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第二十七話 疑心暗鬼

「どういうことですの? シオン、四大公爵家のどれかが混沌の蛇の関係者だなんて……」

 慌てた様子でミーアは尋ねた。

 帝国四大公爵家、それは最も皇帝に近しい貴族。

 皇帝と血のつながりがあり、皇位継承権も持っている者たち。

 だから信用できるというものではないのだが、少なくとも一般的な貴族よりは信用できなくてはいけない者たちのはずだった。

「その話は確かなことなんですの?」

 問いかけに、シオンは思案げに黙り込む。

「まぁ、普通に考えれば、確度としてはそこまで高くはないだろうな。もともとは帝国に派遣していた風鴉から上がってきた情報なんだが、いかんせん古い。長らく放置されていた情報だ。あまり重視されなかったから、埋もれていたと考えるべきだろう」

「普通に考えれば……か。引っかかる言い方だね、シオン王子。裏を返せば普通でない見方もできるということかな?」

 そう尋ねるアベルに、シオンは一つ頷いて、

「物事にはいろいろな側面があるからな。当然、普通じゃない見方だってできるさ」

 それから、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「そして、俺としてはそちらの見方の方がしっくりくるんだ。つまり情報が埋もれていた理由が、もしも重視されていなかったからではなく、逆であったなら……」

「ああ、なるほど。風鴉にも混沌の蛇が潜り込んでいたわけだしね。ジェムか、それ以外の者が意図的に情報を隠していたとしたら……逆に怪しいと。そういうことか」

「それは……確かに怪しいですわね。ぜひ、もっと詳しいお話が聞きたいですわ」

 もしも、それが本当だったら大変だ。なにしろ帝国四大公爵家である! 

 彼らこそ、国を支えるために貴族をまとめ上げ、帝室に最後まで忠誠を誓う者たちで……などと思いかけたミーアだったが、ふと思い出す。

 ――あら? でも、前の時間軸ではわたくし、エメラルダさんに裏切られたんだったかしら……?

 ミーアの親友を名乗っていたエメラルダは、革命が起きて早々に帝国を見捨てて国外に脱出した。それも一族郎党そろって、である。

 グリーンムーン家は帆船を保有しており、海外とも交流がある。そのコネを用いて、見事、危険地帯を脱出したというわけだ。

 最後に会った時、エメラルダはいつもと変わらない優雅な笑みで言っていたのだ。

「ミーアさま、今度、当家でお茶会を開きましょう。たくさんお客さんを呼んで盛大に。そして、誇り高き帝国貴族としてこの帝国のために力を尽くすことをともに誓い合うの。とっても素敵でしょう?」

 ミーアはその言葉にとても慰められたし、勇気をもらいもした。

 連日、ルードヴィッヒと出かけて行っては帝国内の窮状を見て、落ち込みがちになっていたミーアだったから、親友であるエメラルダのことがとても心強かったのだ。

 そうして、お茶会の約束の日。

 ミーアが目の当たりにしたのは、もぬけの殻になったグリーンムーン邸だった。

 以降、幾度も裏切られることになるミーアだったが、この時が初めてだったので、たいそうショックを受けた。

「うう、せっかく、久しぶりにケーキが食べられると思っておりましたのに……」

 頑張った自分にご褒美! と思い、ケーキを楽しみにしていたので、その衝撃はひとしおだった。

 ――ふむ、思い返してみると四大公爵家の連中って、どこも似たり寄ったりでしたっけ……。

 飢饉による民の困窮をやわらげるべく協力を要請しに行ったら断られたり、帝都を守るために兵の派遣を要請したら断られたり……。

 その家柄の格的に、生半可な者を派遣するわけにもいかず。割とミーアがお使いに出されることが多かったわけだが……、その都度、相手の冷たい態度に、心をザクザク切り刻まれたものである。

 さらに、イエロームーン家に至っては裏で革命軍とつながってたんじゃないか、なんて噂される始末だったのだ。

 ――今さらあの中に裏切り者がいるなんて言われても、そんなにショックではございませんし……そうですわ! むしろ、四分の一の確率で敵の尻尾を捕まえられるかもしれないのだから、幸運と考えるべきなのかもしれませんわ! その首を手柄にラフィーナさまに詫びを入れにいけば、少しばかり選挙公約がダメでも許していただけるかもしれませんわ……。

 ちょっとだけポジティブになったミーアは、シオンの方を見た。しかし、シオンは小さく首を振って、

「残念ながら……、時間が経ちすぎているからな。詳細を調べるのはなかなか難しいだろう」

「まぁ、そうですわよね……」

「それに、情報を送ってきた者は連絡を絶っているんだ」

「それって……」

 ミーアは思わず言葉を失う。

「自然に考えれば、口封じのために殺されたと考えるのが妥当だろう」

 シオンは重々しい口調で言って、それから腕組みする。

「いずれにせよはっきりしたことは言えない。そもそも、関係しているというのが、どのレベルでかもわからないわけだし。最初にも言った通り、この情報がどの程度、信ぴょう性のあるものかもわからない。だけど、用心するに越したことはないはずだ」

 その言葉を、ミーアはどこか遠くで聞いていた。

 なぜなら、シオンの持ってきた情報をベルからもらった情報と組み合わせると、別のものが見えてきてしまうからだ。つまり……。

 ――帝国の覇権をめぐって四大公爵家が対立。二対二で内戦になるって言っておりましたけれど……、それって、本当にただの権力闘争だったのかしら?

 自然、そんな疑念を抱いてしまう。いずれかの公爵家に隠れ潜んだ混沌の蛇の策動によるものであったとすれば……普通に覇権争いと言われるより納得できてしまうわけで。

 ――四大公爵家の者たちには、警戒が必要なようですわね……。


 四大公爵家の一角、ブルームーン家長男サフィアス・エトワ・ブルームーンが訪ねてきたのは、翌日のことだった。

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