第三十五話 ミーア姫、子どもたちを激励する! しすぎる……。
特別初等部のパーティーは和やかに進んでいった。
一瞬、他の仲間たちも呼ぶべきか? とも思ったミーアであったが、今回の主役はあくまでも子どもたちである。ミーアはお礼をしたい相手として、特別ゲストとして呼ばれてはいるものの、他の生徒会メンバーを呼ぶのも無粋というものだろう。
これはあくまでも特別初等部の身内のパーティーなのだ。
……別に、ブッシュ・ド・セントノエルの取り分が減りそうだから、とか、そんな浅ましい理由ではないので、念のため。
ということで、ごくごく身内で行われたこじんまりしたパーティーであったが、ミーアはいたく感動していた。
――ああ、これは……とても良い会ですわ。素晴らしいパーティーですわ。
別に、なにか、特別な出し物があるわけではなかった。
一応、子どもたちが練習したという聖夜劇が披露され、ミーアも微笑ましく、それを見たりもしたが……。
――ふふふ……一生懸命な感じがとても良いですわね!
そんな感じで。手作り感のある会は、決して物珍しい物でもなければ、豪奢な目を見張るものでもない。でも……。
改めて教室内に目を向ける。
集めてきた落ち葉で作った飾りには、お金はかかっていなくとも、手間はかかっていた。きっと、あれを切るのは相当の集中力が必要だったことだろう。量もそれなりに多く、全員で作ったにしても大変だったと思う。
それに、なんと言ってもブッシュ・ド・セントノエルである。ミーア的には大満足の、お見事な出来だった。
――ふふふ、この年輪から溢れ出すたっぷりのクリームが、実になんともたまりませんわ! 口の中でフワフワ、クリームがとろけますわ。それに、周りの少し硬めのチョコレートバタークリームが、ちょっぴり塩気があって、アクセントになっておりますし……。カタリナさんのお店で食べたものとそん色ない感じですわね。そして、ふふふ、この馬の形のクッキーとキノコの形のクッキーが、実に憎い演出ですわ。馬とキノコが好きなわたくしのために作ったのですわね。
ワクワク顔でミーアが食べるのを見つめている子どもたち。ミーアは心持ち大きめ(ミーア比)に切ったケーキのうえにクッキーを乗せ、パクリと一口。モグモグ、サクサク……。その甘味を堪能する。
――ああ、贅沢ですわ。実に充実した聖夜祭ですわ。思えば……帝国革命の頃には、こんなケーキなんて贅沢過ぎて食べられなかったものですし。これは、とても贅沢な幸せですわね。
ミーアはにっこーりと子どもたちに微笑みかけて……。
「ふふふ、このクッキーサクサクしていて、とても美味しいですわ。それにケーキも、とても良くできておりますわね」
ミーアの言葉を聞いて、子どもたちの顔にホッと安堵の表情が浮かぶ。
「みんな、どうもありがとう。このような会を催していただいて、わたくし、とても幸せですわ!」
その言葉に、子どもたちはみんな嬉しそうに微笑んでいた。
――なにより、この身内だけの、こじんまりした感じが素晴らしいですわ。なにも、壮大なパーティーばかりが良いものではないとよくわかりますわ。それに、わたくしを模した飾りも枯れて、すぐになくなってしまうと思いますけど、この潔さがとてもいいですわ!
永遠に残る黄金像など、もってのほか! あの大雪像にしても、あんなに大きくド派手なものである必要はない。小さくても良いのだ。心がこもっているかどうかは、大きさや頑丈さに比例しないのだ!
――素晴らしいですわ。この子たちには、常識がございますわ!
帝国のミーアエリートたちが持ち合わせていない、節度と常識が、ここの子どもたちにはあるように感じられた。
パティとヤナはもちろんのこと、眼鏡をかけたローロ、元気のいいカロンにしても、ミーアの目には実に賢そうに見えた。ものすごぅく! 利発そうに見えたのだ!
――この子たちであれば……あるいは……。
大いなる期待を胸に、ミーアは彼らに声をかける。
「今日はどうもありがとう。とても楽しい会でしたわ」
胸に手を当てて、そっと目を閉じて……ミーアは続ける。
「パライナ祭においても、ぜひ、あなたたちの力を大いに発揮していただきたいですわ!」
聖ミーア学園の、グロワールリュンヌ学園の牽制役を、ぜひとも立派に勤めてもらいたい、っとの願いを込めて、ミーアは一人一人の子どもたちの顔を見つめる。
「あなたたちには、このセントノエル学園特別初等部で学んだという、特別な視点がございますわ」
「特別な視点……?」
首を傾げたのはローロだった。ミーアはしかつめらしい顔で頷き……。
「ええ、そうですわ。帝国の学園で学んだ者たちとは、また違ったものが、あなたたちには見えている。ユリウス先生に教わり、セントノエルでさまざまなことを経験し、さまざまな人たちと交わった、あなたたちには、あなたたちにしか見えないものが確かにございますわ」
具体的には、ほいほい黄金像とか言い出さない清貧さとか、帝国の叡智に聖人認定を急げ! とか言い出さない常識とか……そういうやつである! 後者のほうは、ヴェールガの都ドルファニアの司教たちも持ち合わせていない常識なのかもしれないが……さておき。
「特別初等部にいるあなたたちには、あなたたちにしかできないことが必ずある。だからこそ、自らの未熟を感じたとしても臆する必要なんかない。堂々と胸を張って、自らの思うところを語りなさい」
セントノエルに在籍する身として変だと思うことには、遠慮なく指摘してやれ! とミーアは背中を押してやる。
「もしも……あなたたちの言葉を聞いて怒る者がいれば、それは、その者が狭量というものですわ。わたくしがとっちめてやりますわ」
ミーアは悪戯っぽく笑ってから……、
「そして、もしも、あなたたちが逆に、それは誤りだと指摘されて……自分でも間違いであったと気付いたのなら、落ち込む必要などありませんわ。あなたたちは学びの機会を得たのですから、学び、正し、成長すればいいのですわ」
それからミーアは笑みを浮かべて……。
「だから、臆する必要はなにもない。このように素敵なパーティーを催してくれた、あなたたちの活躍に期待しておりますわよ」
ミーアの言葉を、子どもたちは熱いナニカが宿った目で聞いていた。