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第百四十六話 帝国の叡智は逃げられない!

「もっとも、わたくしとしては、どんな王が統治者として立っても、極端なことを言えば、王がなにもせずサボっていたとしても、国が問題なく回ることこそが、国の誉れだと思いますけれど。だってそれは、臣下がしっかりと国を支えているということになりますもの」

 冗談めかした口調で言った後、

「ふふふ、それが、わたくしの理想ですわ」

 などと、思わず本音がポロリする。

 っと、ミーアの後ろ、ルードヴィッヒが、ご冗談を、っと言った感じで苦笑いを浮かべている。ベルやシュトリナも、まーたミーアが冗談言ってるよ、しょうがないなぁ、みたいな顔で笑っている!

 そして、アンヌは……、

「先ほどの乗馬とアップルパイ二個で帳消しになる……かな?」

 真剣な顔で、ミーアの健康を心配していた!

 まぁ、それはさておき。

「王の個性を一番にせよ、とは言いませんけれど、王の人としての感情を完全に殺せと言うのも乱暴な話なのではありませんの?」

「王の感情……ですか?」

 ナホルシアが眉をひそめ、シオンに目を向ける。イスカーシャもどこか困惑した様子でシオンのほうを見た。

 一方でミーアは……、

「あら、シオン、オリエンス女大公には何も言っておりませんでしたの?」

 とぼけた様子でそう言って……。

 ――ふむ、これは……なかなかドラマチックな場面に立ち会えるかもしれませんわ!

 ちょっぴり興奮していた!

 少し離れた席で、ミーハーベルが、同じく、おっ! これはっ! という顔で、ワクワクしていた。

 似た者同士の祖母と孫なのである。

「む……ぐっ。ミーア、君は、相変わらず、手厳しいな……」

 シオンは、ちょっぴりバツの悪そうな顔をしてため息を吐く。

「しかし、そうだな……。これは始めに言っておかなければ、礼を失することであった」

 小さく咳払いしてから、シオンはティオーナのほうに目を向けて、

「私は、そちらにいるご令嬢、ティオーナ・ルドルフォン嬢に心惹かれている。生涯の伴侶になってくれるならば、これ以上のことはない、と思っている」

 堂々たる愛の告白。それを受けて、ティオーナが、仄かに頬を染めた。

「…………なっ、え? ちょ、え?」

 困惑のつぶやきを漏らしたのは、イスカーシャだった。

 シオンとティオーナの顔を交互に見比べて、はぇ……? っと声を漏らす。

 万能の天才ナホルシアの才覚を色濃く受け継いだ、オリエンス家の才女も、こと恋愛方面においてはいささか疎いようで……ただただ、戸惑いを露わにするばかりだった。

 一方で、ある程度は事情を察していたランプロン伯、ロタリアは、ああ、やっぱりか、と納得の頷きを見せている。

 前大公夫人のルスティラは、あらまぁ! と楽しそうだ。どうでもいいが、ここに来てからずっと楽しそうである。そろそろ、一言あってもいいんじゃないか? と思うミーアである。

 セドリックも同様に、これはこれはっと微笑んでいる。彼に関しては、娘をとられずホッとしているのもあるかもしれないが……。

 そんな中……ただ一人、ナホルシアだけが、愕然とした顔をしていた。

「オリエンス家の……サンクランド式温室の影響力を減ずるために、ルドルフォン家との縁談を望んだわけでは、なかったのですか……?」

「いや、そんなつもりはない。あくまでもこれは、俺自身の想いによるものだ。王として立つ時、彼女に隣に居てほしいと思った、俺自身の想いによるものなのだ」

 ――ふむ、王として十全に力を発揮するため、とか言っておけば納得も得られたでしょうけど。それは言い訳臭いから潔くない、とでも思ったのかしら? 相変わらずシオンは、真面目ですわね。

 ちょっぴり呆れつつも、ミーアは口を差し挟まない。

 見たかったものが、今まさに、目の前で展開されているからだ。

 ここは(かんきゃく)に徹するべきである。

「しかし、それは……そんなことが、許されるのですか?」

 不意に、声。

 それは、ナホルシアの声。

 されど、ミーアは一瞬、耳を疑った。

 なぜなら、そこには、少し前まで会った強硬な響きがなかったから。

 保守派の重鎮、サンクランド貴族の中核、王にサンクランドの正義を説く自浄の家の当主、その威厳に満ちた声ではなかったからだ。

 それはまるで、まるで……。

 ――答えを求めて悩みの沼に沈んだ学徒のような……いえ、道に迷った幼子のような……。

 弱々しい声なれど、ナホルシアは続ける。

「王が、自らの感情によって決定を下す、王でありながら私情を優先した行動をとる……それは、許されるのでしょうか?」

 ナホルシアの視線は、なぜかシオンから外れ、別の場所に移る。

 それが向いた先、そこにいたのは、彼女の母、前大公夫人、ルスティラ・ソール・オリエンスのもとだった。

 ルスティラは、それを受け、ゆったりと微笑んでから、

「どうお思いですか? ミーア姫殿下」

 なんと、これを華麗にスルー! ミーアに打ち返してきた!

「おっ、ぁ、わたくし、ですの……?」

「第三者のお考えがお聞きできれば、女大公も冷静になれるのではないか、と思いますの。帝国の叡智のお考えをお聞きする機会も滅多にないでしょうし……ぜひ、お聞きしたいのですけれど……」

 恋愛劇の観客には、まだまだなり切れないミーアであった。

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― 新着の感想 ―
ギロちん「もしかして、その流れでサボれると思った?ミーア、君は本当に甘いねえ」
王がいなくても国が回る 理想と言えばそうだけどそれはそれでこの時代だと誰にも追いつけない考えではあるんですよね 先進的すぎるというか ミーアが今の日本とか外国の王族たら普通に羨ましがりそう それと君臨…
なんという熟練のスルー! これはルスティラさんくらいにならないとなかなかごろ寝暮らしはできそうにないですねミーア様。
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