた。

 ――護衛として役に立つとは思えませんし……。

 ミーアの生暖かい視線に耐えかねたのか、やがてサフィアスは用があると言って、逃げるように席を立った。

「まぁ、サフィアスさんのことはさておいて、近衛兵も何人か随行いたしますし、大丈夫ではないかしら?」

 ミーアがそう言っても、アベルはずっと難しい顔をしていた。

「……シオン、少しいいだろうか?」

 それから、そっとシオンに耳打ちする。

「ん? お二人とも、どうかしましたの?」

 不審に思ったミーアが話しかけてみるが……。

「いや、なんでもないよ。大丈夫」

 アベルが慌てた様子で首を振った。

「そうですの? でも……」

 ミーアが話しかけるのを無視して、二人は部屋の外に出て行ってしまった。


 しばらくして、戻ってきたアベルは、早々にミーアに言った。

「ミーア、一つお願いがあるんだが、聞いてもらえるかい?」

「はて? お願い、ですの?」

 きょとりんと首を傾げるミーアに、アベルはまじめ腐った顔で言った。

「我がレムノ王国とサンクランド王国から、それぞれ護衛を出させてもらいたいと思ってね」

「まぁ! 護衛を?」

 驚くミーアに、アベルの隣で腕組みしていたシオンが頷く。

「君は大丈夫だと言っていたが、やはりグリーンムーン家の令嬢の件は気になる。護衛の人選はこれからになるが、ぜひ願いを聞いてもらいたい」

 生真面目な顔をするシオンを眺めつつ、ミーアは、ふむ、と考える。

 ――シオンの信頼に厚い護衛というとキースウッドさんあたりになるかしら? アベルの方はよく知りませんけれど……あの槍の人ということはないでしょうし……。あるいは噂に聞く金剛歩兵団の兵員とかかしら……? それはそれで、ちょっぴり楽しみかもしれませんわね。

 ミーアは小さく首を傾げた。

 ――まぁ、でもキースウッドさんならば、確かに安心できますわね。見映えがするから、エメラルダさんも嫌とは言わないでしょうし……、レムノ王国の方はわかりませんけど……。

 実のところミーアも護衛に関しては、少しばかり頭を痛めていたのだ。

 さすがに身一つでエメラルダの誘いを受けようなどとは思ってはいないが、かといって、遊びに行くのに護衛の兵団を連れて行くわけにもいかない。

 なんといっても、相手は帝国の四大派閥の一角の長、グリーンムーン家なのだ。

 当然、自前の護衛を用意しているだろうし、もしも過剰な兵をミーアが連れて行くとしたら、それは、相手を信用していないことになってしまう。

 となれば、連れて行けるのは、せいぜい一人か二人……。

 ――ということはバノスさんあたりに同行してもらえればベスト。ですが、あの方、荒くれ者の見た目ですし、エメラルダさんは了承しないでしょうね……。となると……。

 見映えと剣の腕を鑑みれば一番の候補はディオンなのだが、ミーアにとってその人選はあり得ない。

 ――あの方を伴って船遊びとか、恐怖以外感じませんわ……。

 溺れでもしたら、面倒くさがって助けてくれないんじゃないかとまで思ってしまうミーアである。

 ――とはいえ、そのお二人以外だと、剣の腕前がいささか不安なところもございますわね。

 顔がいいだけの護衛など頼りないし、目の前で身を挺してかばわれでもしたら、寝覚めが悪い。

 それゆえに、二人の王子からの提案は都合がよかった。特にキースウッドの腕前には、ミーアも一目を置いているのだ。

 エメラルダの方も、シオンやアベルの心遣いと言われては嫌とも言えまい。

 それよりなにより、エメラルダは確か面食いだったはず。となれば……。

 ミーアはキースウッドの顔を見て、

「ん? どうかしましたか? ミーア姫殿下……。私の顔になにか?」

「いえ、別に……」

 そう答えつつも、心の中で、ふむ、合格! と大きく頷くミーアなのであった。


 その後、王子二人とキースウッドは用があるからと相次いで部屋を出ていき、室内は女子だけになった。

「ところで、ミーアさん……、ちょっといいかしら?」

 そうして、おもむろにラフィーナが口を開いた。

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