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第四十話 再び集いし……

 その日、ミーアはラフィーナにランチのお誘いを受けていた。

 セントノエル学園の敷地内にある花園、通称「秘密の花園」にて、昼食会は行われた。

 一面を薄紅色の花に彩られた花園。咲き誇る愛らしい花「姫君の紅頬(プリンセスローズ)」の香りにうっとりしつつ、ミーアは、ラフィーナの用意した食事に舌鼓を打つ。

「これ、すごぉく美味しいです! ミーアお姉さま」

 ちなみに、本日は、ベルとアンヌも同行している。

 超豪華ランチを前に、ベルは満面の笑みを浮かべていた。

「うふふ、ベルさんはすごく美味しそうに食べるわね」

 ラフィーナは嬉しそうにベルの方に目をやった。

「えへへ、とっても美味しいから、仕方ありません」

 ニコニコ笑うベルを、ラフィーナは微笑ましげな様子で見つめている。

 つい最近まで、ラフィーナのことを怖がっていたと思っていたが……。

 ――この子、案外、世渡り上手かもしれませんわね……。

 そういえば、ベルと接する時はいつもみんな、優しい表情を浮かべている。

 ――年齢的にはアベルとかシオンより一つ年下なだけのはずなのですけど、やたら子ども扱いされてますわね……。

「ねぇ、ミーアさん」

 っと、不意にラフィーナが話しかけてきた。

「ミーアさんにとって、ベルさんって、大切な人なのよね?」

「もちろんですわ。わたくしの大切な……」

 孫娘、などと口走りそうになって、慌ててミーアは黙り込んだ。

 小さく言葉を呑み込んだ後、続ける。

「大切な、妹ですから」

「あら、珍しいわ。ミーアさんが言いよどむなんて……。ふふ、ミーアさんはお父さまのことが好きなのね」

 ミーアベルがミーアの父親が外で作った子どもだと思っているラフィーナはそんなことを言う。

 そういうことにしたのはミーアなので、なんとも言えないところだが……。

 ――お父さまが外で、わたくし以外の子どもを作ってきたからわたくしが嫉妬している……、などと思われるのはちょっと心外ですわ……。

 ミーア的に父親のことは別に嫌いじゃあないのだが……、そんなに大好きと思われたくもない。

 難しいお年頃なのである。

 それはともかく、

「それで、ベルがどうかなさいましたの?」

「いえ、ベルさんがミーアさんの大切な人なのであれば、従者にはきちんとした人をつけなければいけないと思って。蛇が付け入る隙になるかもしれないでしょう」

「ボクの従者……ですか?」

 ベルはきょとんと首を傾げた。

「ええ、ベルさんのお世話をアンヌさんがするのは大変だろうなって思って」

「そうですね……。ベルさまは、大抵のことはお一人でできてしまいますから、負担はそこまでではありませんが、ミーアさまと授業をご一緒できないのは……」

 ――そうですわ。アンヌにいてもらいたい時がどれほどあったことか……。

 ミーアは心の中で同意する。

 もしも、ベルに信頼のおける従者を用意できるのであれば、それに越したことはない。

 問題は、それに見合った人材を探せなかったことだが……。

 ――ラフィーナさまの推薦なさる方ならば……。あっ!

