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第二十四話 帝国四大公爵家のお茶会

「ふ、ふふふ、来た。来たよ。ついにこのオレにもチャンスが!」

 セントノエル学園の一角で、そのお茶会は密かに開かれていた。

 広い室内にデーンと置かれた大きな机。その上にはあふれるばかりのお茶菓子が乗せられている。

 その量に比して、その場に集う人数は少ない。

 たったの二人である。

 けれど、彼らの正体を知るものがいれば瞠目したことだろう。ことに、ティアムーン帝国の貴族であれば絶対に無視することなどできなかっただろう。

 なぜならば、彼らこそ大国ティアムーン帝国の中央貴族を束ねし者たち。帝国四大公爵の血筋の者たちだからである。

「あら? 今日はルヴィさんは来ませんのね。せっかく、我ら四大公爵家の親睦を深めようというのに、勝手な方。それに、シュトリナの小娘。新参者のくせに休むなんて随分と生意気ね」

 グリーンムーン家長女、エメラルダ・エトワ・グリーンムーンは、緩やかにウェーブを描く豊かな髪を、ふぁっさ! っとなびかせた。

 はぁ、と大きくため息を吐き、優雅に紅茶を一啜り。

「って、おいおいおい! 何を落ち着いているんだい? エメラルダくん。君、オレの話を聞いていたのかい?」

 そんなエメラルダに食って掛かるのは、青い髪の少年だった。切り揃えた髪は、時間をかけて整えたらしく、激しく動いても崩れる様子はなかった。

 年の頃は十代の半ばを過ぎたころ。エメラルダと同年代であろうか。そんな少年に、エメラルダは心底から迷惑そうな顔をした。

「ちょっと、サフィアスさん、あまり大きな声を出さないでくださる?」

 少年こと、ブルームーン家長男、サフィアス・エトワ・ブルームーンはため息交じりに首を振った。

「やれやれ、君、やれやれだよ、まったく。わからないのか? このチャンス。セントノエルの生徒会に入れるかもしれない名誉なんて、なかなかあるもんじゃないんだよ? バカみたいな不文律のせいで、我々、帝国貴族はセントノエルの生徒会には入れないんだ。だが、ミーア姫殿下が生徒会長にさえなってくれれば、そんな不文律、無視してオレたちを役員に任命してくれるに違いないさ」

 と、そこまで興奮した口調で言ってから、サフィアスは小さくため息を吐いた。

「それにしても、ラフィーナさまに喧嘩を売って立候補なんてするだけあって、なっちゃいないな。我が国の姫殿下は。こう言ってはなんだが、あまり頭がおよろしくはないようだ」

 そのストレートな物言いに、エメラルダがすまし顔でツッコミを入れる。

「ちょっと、不敬よ、サフィアス。いくらあなたが四大公爵家の人間であっても、皇女殿下をけなすようなことを口にするべきではないのではなくって?」

「そうか? 君だって、姫殿下は民衆になれなれしくし過ぎだと言って悪口を言っていたのではないか?」

「私のは正当な批判、あなたのは誹謗中傷。一緒にしないでいただけるかしら? 私のお茶会を欠席して民草であるメイドの実家に遊びに行くなんて言語道断。貴い血筋に相応しい振る舞いを考えていただくのが当然よ」

 すまし顔で紅茶をすするエメラルダに、サフィアスはやれやれと首を振った。

「まぁ、君の言うこともわからないではないがね。だが、オレの話にも少しは耳を傾けてくれよ。このままではミーア姫殿下は確実に負けるよ」

「あら、やっぱり不敬。我が国の姫殿下が、小国の公爵令嬢なんかに負けるとお思い?」

「ヴェールガを小国呼ばわりとは、君だってずいぶん不敬だと思うけどねぇ」

 呆れた様子で首を振り、サフィアスは言った。

「いいかい? エメラルダくん。ミーア姫殿下ははっきり言ってやり方が下手すぎるよ。教室で騒ぎを起こしたりとか。もっと静かに、目立たぬように裏工作をすべきなんだ。派手に敵対なんかすべきじゃない。気づいたら勝ってたぐらいでちょうどいいというのに駆け引きが下手すぎるんだよ」

 姑息な笑みを浮かべ、自らの考えを開示するサフィアス。奇しくも彼の姑息な考えは、ミーアの思考と奇跡的な一致をみたのである!

 実になんとも、小物臭の漂う少年である。

「まぁ仕方ない。ここはこのオレが直々に姫殿下に教授して来よう。その代わりといってはなんだが、生徒会長の座に就いた暁には、このオレを副会長に推薦してくださるように掛け合ってみるとしよう」

 それから、サフィアスはエメラルダの方に目を向けて言った。

「ちなみに、君はどうするつもりかな? エメラルダくん。グリーンムーン家の意向はどうなっているのか、聞けるものなら聞いておきたいけど……」

 エメラルダはわざとらしく、きょとんと首を傾げてから、

「興味ないですわ。生徒会なんて。まぁ、ミーア姫殿下がどうしてもとおっしゃるなら、やってあげないこともないけれど」

 あっけらかんと言った。それから、クスクスと笑い声をあげた。

「しかし、父さまもだけど、ずいぶんと役職にこだわるのね、殿方というものは。私にはとても理解できないけど」

 それから、目の前のケーキを切り分けながら、

「まぁ、せいぜい頑張りなさい。別に手助けはしないけど、邪魔もしないから」

「そうかい。それじゃお言葉に甘えようかな」

 こうして、策謀家を気取る二人は、意味深な笑みを浮かべて笑いあう。

 …………ちなみに、確認する必要もないと思うが、四大公爵家の人間にはミーアと同じ帝室の血が流れている。ミーアと同じ血が流れているのである。

 まぁ、だからどうした、ということもないのだが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 帝国の血ポンコツだな?
[一言] ティアムーン帝国、よくそんな一族で繁栄を謳歌できたなw建国の父の話も面白そう。
[一言] 帝室の血は小物ってことですか。帝国大丈夫ですかね
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