第百二十八話 新旧……
「勝負の三本目は、馬上弓術を予定しています」
「馬上弓術……ですの? その名の通り馬に乗りながら、弓を射ていくということかしら?」
「ええ。二人一組で乗馬し、一人が前に乗って馬を駆り、後ろの一人が弓を射るのです」
勝負は練馬場で行われるという。一周、八百mのコースに十個の的を立て、射抜きつつ、駆け抜けるというものだ。
「スタート位置を半周ずらし、外側に置かれた的を射抜いていくのです。先にゴールしたほうに、五十点を獲得します。さらに、的は中央に当てれば十点。その外側から五点、一点と下がっていきます。中央を射抜くのは、熟練の兵士でも難しいでしょうね」
「ほほう、なるほど……。そういった競技なのですわね……」
頷きつつ、ミーアは考える。
――先着の五十点はなかなかに大きいですわね。実質、先にゴールしたほうの勝ちが確定してしまいそうなものですけど……。一概にそうとばかりも言えないかしら……?
場合によっては、馬の速度を落として、的を確実に射抜いていくという作戦もあり得るのかも知れない。これは速駆けではない。あくまでも馬上弓術なのだ。
――ともあれ、相手がこちらより先にゴールし、的を全て完璧に射抜いてしまったら勝てない。であれば、やはり速力は大切ですわ。速さと、的に当てる難易度を天秤にかけて、バランスを見る必要がございますわね。しかし……。
ミーアは、ここに来るまでに見た、オリエンス家の馬たちを思い出す。
――ナホルシアさまに加え、オリエンス家の双子姫も愛馬は月兎馬ですし、いささか分が悪いのは否定できないところですわね。テールトルテュエは良い馬ですけど、月兎馬と速さ勝負では不利ですわ。弓のほうは、まぁ、ティオーナさんに任せておくとして、乗馬のほうでも最善を尽くす必要がありますわ。やはり、問題は、ティオーナさんと誰が馬に乗るか、ですわね……。
はたして、誰が馬に乗るべきか……?
乗馬ができる者というだけであれば、アンヌでも問題ない。
――アンヌとティオーナさんは、以前、狼使いに襲撃された際に助けに来てくれましたし……。相性も悪くないはずですわ。
それに、ミーアは知っている。アンヌが専属メイドとして、乗馬の技術を磨いているということを。
今では、ミーアにも迫る乗馬技術を有していると言っても過言ではないはず。そのことを、ミーアが疑うことはない。
――技術的には何も問題ない。けれど、馬の速力について言えば……、アンヌにお願いするのは少し問題があるかもしれませんわ……。だってアンヌは……。
ミーアは、アンヌのほうをチラリと見て……思う。やっぱり、アンヌでは駄目だ、っと。
そうなのだ……ミーアは見抜いているのだ!
速さを出すためには、乗馬技術が優れているのと同時に……より軽い人間が乗るべきである、と!
――ティオーナさんと二人で乗らねばならぬ以上、やはり重量は検討の余地がございますわ。アンヌはわたくしより身長が高いですし……。その分、重さがあるはずですわ! 乗馬技術は文句のつけようがありませんけど、重さ的には、わたくしのほうが断然いいはずですわ!
…………そうだろうか?
――わたくしのほうが軽いから、馬も速く走れるはずですわ!
…………本当に、そうだろうか?
若干、疑義の生じるようなことを考えつつ、ミーアはうむうむ、っと腕組みする。
――同じ理由で、近衛隊の他のメンバーも選べませんわね。いかに馬を操るのが上手くとも、重量が増えれば馬がバテる。速度で負けますわ。
それに、ないとは思うが、ティオーナが近衛兵の男の兵士と共に馬に乗ったら「そのようなことをする者は、未来の王妃に相応しくない!」とか、揚げ足を取られるかもしれない。
――いずれにせよ、馬に乗るべきは乗馬に慣れていて一番軽い者……、一番! 軽い者! ここは、やはりわたくしが行くしかありませんわね!
……本当に、本当に……そう、なのだろうか?
ミーアは、完璧な論理のもと覚悟を決める。
静かに胸に手を当てて……ミーアは厳かな口調で……。
「ティオーナさん、馬上弓術……わたくしが出ますわ! 東風と共に」
テールトルテュエ種は、月兎馬に速力で劣る。けれど、ホースダンスを共に経験した東風であれば……、馬上弓術もこなせるだろう。むしろ、安定したその走りは適しているとも言えるかもしれない。
ミーアの宣言を受けて、みなの顔に、驚きの表情が浮かぶ。
「そんな、ミーアさま……そのようにお手を煩わせるだなんて……」
そう言いかけたティオーナを、片手を挙げて制して……。ゆっくりと首を振る。
「オリエンス家の姫君たちが出るのであれば、帝国からは、わたくしが出ないわけにはいきませんわ。馬による勝負であれば、わたくしにも貢献できることがあると思いますの」
なにより、ドレスから乗馬服に着替えるためには時間が必要だろう。その分、時間が稼げるというものである。
「そういうわけですから、ティオーナさん、よろしくお願いいたしますわね」
「ミーアさま…………」
目を瞬かせていたティオーナだったが……おずおずと頭を下げて……。
「よろしく、お願いします、ミーアさま」
そんなティオーナの顔を見て、ミーアは小さく首を傾げた。
――しかし、なんだか、奇妙な感じですわね……。わたくしが、ティオーナさんの恋を成就させるために、共に馬に乗ろうだなんて……。なんだか、すごく……不思議ですわね。
前時間軸における恋のライバル!(当ミーア比)であるティオーナの恋を自分が助けているという状況が、なんとなくおかしくて、ミーアはついつい笑ってしまう。
かくて、馬上弓術試合が始まる。
イスカーシャ&ロタリアのオリエンスの双子姫コンビと、ミーア&ティオーナという……新旧ご当地聖女コンビの。




