表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1543/1546

第百五十二話 アップルパイにジャムを塗る

 ミーアはヒントを求めて、じっくりとオリエンス家の面々の顔を観察する。

 ――カギとなるのは、やはりナホルシアさまと、ルスティラさまかしら……。ふぅむ、なにか、お二人を説得できるようなものがあるかどうか、うーぬ……。難問ですわ。

 とりあえず、口寂しかったのでカップに手を伸ばし、三分の一ぐらい残っていた紅茶を飲もうとして……。

「ああ、ミーア姫殿下。紅茶が冷めてしまったのではないかしら。淹れ直しましょうか? 実は、とても美味しいジャムをお持ちしていますのよ。甘くて香りが素晴らしいものなのだけど、一緒にいかがかしら?」

 ルスティラの言葉に、ミーア、ハッと目を見開く。

「まぁ、美味しいジャム……?」

 思わず、ルスティラの顔を見つめる。その穏やかな笑みに、先ほどの美味しいアップルパイが思い出された。

 あの大変に美味しいアップルパイを持ってきた人物が「とても美味しい」「あまぁい」とお墨付きを出したジャムである。

 そんなもの……ジャムに紅茶を入れて、飲まないわけにはいかないではないか! ジャムに紅茶を入れて! 飲まないわけにはいかないではないか!!

 ということで、ミーアはにっこ―りと笑みを浮かべて……。

「ああ、それは……」

 ぜひ……と言いかけ、そこで気付く。自身に突き刺さるようにして向いている……強い視線を……。

 ――あ、あら、なにかしら……? これは……あっ!

 辺りをキョロキョロして、そこで、ミーアは見つけてしまう。

 こちらをジロリっと睨むようにして見つめる、忠義の専属メイドの視線を。

 アンヌが、じっと、じぃいっとミーアを見つめている。じぃいいっ! と見つめている!

『ああ、ミーアさま……紅茶にジャムなんか入れたら、もう……』

 などと言う、アンヌの声が聞こえてくるかのようだった。いや、これ、本当に聞こえてない? というぐらい、はっきりと頭の中に響いた。

 ちなみに「もう……」の後が、なんなのかはあえて考えない。怖いので……。

 そうして、ミーアはようやく……ようやく自らの行いを省みることにした。そうして、自覚する。

 ほんのちょっぴりだけど、食べ過ぎてしまったことを……。そう、本当に、ほんのちょっぴりと、だけど……。

 ――ああ、そうですわね。さすがにアップルパイをペロリし過ぎましたわね……。甘いお紅茶もとても魅力的ですし、ジャムもすごぅく美味しそうではありますけど、くぅっ、さすがにここで踏みとどまらねば、アンヌに怒られてしまいますわね。

 いささか、遅きに失した感は否めないが……それでもミーアは踏みとどまった。見事に踏みとどまったのだ! 本当に、そうだろうか……? という疑問はさておき……。

 ということで、ここはジャムの代わりに涙を呑んで、紅茶のスイーツ化を断念する。

 そうしてミーアはルスティラに笑みを向けて……。

「ええ。それは……非常に魅力的なご提案ですけれど……今回は遠慮いたしますわ」

「あら、そうですか?」

「ええ。先ほど食べたアップルパイの余韻が口の中に残っておりますので、それを大切にしたいと思いますの……」

 あのシャク、っというリンゴの素敵な歯応え。心地よい香草の香りとサクサクのパイ生地。しっとりとした生地から湧き出るあまぁいシロップの味……。それらを思い出しつつも、ミーアはゆっくりと首を振る。

「それに、今は、そのジャムの甘味を十全に楽しめないようにも感じますわ。今、紅茶にジャムを入れることは、甘いアップルパイにジャムを塗ることに似た、無駄を感じてしまいますの」

 無論、本心ではない。ただ、食べなくていい理由を、それっぽく考えて、自分に言い聞かせているだけである。

「甘いパイに甘いジャムを塗るのは、少しもったいないですわ。無駄になってしまいますもの。ジャムは、渋いもの、甘くないものに塗らねば、その真価を発揮できないものですから」

 革命期を知るミーアは無駄を嫌うのだ。

 ジャムは、できるだけ美味しくいただかないと、もったいないと感じてしまう、まっとうな感性の持ち主だったのだ。

 あの、一切の甘いものを食べられなかった、辛い日々を思い出せ……っと自分に言い聞かせるミーアである。

 っと、そんなミーアのその言葉に、反応を示す者がいた……。

 それは、ジッと黙って話を聞いていた、イスカーシャだった!

「……灯火が必要なのは日の光輝く朝昼にあらず……宵闇の中でこそ、その輝きは道を照らし、人々の助けとならん」

 彼女が厳かに諳んじたのは、神聖典の一節だった。それから彼女は、ミーアに顔を向け……。

「すなわち、我がオリエンス家の者が……いえ、ロタリアが……力を発揮できるのは、サンクランド国内ではない。夜闇のようなレムノ王国である、と、そうおっしゃっているのでしょうか?」

 ミーア、その言葉に、はて? っと一瞬、小首を傾げそうになるも、ふんぬっと気合で踏みとどまる。それから、傾げそうになった首をぐりん、っと縦の頷きに軌道修正し……。

「ええ……まぁ、そんな感じですわ……」

 たぶん……っと心の中に付け足す。っと、イスカーシャは納得した顔で……。

「なるほど。つまり、未だに厳しい男尊女卑が残った国……レムノ王国でこそ、ロタリアの光のような働きは真に生かされると……ミーア姫殿下はそうおっしゃっているのですね」

 重ねての問い、今度は意味をしっかりと捉えたうえで、ミーアは、しかつめらしい顔を作ってから、もっともらしく、ゆーっくりと首肯してみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
……運動&おやつ抜きの期間が一週間では……済まないかもしれないな、このままだと。
>アップルパイにジャムを塗る FNYマシマシな禁断の組み合わせですね。 でも、こっちの世界にも似たようなものがあるんですよ。 某次男系なラーメンみたいな? アブラマシマシとかありますからね! ミーア…
味を思い返して我慢すること覚えたし少し燃費が良くなる可能性…?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