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第七十六話 大丈夫……大丈夫?

 キースウッドの案内で、ミーアたち一行は、王都ソル・サリエンテに向かって移動を開始した。

 馬に乗り、ミーアたちの馬車を先導しつつ、キースウッドは、これからのことを考えていた。

 ――ティオーナ嬢に加え、ルードヴィッヒ殿まで同行しているということは、やはり、シオン殿下の縁談絡みのことだろうな。新メニューだとか、食材やキノコがどうこうとか……。そう言うのは、うん、カモフラージュとか、ついでか、なんじゃないかな。うん……。蓋然性もあるし、きっとシオン殿下の縁談話の件だ。これは断じて、希望的観測とかじゃないぞ。

 キースウッドは、それから、ミーアの同行者に目を向けた。

 ミーアたちが乗る馬車の後方、二両目の馬車、そこに乗るのは……。

 ――まぁ、ティオーナ嬢とリオラ嬢はともかく、シュトリナ嬢が同行していたのは、唯一の救いだったな……。

 そうなのだ。今回の旅には、天秤王の若き日の恋愛劇をぜひとも目に焼き付けたいと思っているミーハーベルと、その親友、シュトリナもこっそり同行しているのだ。

 なんとなく、元気がなさそうに見えるシュトリナであるが、それでも、その毒と薬に対しての知識は、他の追随を許さないものがあるわけで……。

 ――エイブラム陛下を救っていただいた経緯もあるし……。これならば、ミーア姫殿下がなにか良からぬことをやらかしても、なんとかフォローできるだろう。大丈夫だ。大丈夫に違いない。うん……。

 シュトリナがいれば、多少ミーアが料理で失敗しても大丈夫だろう! と心強く思うキースウッドであった。


 一方で、ミーアは当初の計画を若干、方針転換していた。

 当初、ナホルシアをなんとかしてから、心おきなくシオンの胃袋を料理で攻め落とすつもりでいたミーアであったが……。

 ――先にシオンとティオーナさんのお気持ちをはっきりさせておかないといけませんわ。ナホルシアさまの件はその後ですわね。

 この順番は、ミーア的に非常に大切であった。

 なぜなら……ミーアは恋愛劇を自ら書きたいわけではないからだ! 

 ミーアは恋愛劇を間近で鑑賞したいのだ!! 

 辺境の貴族令嬢と大国の王子殿下の恋愛劇を、お客さんとして見たいのだ!!!

 ――ナホルシアさまに話をつけて、そのうえでとなると、その時点で、お二人の恋愛は既定路線。それも、いかにもわたくしが描いたシナリオという感じで良くありませんわ。確かに、思い通りに話が進んで、わたくしの理想とするシナリオも実現できるかもしれませんけど……やはり、それでは面白くありませんわ。

 思いもよらぬ、予想もつかない熱い恋愛ストーリーを、ミーアは見たいのだ!

 うむうむ、っと頷きつつ、ミーアは対面に座るティオーナにニッコリ微笑みかける。

「ティオーナさん、シオンときっちり話を付けていただきたいですわ。その胸にあることを、遠慮なく、シオンにぶつけてやるといいですわ」

「はい……わかりました」

 緊張した顔をするティオーナに満足げに頷くミーアである。


 そんな帝国の恋愛劇愛好家(えいち)ミーアの判断に……。

『なるほど、ミーアさまも内政干渉を咎められぬように、とお考えなのだな。あくまでも、シオン王子の意志で事を成し、ミーアさまは、その手伝いという立場を取ろうということなのだろう』

 っと、御者台でこっそり聞く、ルードヴィッヒもニッコリである。

 さすがはミーアさまだなぁ、外交のことわかってるなぁ、やっぱり帝国の叡智は違うなぁ! っと、違いのわかる男、叡智ソムリエのルードヴィッヒは一人唸るのであるが。

 まぁ、それはともかく。


「まぁ、そこまで不安がる必要はありませんわ。最悪、お料理でシオンの胃を攻めることもできますし。わたくしも、アンヌも、あの頃とは比べ物にならないほど、料理の腕前が上がっておりますわよ。ね、アンヌ」

「はい。乗馬の練習がてら、馬の観察を欠かしたことがありません」

 ウマパンの造形に、その耳の形に、圧倒的なこだわりを見せるアンヌである。

「それに、今回はリーナさんが同行してますから、多少、冒険だってできますわよ?」

 目前に迫る料理と言う名の冒険に胸を高鳴らせる、冒険姫ベルの祖母、料理冒険家(デンジャラス・アレンジャー)ミーアであった。

 ――そういえば、リーナさん、微妙に元気がない感じがしましたけど……なにか悩みでもあるのかしら……。

 そうして思い出すのは、先ほどの休憩の際のこと。

 静かに近づいてきたシュトリナは、

「ミーアさま、実は、折り入ってお話したいことが……」

 などと、なにか言ったのだ。

 どこか思いつめたような顔をする彼女を見て、ちょっぴり心配になったミーアであるが。

 シュトリナは、一度、言葉を切り、なにか迷う様子をみせてから、ベルのほうに目を向けた。

「んっ? どうかしたんですか? リーナちゃん?」

 きょっとーん、と首を傾げるベルに首を振ってから、

「ううん、やっぱり、なんでもない。それでは、ミーアさま、なにか、ご用があればお声がけください」

「え、ええ、わかりましたわ。頼りにしておりますわよ」

 不自然に言葉を切ったシュトリナ。なにか、ベルに聞かせられない話かな? と推測するミーアである。

 ――とすると、ふむ、恋愛相談とかですわね! ベルに知られるとからかわれるから……。

 恋愛熟練者ミーアの勘が冴え渡る! …………そうだろうか?

 ともあれ、シュトリナがいれば、多少、食材で冒険しても……具体的には、軽くキノコに毒があっても大丈夫だろう! と心強く思うミーアであった。


 はたして……シュトリナ・エトワ・イエロームーンの存在は調理の安全性を上げているのか、それとも、危険性を上げているのか……。

 それは、非常に議論の分かれるところなのであった。


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― 新着の感想 ―
>>ミーアは恋愛劇を間近で鑑賞したいのだ!! これ、言い換えれば当人の思いを大事にしたいって事やん? と思ったらステンドメガネがまあ、まあ大体近い事考えてた。 穏健派と言うものは解り合いやすいのかも…
実際料理の腕前は上がってるからなあ。変なアレンジしなければカステラ作れるぐらいには。 問題は変なアレンジ、というかキノコが絡んだ場合にやらかす事で() 悩むリーナちゃんは例の件でしょうかねえ。 問題…
あのー キースウッドさんってば 別方向に曇ってしまったと言うか 理想に縋ったと言うべきか… ある意味シオン殿下の大ピンチなのでは… ルードヴィッヒさんの方は 曇り眼鏡にプロジェクションマッピングでも…
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