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第三十三話 ……もとい

「ふわぁ……昨日は夜更かししすぎましたわね」

 聖夜祭の翌日のこと、ミーアはのっそりと体を起こした。

 辺りを見回すと、そこは生徒会室だった。昨夜は毛布を運び込み、ご令嬢たちで夜を明かしたのだ。

「あ、ミーアさん、おはよう」

 っと、窓際に目をやると、ラフィーナが静かにたたずんでいた。パジャマに身を包んだまま、優雅に椅子に座り、セントノエルの朝焼けに目を細めている。

 先日のパジャマパーティーで、すっかり味を占め――もとい、夜を徹しての情報交換の大切さを知ったラフィーナである。こうして、セントノエルでのパジャパ――もとい、夜間女子交流会を満喫――もとい、交流会を活用し、聖女としての職権を乱用――もとい、職責を全うせんとする清らかなる聖女の姿――もとい、ちょっぴり俗っぽくなった聖女の姿なのであった! ……アレ?

「それにしても、みなさん、聖夜祭の夜をこんなふうに過ごしてたのね。六年間もセントノエルにいて、まったく知らなかったわ」

 聖夜祭の夜、聖女は非常に忙しい。それゆえ、今まではお友だちと一夜を通して語り合うなんてこともなければ、一年間のお礼を誰かに告げる、なんてこともやったことがなかったラフィーナである。

 学生時代に憧れていたイベントを卒業後に見事に体験することができて、聖女としての務めに縛られない自由を満喫してしまったラフィーナなのである。

 後の世に、中央正教会が頑迷な律法主義に陥りそうになった際、あくまでも神聖典に書かれていることのみを強調して、民の自由を守ることに尽力し、結果、人々から『自由な聖女』……もとい『自由の聖女』と呼ばれることになる、ラフィーナ・オルカ・ヴェールガの精神性は、このようなお友だちとの経験によって培われたものかもしれない。が、まぁ、どうでもいいことである。

「私も、こうしてセントノエルで聖夜祭の時を過ごすのが最後だと思うと、今年はとても感慨深かったです」

 そう答えたのは、ラフィーナのそばにいたラーニャだった。ちなみに、その隣にはティオーナもいる。二人とも既に着替えを終えていて、いつでも外に出られる格好だ。農業に造詣が深い二人は、朝は早起きなのだ。

 どうやら、三人でゆっくりと朝のガールズトークを楽しんでいたらしい。

「ラーニャさんは、卒業後、しばらくミーアネットのほうにご尽力いただけるのでしたわよね?」

「はい。寒さに強い小麦を各国に広めていって、そのついでにペルージャンの穀物類も宣伝しようと思っています」

 学業の片手間とはいえ、すでに各国に顔を売りつつあるラーニャである。フルタイムで働けるようになれば、ペルージャンの農作物の販路を拡大させていくことだろう。

「ルドルフォン家や聖ミーア学園との協力関係も引き続き維持していきたいと思っていますから、ティオーナさんとは、またたびたび顔を合わせることになると思います。それに、クロエさんとも……」

 そうして、視線をやった先、眼鏡を取ったクロエがむにゃむにゃ言っていた。シュトリナとベルも夜遅くまで話していたらしく、まだ寝ている。後は……。

「あら……オウラニアさんは……」

「ああ、オウラニア姫殿下でしたら、朝釣りに行くって言って、私が起きた時には、もう……」

 っと、ティオーナの言葉を受け、ミーアは、ううむっと唸った。

「早起きですわね。さすがはオウラニアさんですわ」

 頷きつつも、ミーアはふと思う。

「そういえば、パティはちゃんとみんなとお話しできたのかしら? 聖夜祭は年に一度の行事ですし、きちんと後悔なく過ごせたのなら良いのですけど……」

 そうして、ミーアは、ぐぅっと伸びをし、

「ふぅむ、朝食がてら、パティの様子を見に行こうかしら……」

 っと、ミーアが立ち上がろうとしたところで、

「失礼いたします。ラフィーナさま」

 部屋に入ってきたのは、モニカとアンヌだった。

「本日は生徒会室でみなさんに朝食をお食べいただこうと思い、準備しました。アベル王子、シオン王子、レアさま、リオネルさまもお呼びしようと考えておりますが……ご準備の時間が必要ですね」

「ああ……そうですわね。では、急ぎ、着替えと髪を整えましょう」

 朝食の準備、と聞き、ミーアの雄弁なる胃袋が切なげな声を上げる。

 その声に背中を押されるようにして、ミーアはシュシュッと着替えを終え、朝食の準備を整えていく。

 全員の準備が整ったところで、モニカたちがテーブルの上にお皿を並べ始めた。

 パンの入った籠、新鮮野菜のサラダ、野菜のスープ、搾りたての牛乳……それは、基本的なセントノエルの朝食メニューであったが……それを見たミーアは小さく首を傾げる。

「あら……今朝は、少しお食事が少ないのでは……」

 普段は、パンの籠が五、六個は出てくるのに、今朝は微妙に少ない。一人当たり、二個ぐらいしかないのではないだろうか。

 また、サラダはいつも通りの量だが、スープのお皿も普段の四分の三ぐらいのサイズ感。ミーアの慧眼は正確に,それを見抜いていた。

「これはいったい……」

「ミーアさま、ええっと、それは……」

 っと、アンヌが困った顔をするも、その言葉を継いで、モニカが言った。

「みなさま、昨夜、たくさん食べた分、今朝は量を減らしてあるのです」

「まっ! そんな気を使わずともよろしかったのですのに。わたくし、全然、いつもどおり食べられますわよ?」

 などという抗議の声は、華麗にスルーされ、ちょっぴり控えめな朝食が並べられていく。

 幸い足りないと感じていたのは、ミーアだけだったようで、他の面々は満足している様子だった。

 そうして、楽しい朝食会を終え、自室に戻ったミーアであったが……。さて、それじゃあ、パティを探しに行こうかな! と立ち上がったところで、すぐに、

「ミーアさま、馬術部に顔を出すのはいかがでしょうか?」

「馬術部? なぜですの?」

「昨日、たくさん食べましたから、その分、運動をなさったほうが健康によろしいのではないかと……」

 その言葉に、ミーアは微妙な違和感を覚える。

 ――ふむ? 妙ですわね……。なにやら、アンヌが隠しているように見えますわ。ううむ……。

 ミーア、一瞬、悩みかけるも、すぐに頷く。

「まぁ、アンヌが、そう言うなら、そういたしましょうか」

 忠臣アンヌが言うのであれば、そういうことなのだろう。

 使わなくても良いことには頭も、カロリーも使わない、省エネモードのミーアなのであった。

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失礼いたします。ラフィーナさま」  部屋に入ってきたのは、モニカとアンヌだった。 「本日は生徒会室でみなさんに朝食をお食べいただこうと思い、準備しました。アベル王子、シオン王子、レアさま、リオネルさま…
先日のパジャマパーティーで、すっかり味を占め――もとい、夜を徹しての情報交換の大切さを知ったラフィーナである。こうして、セントノエルでのパジャパ――もとい、夜間女子交流会を満喫――もとい、交流会を活用…
相変わらずアンヌとルードヴィッヒの言葉は疑わないミーア様。
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