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第二十六話 アベルおじいちゃんは泣いていい……

「そっ、それで、アベル、あなたが調べてきてくださったものは……」

 ミーアはなんとか気を取り直して言った。

「ああ、そうだったね。わかりやすいかと思って書き上げてきたんだ」

 そう言うと、アベルは二枚の紙を取り出して机の上に置いた。

「こっちがラフィーナさまが生徒会長になって以来、やってきた仕事をまとめたものだ。それともう一枚は……」

 と、アベルは照れくさそうな顔をして付け足した。

「一応……、なにかの役に立つかと思って、ボクが考えてみた選挙公約だ。君の役に立てるなんて自信はまったくないんだけど……」

「まぁ! そんなことございませんわ。とっても嬉しいですわ!」

 ミーアは大切そうに、アベルの持ってきた紙を手に取った。

「まず、ラフィーナさまの方から読んでみてくれ。ボクのはついでで構わないよ。本当に、見せるのが恥ずかしいぐらいで……おや?」

 アベルは先に机に置かれていたミーアの選挙公約に目を留めた。それを手に取り、しばらく眺めて……。

 それからミーアの方を見て……すぐに納得した様子でベルの方に視線を向ける。

「ベル、君もミーアの手伝いをしているのかな?」

「はいっ! 偉大なるミーアおば、お姉さまを手伝えるなんて、とっても光栄なことですから、張り切っています!」

 元気よく答えたベル。その頭をアベルが優しく撫でる。

 ――なっ! アベルに優しくしてもらうなんて、ズルいですわ!

 孫娘にジェラシーを燃やす、偉大なるミーアお姉さまである。微妙に大人げない……。

 ――そもそも、なぜわたくしの選挙公約を見て、ベルの話をするんですのっ!? あれは、わたくしのっ!

 などとプリプリ怒っていたミーアだったが、アベルが持ってきた資料を見て青くなった。

「これは……、古くなっていた学校施設の大胆な改修、不要な行事を廃して、新たな行事を計画……?」

 自分の考えていたものとは、次元の違うナニカが、そこにはあった。

 生徒からの要望に耳を傾けつつ、きちんと先を見据え、十年後、二十年後まで残るような意義のある仕事。的確な現状認識と、それに対する解決手段を、しかもミーアでも理解できるぐらいに簡潔にまとめる、その手腕……。

 ――こっ、これと同じようなものを、わたくしが作らなければならないんですのっ!?

 ミーアの考案しようとしていた「学食スィーツ増産計画」など、児戯にも等しい。

 ――なるほど、それで、わたくしではなく、ベルが考えたものだと思ったんですわね。っていうか、ラフィーナさまの選挙公約、微妙にルードヴィッヒとかに近い臭いがいたしますわ……。

 ミーアはラフィーナの政治手腕をまったくもって知らなかったが……もしもルードヴィッヒと同等の行政能力を有しているのであれば、それは、勝ち目のない戦と言わざるを得ないものだった。

