表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1429/1471

第四十二話 シュトリナのお願い

 それから、ミーアは簡単にドルファニアでの出来事について二人に話した。

「まぁっ! そんな危ない目に遭われていただなんてっ!」

「ミーアさま、僭越ながら……。そのような危険なことはくれぐれもお控えいただきますよう、臣下一同を代表してお願い申し上げます」

 ジーナ・イーダに斧を持って追いかけられたくだりで、二人からの苦言が一斉に飛んできた。エメラルダはまだしも、普段は沈着冷静なルードヴィッヒも焦りの表情を浮かべている。さらに、エメラルダのメイド、表情が薄いニーナまでもが、口をポカンと開けていた。

 そんな反応にミーアは苦笑いして首を振り……。

「わたくしとしても、ぜひそうしたいところなのですけど……。あればかりは完全な予想外でしたし。あのディオンさんも罠に嵌められて動けなくなっておりましたし」

「なんと、あのディオン殿が……ですか?」

 驚きに目を剥くルードヴィッヒに、頷いてみせてから……。

「リーナさんも一緒に上手く乗せられてしまったみたいですわ。まぁ、敵のほうが我々より一枚上手だったということではないかしら」

 ミーアの話を聞き、エメラルダが眉をひそめる。

「まぁ! リーナさんもそのような危険な目に遭っていただなんて……。星持ち公爵令嬢としての自覚が足りませんわ! そのような無茶をするなど言語道断。後で、とっちめてやりますわ!」

 ぷりぷり怒る、自称星持ち公爵令嬢筆頭のエメラルダであった。

「ふふふ、まぁ、ほどほどに。結果としてクラリッサ姫殿下とも仲良くなれましたし、神聖図書館内に潜んでいた賊を捕らえることもできて、わたくしとしては良かったと思っておりますけど」

 そう言ってから、ミーアは紅茶を一口。

 野菜ケーキはすでにない。少々の口寂しさを覚えるものの、これから始まる誕生祭で食べるケーキ群のことを思えば、今はグッと我慢。断食気分に浸りつつ、野菜ケーキは一個で我慢しようと思うミーアなのであった。

「そんなわけで、クラリッサ姫殿下の要請を受けて、わたくしもいろいろと助言をしているところなのですけど……」

 クラリッサは現在、レムノ王国にいったん戻ってはいるものの、なかなかに、人材探しは難航しているらしい。ダサエフ・ドノヴァンを説得するためにも、なんとか学校の形は整えておきたいところだが……。

「ふぅむ、なるほど。レムノ王国……。ミーアさまの想い人のアベル王子の出身国ですわね。その国の地ならしをしたいと……。ですけど、あのレムノ王国で女子教育とは……講師探しは難航するでしょうね。厄介なことは誰も引き受けたがらないのではないかしら……」

 エメラルダの言葉に、ルードヴィッヒが頷いた。

「そうですね。私の同門の者にも声をかけることはできると思いますが……」

 軽く眼鏡の位置を直しつつ、ルードヴィッヒが難しい顔をする。

「そうですわね。講師としての能力を持つ者は見つかるかと思いますけれど、その中核を支えるような、クラリッサ姫殿下と信念を共にするような人材が必要でしょうね。ちょうど良い人材がいるかどうか……。女性蔑視の国で、女子教育をしようなどと言う気概の持ち主……少し探すのに時間がかかるかもしれませんわ」

 腕組みしつつ、うーん、っと唸るエメラルダであった。

 ――あら、エメラルダさんやルードヴィッヒでも難しいとは……なかなか苦労するかもしれませんわね。

 ちょっぴり心配になりつつも、

「いずれにせよ、今度、クラリッサ姫殿下をご紹介いたしますから、直接、お話しいただくのがよろしいと思いますわ」

 そう結ぶミーアであった。


 さて、ミーアと別れたエメラルダは、その足でシュトリナのもとに向かった。シュトリナは、白月宮殿、大図書館の机の前で難しい顔をしいた。何やら、本に目を落として、ため息を吐いている。

「リーナさん」

 声をかけると、シュトリナは、ハッとした顔で見つめてきた。

「ああ、エメラルダお姉さま、ご機嫌よう」

「聞きましたわよ? ドルファニアでの無茶……。まったく、帝国貴族令嬢としての自覚が……んん?」

 っと、そこでエメラルダは眉をひそめる。

「あなた、どうかなさいましたの?」

 マジマジとシュトリナに顔を寄せ、エメラルダは言った。

「え……どう、とは?」

 きょとりん、と首を傾げるシュトリナに、エメラルダは眉間に皺を寄せ……んー? っと見つめ……。

「あなた、悩みがあるのではありませんの?」

「……え? どうしてですか?」

 驚いた様子で瞳を瞬かせるシュトリナに、エメラルダは鼻を鳴らす。

「ふふん、そんなの顔を見ればわかりますわ。私は、他ならぬ星持ち公爵令嬢筆頭。若輩のあなたのことなど、顔さえ見れば一目瞭然ですわ」

 片手を胸に当て、ドヤァッと胸を張るエメラルダ。それから、気を取り直したように微笑んで、

「それで、なにがありましたの? その様子ですと……ははぁん、さては、好きな殿方でもできたとか……」

「なっ! ぁっ、そ、そんなこと、ない……」

 否定はするものの、その表情は、常とは違う、ちょっぴり取り乱したものだった。

 ――あら、当たりかしら……。いえ、でも……。

 エメラルダは小首を傾げつつも、

「ふぅむ、そちらもちょっぴり怪しいですけど……。リーナさんは、その程度で悩んだりするほど、か細い精神をしていないのも事実……とすると、悩み事は別かしら……」」

「……リーナ、馬鹿にされているような気がするんですけど……」

 ぷくーっと頬を膨らますシュトリナに、エメラルダは澄まし顔で言う。

「あら、信頼しているだけですわ。まぁ、もしも本当に恋愛で悩んでいるのでしたら、いつでも相談に乗って差し上げますわ。だから、そのように、しょぼくれた顔をする必要など、どこにもございませんわよ? もちろん、恋愛以外の相談も乗りますけど……」

 そう言うエメラルダの顔を見て、シュトリナは、ハッとした顔をして、

「それでしたら、エメラルダお姉さま、お願いがあるんですけど」

「あら、お願い? なにかしら?」

 シュトリナは、わずかに逡巡して後、

「ブルームーン公爵夫人……ヨハンナさまと対談する機会を用意していただけないでしょうか?」

「あら、ヨハンナさまと……?」

 不思議そうな顔をするエメラルダに、シュトリナは小さく頷くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エメラルダさんの リーナちゃんへの気遣いみてても 生粋のお姉ちゃん気質なのですね もしかしたらアベル王子を心配していた ヴァレンティナお姉様と話も合いそうなのかな と思ってしまいます ある意味一番…
エメラルダお姉さま呼びを見るだけでサンクランドの件から二人の関係は凄く良いものになってるんだなってわかってほっこりしました 様々な人脈を駆使し、結果様々な相手のお姉さまになり、帝国のお姉さまエメラルダ…
こうして読んでいくと、ミーア姫殿下は自分の勢力範囲内に各分野満遍なく頼れる人材を確保…って凄いなあ。 まあギロちんとか言う非生物も居るけれど。 まあ皮下脂肪という対ギロちん防御もしているけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