 ミーアは慌てて口を開いた。

「ですけど、部屋はわたくしたちと同じにしておいていただきたいですわ」

「え? でも、狭いのではないかしら?」

 それは否定できないところではあるのだが……、ミーアとしては、いつでもベルの話を聞ける状況を整えておきたかった。

「大丈夫ですわ。問題ありませんわ。いろいろ、お話したいこととかございますし……」

「あら、ふふふ。ミーアさんは案外、妹さんに甘いのね」

 ラフィーナはおかしそうに笑って、それから、頬に手を当てて首を傾げた。

「でも、そうね。それならば、当分、ベルさんはミーアさんと同室ということにしておくわね」

「お心遣い感謝いたしますわ」

「それで、改めて、ベルさんの従者をしてもらう人なのだけど……」

 そう言うと、ラフィーナはパンパンっと手を叩いた。

 それを合図に、一人の少女がそこに入ってきた。

「あら、あなたは……」

「お久しぶりです、ミーア姫殿下」

「まぁまぁ! リンシャさんではありませんの、お久しぶりですわね」

 数か月ぶりに再会した懐かしい顔に、ミーアは思わず笑みを浮かべた。

 レムノ王国での革命事件以降、彼女とは会っていなかった。

 アベルやラフィーナの口添えもあって、酷い刑罰を与えられるということはないと聞いていたのだが……。直接、顔を見て、少しだけ安心する。

「元気そうでなによりですわ」

「兄ともども、その節は、大変お世話になりました」

 深々と頭を下げるリンシャに、

「あら、やけに殊勝な態度ですわね……。どうかなさいましたの?」

 ミーアは小さく首を傾げる。

 あの時は、もっと砕けた口調で話しかけてきたように思ったのだが……。

「い、いえ……さすがに、その……、ティアムーン帝国の姫殿下に、失礼なことは……」

「ふふふ、その姫殿下を眠らせてさらった者たちのお仲間がなにを言っておりますの? それが許されたのですから、今さら気持ちの悪い話し方をしないでいただきたいですわ」

 冗談めかして言うミーア。それを見たリンシャは、一瞬、きょとんとした顔をして、それからラフィーナの顔をうかがってから……、

「それなら、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 諦めたように肩をすくめた。

「それで、リンシャさんがベルの従者として仕えてくださるんですの?」

 確かに、リンシャは混沌の蛇とは敵対関係である。一定の信用が置けるだろう。それに、あの危機をともに乗り越えたリンシャに対して、ミーアは親近感を抱いていた。

「ありがとう、それはとても助かりますわ」

「こちらこそよ。セントノエルで学べるなんていい話、願ったりかなったりだったから」

 ミーアの素直なお礼に、リンシャはちょっぴり照れくさそうな顔をした。

「うふふ、リンシャさんね、ミーアさんの役に立てるなら喜んでって、すぐに引き受けてくれてね」

「ちょっ、ら、ラフィーナさまっ!」

 珍しく、慌てふためいた様子のリンシャに、ミーアは楽しげな笑みを浮かべた。

 それから、ベルの方に目を向ける。

「ベル。こちらはリンシャさん。レムノ王国の人で、わたくしがとってもお世話になった方ですわ」

「そうなんですか? よろしくお願いします、リンシャさん。ボクはミーアベルといいます。ベルって呼んでください。ミーアおば……お姉さまの、えーっと……」

「妹、ですわ。お父さまの隠し子で、あまり公にはできないあれやこれやがありますの」

「わかった。詳しくは聞かないわ」

 その様子を静かに見ていたラフィーナは上品な笑みを浮かべた。

「うふふ、よかった。じゃあ決まりね。それともう一人、ミーアさんには紹介したい人がいるの。どうぞ、モニカさんも入って」

 ラフィーナの声を合図に、メイド服に身を包んだ女性が入ってきた。

「お初にお目にかかります。ミーア姫殿下。モニカ・ブエンティアと申します」

「モニカさん……? あら、あなた、もしかして、アベルのところにいた……」

 ミーアにしては珍しく、その名前を憶えていた。

 ――たしか……、話してくれた時、ちょっと嬉しそうにしていた方でしたわね。

 知らない女の人の話を嬉しそうにするアベルに、ちょっぴりヤキモチを焼いてしまったミーアである。

 ――ふーん、この方がモニカさんなんですのね。ふーん、へー。そうなんですのね! アベルもやっぱり、大人のお姉さんには弱いんですのね!

 改めてモニカを見てミーアは頬を膨らませた。

「あの時は、姫殿下のおかげで、仲間たちも温情をいただくことができました」

「いいえ、こちらこそ助かりましたわ。あなたがいなければ、レムノ王国はもっと悲惨なことになっていたことでしょう」

 ミーアは、ニコニコ笑みを浮かべつつ、

 ――ふん! アベルは絶対に、渡しませんわっ!

 心の中ではファイティングポーズをとるのだった。


 かくして、ラフィーナの手配により混沌の蛇に抗する者たちは集められていく。

 そんな折、ミーアのもとに、帝国からとある知らせが届けられる。それは……。

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