 ――どっ、どうすればいいのか、見当もつきませんわ……。

 早くも涙目になりかけていたミーア。だったのだが、そこに新たな人物がやってきた。

「ああ、ミーア、ここにいたのか」

「あら……シオン?」

 新たに図書室に入ってきたのは、シオンだった。

 走ってきたのか、その額にはうっすらと汗が浮いていた。

 そのままミーアたちのところに歩み寄ってきた彼は、ベルの方を見て不思議そうな顔をした。

「ん? 君は……。ああ、そうか。ラフィーナさまから聞いていたな。確かミーアの縁戚の……」

「はい! ミーアベルです。ベルって呼んでください」

「これはご丁寧に。俺はシオン・ソール・サンクランドだ」

 その自己紹介を聞き、ベルは驚愕の表情を浮かべた。

「てっ……天秤王シオン……、ふわぁっ! ほ、本物……?」

「天秤王……?」

 小さく首を傾げるシオンだったが、ふと、机の上に置かれた紙を見て、

「これは、ラフィーナさまの施政記録か?」

「ああ、さすがにまったく隙がないよ」

 肩をすくめるアベル。シオンは資料にざっと目を通して、

「なるほど。さすがはラフィーナさまだ……おや? そっちの紙は……?」

「あっ、それは……っ!」

 止める間もなく、シオンはミーアの選挙公約を手に取った。

 それに一通り目を通してからシオンは慌てるミーア……ではなく、その隣できょとんと首を傾げたベルの方に目を向けた。

「君もミーアのことを手伝っているのかい?」

「はいっ! ボクも尊敬するミーアおば、お姉さまを全力でお手伝いしたいって思ってます」

「そうか。いい子だね」

 そうして、シオンは優しい笑みを浮かべてベルの頭を撫でた。

「えへへ……」

 先ほどと同じような展開だったが……、心なしかベルの食いつきは先ほどより良かった。なんだか、ものすごく幸せそうな顔を浮かべるベル。有名人でイケメンな天秤王に頭を撫でられてすっかりご満悦のようだった。

 アベルおじいちゃんは泣いていい……。

 ――この子……意外とミーハーですわね。まぁ、あれをわたくしが書いたってバレなくって良かったですけど……。

 微妙に複雑な気持ちになるミーアである。そんなミーアの方に顔を向け、シオンは言った。

「で、ミーア、肝心の君の選挙公約はどうなってるんだ?」

 うるせぇ、お前が持ってるのがそうだよ! などとは当然言えるわけもなく、ミーアは一瞬、黙り込む。刹那の思考、そして閃く!

「あら、シオン。そんなに心配してくれるなんて、もしかしてわたくしの手伝いをしてくれるんですの?」

 ミーア、シオンをも巻き込みにかかる。

 ラフィーナの怒りを買うにしても、「この選挙公約はシオンも一緒に考えましたー!」と主張すれば、少しは軽くなるかもしれないではないか!

 それに、ルードヴィッヒほどではないにしても、シオンの頭脳は利用しがいがありそうでもある。

 使えるものはなんでも使う。なりふり構っていられなくなったミーアである。

 対してシオンは……。

「いや、残念だが、今回は中立の立場をとらせてもらうよ」

 それを華麗にもスルー。

 憎らしいぐらいに涼しい笑みを浮かべる。

 ――ちっ、逃げられましたわ。やっぱり。そう上手くはいきませんわよね……。

 ぐぬっと呻くミーアをしり目に、シオンは肩をすくめて見せた。

「手伝いたいのはやまやまなんだが、立場があるだろう。サンクランドとティアムーンが手を結び、ヴェールガに逆らうなんて、シャレになってないだろう」

「それでは、なにをしに来たんですの?」

 手伝う気がないんなら帰れ! と言外に主張するような、トゲトゲしい口調でミーアは言った。

「ああ、忘れるところだった」

 シオンは不意に真剣な顔をする。それからベルの方をチラっと見てから、

「蛇の関係のことなんだが、彼女は大丈夫だろうか?」

 蛇……秘密結社、混沌の蛇。

 人知れず、社会に溶け込み、よからぬことを企む不届き者たち……。

 どこにその関係者がいるか、誰が信用できるか判断がつかない以上、あまり多くの耳に入れるべき話ではないが……。

 ミーアは小さく頷く。

「ベルは、信用できる子ですわ」

 むしろ、ミーアとしては、ベルにはできるだけ情報を与えておきたいところである。

 ――帝国が大変なことになるって、絶対に混沌の蛇も関係しているんでしょうし……。

「そうか。それならば話そう。これはまだ確実なことではないから、そのつもりで聞いてもらいたいんだが……。ミーア、ティアムーンに混沌の蛇の関係者がいるらしい」

「ああ、やっぱり、そうですのね」

 それは十分に納得のいくことだった。

 混沌の蛇の構成員は社会に溶け込み、どこにいるのかわからない。

 だから当然、ティアムーンにもいると、ミーアは思っていたが……。

「帝国の中央貴族、それもどうやら四大公爵家のいずれかの家が関与しているらしいんだ」

「よっ、四大公爵家が、ですのっ!?」

 さすがに、その言葉は予想外だった。

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