第九十七話 飽和攻撃を仕掛ける!
都市長を伴って、案内のために前を歩くロタリア。その背中を見ながら、ミーアは考える。
――これはチャンスですわ。ナホルシアさまを介さずして、ロタリアさんと会うことができた。今夜は、ここで泊まる予定ですし、夜を徹してロタリアさんと話ができますわ!
まぁ、実際のところ、ミーアは大抵、夜を徹することなく割と早い時間に寝落ちしたりするわけだが……。それはさておき。
――ロタリアさんのことは念のためにクラリッサお義姉さまにも連絡しておきましたけど、こちらに来られるかはわからない状況。ここはわたくしがガツンと一撃入れておく必要がございますわね。
心の中でレムノ流剣術、第一の構えを取り、しゅっしゅっと始めるミーアである。気分はすっかり、先制攻撃を狙う剣豪だ。
っと、そこで、音もなく歩み寄ってくる者がいた。
「ミーアさま、失礼する、です」
リオラが潜めた声で話しかけてくる。
「あら? どうかなさいましたの? リオラさん」
「あの……ティオーナさまのこと、お願いします、です」
その言葉にミーアは一つ頷いて、
「ええ、もちろんですわ」
それから、横目にティオーナのほうを見る。
なにやら、ロタリアに真っ直ぐな視線を向けているティオーナ。やはり、シオンの婚約者候補を前に、意識してしまうのだろう。
――せっかく、ああして結ばれたのですから、お二人の邪魔はさせませんわ!
グッと拳を握りしめるミーア。
――しかし、次のパジャマパーティーでは、なぜ、あんなことになったのか、しっかりと聞き出さなければなりませんわね。ふむ、良い感じにベルをけしかければ……。
ミーアの、ミーハーベルに対する信頼は厚いのだ。
――それはともかく、いずれにせよ、ナホルシアさまは、なにかの思惑をもってロタリアさんを遣わしたのでしょうから、あまりシオンと接触させないほうがよさそうですわね。ティオーナさんのためにも、恋敵は徹底的に排撃して差し上げますわ! シオンに話しかける隙が無いぐらいに、こちらから話しかけてやりますわよ!
心の中でドデカイ軍配を掲げるミーアである。気分はすっかり、帝国全軍の指揮を取る恋愛大将軍だ!
「時に、ロタリアさま、お聞きしましたわよ? 今度のパライナ祭、サンクランドの企画展示の総指揮をとっておられるとか……」
「いえ、私はあくまでお手伝いをしているだけですから。メインの準備をなさっているのは、シオン殿下です」
素っ気ない口調で言って、シオンのほうに視線を送るロタリア。
その態度は、自身が一歩引くことで、功をシオンに譲るという、将来の王妃像を意識したもののように見えた。
が……ミーアはそれを許さない。
「しかし、サンクランド式の温室は、オリエンス女大公の発案だとお聞きしておりますわ。その説明は、娘であるあなたがなさるのでしょう?」
まさか、自分の母が発明したものの説明までシオンに任せねぇよなぁ!? っと、ミーアは大きく相手に踏み込む。
「ええ、それはもちろんです。そちらについては私のほうで準備を進めてますが……」
「わたくし、あの温室には非常に興味がございますの。天候に左右されず、食料を民に供給することができる……。わたくしの志す、餓え無き世界にとても役立つのではないかと思っておりますわ。さすがは、オリエンス女大公ですわね」
ヨイショを交えて、話を振る。っと、ロタリアがしたり顔で頷き、
「はい。民の心を安んじて治めるうえで、サンクランド式温室は非常に有効だと思います」
乗ってきた! っと内心でニヤリと微笑みつつ、ミーアは話を続ける。
「温室には質の良いガラスが必要だと聞きますけど、オリエンス大公領には腕の良いガラス職人が揃っておりますの?」
次々に、話題を振り、シオンと二人きりで会話する時間を与えない!
そう……。ミーアは帝国の姫。その戦術は帝国の軍事規範に忠実に則ったもの。
すなわち、物量作戦、飽和攻撃である!
奇しくも、それはサンクランドの知略家、キースウッドと同じもの。
帝国の叡智ミーアの戦術はついに、そのような高みへと到達し……到達し?
「わたくし、その温室を使ってキノコを栽培することを想定しておりますの!」
…………ただ、キノコ温室に興味津々なだけだったかもしれない。
しかし、そぉんな自らの食欲ファーストなミーアの話を、ロタリアは生真面目な表情で受け止めて……。
「なるほど、キノコですか……。温室によって森の中の環境を再現すると……」
そんなことを言い出した! それを聞いたキースウッドが少し離れた場所で、あわわ、っと口を震わせていたが……。
「確かに、キノコは食用の物と毒のある物が見分けづらいですし、温室の中で栽培できれば有効かもしれません」
それを聞いて、あ、そうか……それは、ありなのか? っと複雑そうな顔をしていたのはさておき……。
「まぁ、森に分け入りキノコ狩りをする楽しみは得られませんけど、お手軽にキノコを得る手段としては良いのではないかと思いますわ」
オリエンス領の森に分け入り、キノコの乱獲を志すミーアは、偉そうに言うのであった。




