第百五十八話 ミア充
一通りの挨拶が済んだところで、アベルとクラリッサは客室に案内されることになった。
「いろいろとお話をお聞きしたいところだけど、旅の疲れもあるだろうから、晩餐会まで休んでもらいたい」と言うナホルシアだったが、直後、チラリ、とミーアに視線を送ってきた。
それを受けて、ミーア、察する。
――ああ、なるほど、話を円滑に進めるために、事前に情報を共有して準備をしておけ、ということですわね。
そう解釈したミーアは、時間をおいてからアベルたちのところに向かった。意気揚々と……。
ちなみに、アベルとイチャイチャしたかったから、ではない。断じてない。
あくまでもナホルシアの思いを汲んでのことだ。
帝国の恋愛脳とかピンク色の脳細胞とか揶揄されがちなミーアであるが、さすがに、シオンとティオーナがうらやましかったから、自分もイチャイチャしたいぞぅ! とか、そんな浮ついたことを考えてはいないのだ!
ということで足取りも軽やかに、なんだったらステップなんか踏んじゃったりしつつ、ミーアはアベルの滞在する部屋へとやってきた。
…………浮ついたこととか、本当に考えていない……いないったらいないのだ!
「失礼いたしますわね、アベル。いらっしゃいますかしら?」
コンココンッとノックして、部屋に入る。っと、アベルは窓の外を眺めていた。わずかばかり憂いを含んだ、かすかに緊張の見えるその顔に、ほわぁ、っと吐息をこぼすミーア。っと、アベルはこちらを振り返るや否や、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「やあ、ミーア。ひさしぶりだね」
日の光を受けた優しげなその顔に、ミーアは思わず、トックゥン! とする。
「え、ええ、アベル、お元気そうで何よりですわ」
ニコニコ笑みを浮かべつつ室内へ。辺りをキョロキョロと見回す。どうやら、クラリッサはいないようだった。イチャイチャし放題だ! やったぜ!
「クラリッサお姉さまと打ち合わせにきたのかな?」
ミーアの視線を勘違いしたのか、アベルがちょっぴり残念そうな顔をする。が……。
「あ、ええ、もちろん、それもそうなのですけど、その前にアベルと少しお話ができればと思っておりましたの」
そう言うとアベルは、一瞬、きょとんっとした顔をしたか……。
「ああ、そうだったか。ボクと話に……それは、なんというか……」
っとちょっぴり恥ずかしげに目を逸らしてから、
「うん、すごく嬉しいな……」
「ミーアさま、それでは、私はお茶のご用意をお願いしてきますね」
不意に、ミーアの後ろに立っていたアンヌが、そんなことを言ってきた。
どうやら、二人きりにしようと気を使ってくれたらしい。
素早く、しゅしゅっと部屋を出ようとするアンヌ。っと、ドアを開けたところで、うわわっ! っと声が響いた。
驚いて目をやると、そこにはベルとシュトリナ、リンシャの姿があって……。
「あっ……」
口をぽっかーんと開けたベルだったが、次の瞬間、スチャッと姿勢を正し……。
「いえ、違います。違いますよ? ボクは別に野次馬をしようとしたわけではなくって。全然、ミーハーとか、そんなことはなくって、ただ、その……そう! 未来の帝室の安寧を見届ける義務がですね……?」
などと、ペラペラ~と言うベルに、シラーッとした目を向けていたミーアだったが……。ベルは、そのままもにゅもにゅ言いながら、その場を去って行った。
――あの子……誤魔化すのが下手ですわね。ううむ、野次馬をするにももう少し、バレないようにすればいいですのに……まだまだ詰めが甘いですわ。
などと呆れつつ、咳ばらいを一つ。気持ちを切り替える。
「ところで、アベル。ここまで来るのに、結構、時間がかかりましたのね」
「ああ、そうなんだ。昨日、報せを走らせてから、馬車の車輪が壊れてしまってね。直すのに手こずったんだが……」
それから、アベルは悪戯っぽい笑みを浮かべて、
「君たちの雄姿を見られなくって残念だよ。先ほどシオンに聞いたんだが、すごいな。馬上弓術でオリエンス家のご令嬢たちに勝負したんだって? しかも勝ったと聞いたけど」
「ああ、そうなんですの。ティオーナさんと協力して……。ふふふ、ティオーナさん、かなりの弓上手でビックリしてしまいましたわ」
謙遜しつつも微笑みを浮かべる。っと、アベルもそれに合わせて優しい笑みを浮かべて。
「ははは、それはぜひ見たかったね。君の乗馬術はたいそう勇壮なものだから」
そんなアベルの言葉を嬉しく思いつつも、ミーアは、ちょっぴり頬を膨らませて、
「まぁ、アベル、『勇壮』というのは、あまり年頃の令嬢にかける言葉ではありませんわよ?」
どちらかというと、可愛いとか美しいとか、そういったストレートな評価を好むミーアである。勇壮とかFNYFNYしいとか、そういうのはあまり好みではないのだ。
「おっと、それはすまない」
っと、アベルは少しばかりオーバーな困り顔を作ってから、
「では、お詫びに……これで許してもらえるだろうか?」
ミーアに一歩歩み寄った。
え? え? っとミーアが戸惑っている間に、スッと手を伸ばし、ミーアの髪に触れて、一歩下がった。
「あ、アベル……なに、を?」
っと、戸惑うミーアだったが、頭に手をやって、
「あら? これは、櫛……?」
そんなミーアを、アベルは客室の鏡の前に案内した。
「実は、町で素敵な髪飾りを見つけてしまってね。ミーアに似合うんじゃないかと思って、思わず買ってきてしまったんだ」
その言葉の通り、ミーアの髪には金色に輝く三日月を模した櫛がつけられていて……。
「君はあまり装飾を好まないのは知っているけど……これなら気に入ってもらえるんじゃないかと思ったんだ。受け取ってくれるかい?」
ちょっぴり上目遣いにそんなことを言われ、ミーア、ほわわっと口を振るわせtから、
「アベル……ああ、困りましたわ。わたくしの、手放せない宝物が増えてしまいましたわ」
髪飾りに軽く振れ、ミーアは、頬をぽーっと赤くした。その顔は、ミーアにしては珍しい、恋する乙女のような顔で……。
「ありがとう、アベル。これ、すごく素敵ですわ。わたくし、大切にいたしますわ!」
「ふふふ。そうか。気に入ってもらえたならなによりだ」
……こう、なんというか、すごぉくイチャイチャ……青春してる二人なのであった!




