第百四十話 結果発表!
――あ、あら……これって……。
青と赤の旗が同時に振られるのを確認し、ミーアは思わず小首を傾げた。
「同時ゴール……ということでよろしいのかしら? となると、問題は的の数ということに……?」
などと思っている間にも、素早く的が外されて、中央の審判台の下へと集められていく。
東風を降りたミーアも、のっそりと、そちらに向かって歩いた。
やがて、見えてきた的を見て、ミーアは思わず歓声を上げる。
「おお! これは……」
パッと見ただけでもわかる、達人の弓技の冴えが、そこにあった。
青い的のほうは最初に三つが的の中心を外しているだけで、他のものは全て見事にど真ん中を射抜いている。
――揺れる馬上、それもあの速さの中で、よくこんなに当てられましたわね……。すさまじい腕前ですわ。
感心しつつも、ミーアの目はギロチンレッドの的、すなわち自分たちの的のほうに向く。
――それにしましても、ティオーナさん……本当に、すんごいですわね……!
思わず、心の中で唸ってしまう。
赤い的に刺さった矢は、ことごとく、その中心を捉えていた。一矢すら、外すことはなかったのだ!
パーフェクトだ! その結果に、ミーアは思わず戦慄する。
――これ、普通に地面に立ってじっくーり狙っても、なかなか、こうはいかないんじゃないかしら?
少なくともミーアには無理だった。
というか、ミーアの場合、十回も弓を引いたら筋肉痛になってしまうかもしれない。
なにしろ、ミーアは大帝国のお姫さまなのだ――間違いなくお姫さまのはずなのだ!
そして、普通は、大帝国のお姫さまはフォークより重たいものを持たないものなのだ。
まぁ、もっとも……同様に重たいものを持たないはずの皇帝陛下は、現在、絶賛、筋トレ中で、重たい壺などを持って屈伸するのが趣味になっていたりするし、ミーア自身、二の腕をシュッとさせるために、時々重ための本を持って腕をぶんぶんさせたりすることもあるのだが……まぁ、それはさておき。
――やはり、ティオーナさんとは今後とも、仲良くしておくのがよろしいですわね。
従者のリオラともども、敵に回してはいけない存在である、と再確認させられるミーアであった。
というか、前の時間軸、よくそんな二人を敵に回して無事だったものである。
ディオン・アライアとルールー族の狙撃手とティオーナを敵に回す……? しかも、サンクランドからシオンが軍を率いてくるし、その後ろ盾に子猫になる前の、凛々しき獅子、ラフィーナがついているという……。
――今にして思うと、恐ろしい状態だったのですわね……。ううぬ、気を付けなければ……。
ともあれ、今は勝利を喜ぶべきところだろう。
ミーアは改めて、ティオーナのほうを見た。
「ティオーナさん、やりましたわね。さすがですわ!」
そう言うと、ティオーナはちょっぴり頬を赤くして……。
「はい、その……帝国の栄光を表すことができたでしょうか?」
「ふふふ、それ以上ですわ。あなたの弓の腕と東風の走りは、我がティアムーン帝国の誉れですわ」
むしろ、シオンにあげてしまうのがもったいないぐらいですわ……! と心の中で付け足しつつ、ミーアはナホルシアのほうに目を向けた。
ナホルシアは、ただ黙って、的を見つめていた。
「お母さま、申し訳ありません。不甲斐ないところを……」
っというイスカーシャの言葉を、片手で止めて……。
「……相手のほうが一枚上手だったというだけのこと。それを認めないのは狭量というものです」
そうは言うものの、その声は、どこか苦味のあるものだった。
それはまるで、始める前から結果が見えていた戦に、予想通りに負けてしまった時のような……あるいは、このケーキを食べたら、きっと後悔するだろうけど、でも、もしかしたら! っとわずかな可能性に賭けた結果、悲惨な結末を突きつけられてしまったどこかの皇女殿下のような……そんな雰囲気……。ミーア自身も経験のある、最初から負けを覚悟した者の纏う雰囲気だった。
「オリエンス女大公、どうやら、勝負はミーア姫殿下たちの勝ちのようだが……」
そんなナホルシアに、シオンが語りかける。
「シオン殿下……」
その顔を見てナホルシアは、小さく息を吐く。
「正直なところ、蚊帳の外に置かれてしまった私としては、ご令嬢方の勝利の果実を誇るような真似は潔しとは思わない……。だが、せめて話ぐらいは聞いてもらいたいと思うが、どうだろう?」
「話……? シオン殿下、あなたは、サンクランドの王となられる方でしょう。あなたが決めれば、我らは反対することはできない。それが、サンクランドの古来よりの定め」
「その定めを変えたいと考えているのだ。そのために、あなたにはぜひ、協力してもらいたいと思っているのだが……」
ナホルシアは一瞬、黙り込み、それから静かに首を振って……。
「あら、これは……面白そうなことをしていますね」
直後……穏やかな声が、聞こえた。
そちらに目を向けると、すっと姿勢の良い老女が立っているのが見えた。その老女のかたわらにキースウッドの姿を見たミーアは、一瞬……。
――むっ! もしや、わたくしのキノコ狩りを牽制するために連れてきた、地元のキノコガイドの方では!?
ただものではない雰囲気に、そんなことを思うも、すぐに、ルードヴィッヒが隣に立ったのを見て……。
――ああ、なるほど。では、あの方が、ルスティラさまということですわね。
前大公夫人ルスティラ・ソール・オリエンスと思しき女性は、そのままナホルシアのほうに顔を向け、
「帝国の方々と弓術三本勝負だなんて……こんなに面白い催し物、どうして、呼んでくれなかったのかしら?」
静かにナホルシアを見つめた。




