第百六十一話 た、宝の……地図!?
ミーア(featキースウッド)プレゼンツの大・キノコ狩り会当日の朝。
「うう……ん?」
カーテン越しに入ってくる日の光に、ミーアは目を細めた。ゆったりと、優雅に上半身を起こしてのびのびーっと体を伸ばす。
それから、窓の外に目をやって……。
「ふふふ、晴れましたわね! これは、良いキノコ狩り日和なのではないかしら?」
雲一つない青い空、降り注ぐぽかぽかとした日差しは、冬の寒さを和らげ、気持ちの良い一日の始まりを予感させていた。
ううん、っと伸びをもう一つ。それから、ミーアは忠義のメイド、アンヌに声をかける。
「さぁ、アンヌ、それでは、着替えて準備いたしますわよ?」
本日の服は、動きやすさを重視した長そで、長ズボンだ。
厚めの生地のため、草木で肌が傷つくことはない。
ミーアのすべすべした玉のようなお肌を守るべく、アンヌが選んだ一着だ。ついでに滑り止めのついた手袋も準備している。これならば多少、毒のあるキノコでも触っても大丈夫だろう、と確信を持っているミーアなのである。
……ヤバいかもしれない。
――ふむ、しかし、この服、ジャストサイズですわね。昨日の紫のドレスもそうでしたけど、アップルパイを食べ過ぎたと思いましたけど、やっぱり勘違いでしたわね!
ふぅっと安堵のため息を吐くミーアである。うっかり、食べ過ぎてFNYったかも? なぁんて思ったけど、無用の心配だったみたいだ。
――どうも、わたくしは心配しすぎることがございますし、気を付けねばなりませんわね。
などと思うが……ちなみに、成長期のミーアのために、アンヌが、日夜、服のサイズの微調整をしていることなど、思いも寄らないミーアなのであった。
さて、そうしてキノコ狩り仕様の服に着替えたミーアは朝食を始めとした朝のルーティーンをササッと終えてから、送迎用の馬車に向かった。
全員を乗せた馬車が出発したのは、それから半刻ほど後のことだった。
目的地である森は、領都サリーデルのほど近くにある森だった。
「なかなか大きな森ですね。外敵が侵入してきた際には川と両都の城壁、それに、この森を戦場として遅滞戦闘を行うということですか……。なるほど」
なぁんて、ディオンが物騒なことをつぶやいていたが、ミーアの関心はすでに、目の前の森に眠るキノコのみであった。
――どのような珍しいキノコがあるのか……ふふふ、見たことも無いようなキノコがあると良いですわね。どんなお味か、楽しみですわ。
見・た・こ・と・も・無・い・よ・う・な! キノコを食べる気満々のミーアである。
……ヤバいかも……しれない。
さて、森の前、これからの段取りを整えよう、というところで、キースウッドが音もなく歩み寄ってきた。自分に用か? と首を傾げるミーアであったが、彼はそのまま、そばにいたルスティラのところに行き……。
「ところで、ルスティラさま、つかぬことをお聞きしますが……ルスティラさまがお持ちになられていたアップルパイは非常に素晴らしいお味であったとお聞きしています。あれは使用人に作らせた物かと思うのですが……もしや、ルスティラさまご自身も料理に精通されているのでしょうか?」
「ふふふ、そうですね。料理は趣味にしていますよ」
前大公夫人ルスティラは、その問いかけに上機嫌に答える。
「そうなのですね。では、もしや、ナホルシアさまも……?」
その問いかけに、ルスティラはゆっくりと首を振り……。
「いいえ。ナホルシアはなんでも完璧にこなせるくせに、お料理にだけは興味がないみたいで」
などと言う答えを聞き、目に見えて、キースウッドが肩を落とすのが見えた。けれど、すぐに気を取り直した様子で顔を上げて、彼は口を開いた。
「ですが、ルスティラさまは……料理に詳しいということは、もしやキノコに詳しいとか、そういうことは……」
「…………キノコ」
っと、一転。ルスティラが眉をひそめた。むっすーっとした顔で、キースウッドを見て。
「私は、あまりキノコは食べないのよ。だって、美味しくないし……」
どこか幼い子どものようなその顔に、ミーアはなんとなく見覚えがある気がした。
――ああ、そうですわ。このお顔……パティも来たばかりの頃は、キノコを見てこんな顔をしておりましたわね。
キノコのシチューを前に、すっごーく不機嫌な顔をしていたのを思い出す。
――パティは食べず嫌いでしたし、恐らく、ルスティラさまもあまり食べたことがないのではないかしら……? 一度でも食べたことがあれば、嫌いになるなんてことはあり得ませんし……。
あるいは、もしかしたら、見た目が悪いけど、美味しいキノコに出逢ったことがないのかもしれない。
――見た目が妖しくても食べられるってことを証明して差し上げると良いかもしれませんわね。よし、今回のキノコ狩りの目標は、あまり食べられなさそうなキノコにしましょうか……?
若干、危険思想に陥りつつあるミーアであったが……まぁ、それはどうでもいいとして。
――それにしても、案外、この方、パティと話が合うかもしれませんわね。
ふと、そんなことを思う。
いつか、過去に帰らなければならないパティ。
もしかしたら、このルスティラも、彼女の味方になってくれるかもしれない。
――帰ったら、パティに一応、話しておこうかしら……。
っと、ミーアにしては真っ当なことを考えている隙に、渋い顔をしていたキースウッドは一転、澄まし顔に戻り……。
「実は、ミーア姫殿下のご要望にお応えして、我々のほうでこのようなものを準備しておきました」
「はて……? 準備、ですの?」
突然の言葉に小首を傾げるミーア、キースウッドは深々と頷き、懐から取り出した……一枚の紙を……!
そうして差し出されたものを見て、一番に反応を示したのはミーア――ではなく、冒険姫ベルだった!
「お、おおっ……こ、これは……」
ベルが震える声で言って……厳かとも言える態度で、それを受け取る。まじまじとそれを見つめて、一言……。
「宝の……地図!」
そうなのだ……。誰の発案かは定かでないが……それは、巧みに冒険姫の心をくすぐる、謎めいた宝の地図だったのだ!




