第百六十話 クラリッサ、ミーアの意向を完全に読み取る……読み取る?
「なるほど。サンクランドの名門、オリエンス大公家のご令嬢であれば、おいそれと無礼は働けない。適任というわけか……」
アベルは、腕組みしつつ唸る。
「ええ。それに、女大公ナホルシアさまは、研究熱心な方。知識の重要性は、その娘たるロタリアさんにも身についているのではないかと思いますの」
サンクランド式温室のことを誇らしげに説明していたロタリアのことを思い出す。
「レムノ王国のご令嬢たちに知識を身に付けていただく意義を、揺るぎなく理解している方だと思いますわ」
「それは……とても大切なことかもしれません」
クラリッサは、ちょっぴり暗い目で……。
「反対する者は多く、責める者も多いでしょう。それは、敵だけでなく、もしかしたら味方のはずの、教育を受ける生徒たちの中にもいるかもしれない……。だからこそ、ブレない信念をお持ちの方が必要なのではないかと思います」
とりあえず、同意してもらえたことにホッとしつつも、ミーアは続ける。
「ただ、オリエンス家の方たちも不安を持っているみたいなんですの。異国の地、それもレムノ王国の伝統を考えると、楽な道ではないでしょうし……」
「ああ、それはそうだろうな……。我が母国のことだから他人事にはできないが……」
っと心配そうな顔をするアベルに、ミーアは首を振った。
「それを変えていくためにも必要な人材だとは思いますけれど……。話を戻して、まずは、クラリッサお……うじょ殿下のことをよく知っていただくのがよろしいと思いますの。女学園構想を進める方がどんな人物なのか……」
えてして、見ず知らずの他人の言葉は心には響かないもの。ある程度は人となりを知ってもらうことが必要なのではないか! っと訴えた後、ミーアは自信満々に、言った!
「そこで、明日は天気が許すようでしたら、オリエンス領の森で、キノコ狩りに行こうと思っておりますの」
その言葉に、クラリッサは一瞬黙り込み、パチパチ、っと瞳を瞬かせた後、
「え……? キノコ狩り……ですか?」
怪訝そうな顔をする。そんな未来の義姉にミーアは自信満々に頷いた。
「ええ、そうですわ。楽しくオリエンス家の面々と親睦を深めていただいて……。そして、クラリッサ王女殿下のことを知っていただくのですわ! そうして、クラリッサ王女殿下ご自身のお言葉で、ロタリアさんに語りかけていただきたいんですの」
「なるほど、確かに……そのとおりです。これは、他の誰に押し付けるものでもない。説得の役割は私がこなすべきこと……私自身の言葉でやらなければなりませんね……」
ぐぐっと肩に力が入るクラリッサに、ミーアは安心させるように微笑みかける。
「そう緊張せずとも大丈夫ですわ。正面切って会談という形よりは、キノコ狩りをやりながらのほうが気持ちも解れると思いますし」
とりあえず、みんなでたくさんキノコ採ってきたら、大体の問題は解決するだろう……という、非常に大雑把な考えを出発点として、理屈を組み立てていくミーアである。
「身構えたところに斬り込むよりも、まずは遊びながら……。互いに柔らかな心で接しあうことこそが大事だと思いますの」
「柔らかな心……」
クラリッサは真剣な顔でつぶやいて……。
「柔軟に、融通無碍に、一つの型にとらわれない姿勢こそが大切、と……ギミマフィアスも言っていましたが……。そういうこと、でしょうか!」
言いつつ見つめてくるクラリッサ。その瞳に、こう……なにやら燃えるような戦士の空気を感じ取りつつ……。
「え……ええ、ま、まぁ……、そんな感じ? ですわ……たぶん」
それは、微妙に違うんじゃないかなぁ……っていうか、思考が外交交渉じゃなくて剣の立ち合いになってないかなぁ!? っと思わなくもないミーアだったが……まぁ、それはおいておいて。
ともかく、ミーアは一つの確信を持っていた。
そう、キノコ狩りは楽しいのだ。
目くるめく、色とりどりのキノコを前にして、楽しくない人などいない、と確信しているミーアである。
――美味しそうなキノコを目の前にすれば、些末なことなどどうでもよくなってしまうはず。目の前のキノコに夢中にさせて、それどころじゃない事態にして差し上げますわ!
別の意味でそれどころじゃない事態になりそうなんだけどー! っと一番に主張したい某氏は、今この場にはいない。
今ごろは、他の同士たちと共にキノコ狩りツアーの綿密な安全対策を練っているところだ。
赤いのとか、怪しげな斑点がついてるのとか、形容しがたき形状的に見ただけで正気度が削られそうなのとかは、とりあえずおいておいて……食べられるのと見分けがつきづらいキノコをピックアップすることに全身全霊を尽くしているのである。
……かくして、オリエンス大公家騒動の締めを飾る大キノコ狩り会が始まる。
クラリッサとロタリア、イスカーシャたちの交流がなにを生むのか……キノコ狩りに絶対的な自信を持つミーアを含め、誰も知らないことなのであった。




