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第十八話 クラリッサの分類について……

「む……むむむ」

 クラリッサの話を聞いて、ミーアは眉間に皺を寄せる。

 ――これは、なかなかに厳しいですわね……。ドノヴァン宰相が、まさか断られるとは……。あのラフィーナさまが認めるほどの人格者ですし、まさかこんなことになろうとは……。

 レムノ王国の女性蔑視の傾向を正すという方針は、彼のような人物には受け入れてもらえるのではないかと思ったのだが……。

「申しわけありません……。私が、もっと上手く話すことができれば良かったのですが……」

 しゅーんっと肩を落とすクラリッサを見て、ミーア、思わず唸る。

 ――ううぬ、クラリッサお義姉さまお一人で行ったことがまずかったかしら?

 アベルはミーアと共にセントノエルへと帰ってきていた。彼が同行しなかったことが問題だったかもしれない。本来ならば自分もついていきたいところであったが、今回は任せてしまったのだ。

 ――他国の姫が絡んでいるとは思われないほうが良いかと思いましたけれど、裏目でしたわね……。ううぬ。

 ミーアは確認のため、クラリッサの後方に立っていたベルのほうに目を向けた。

 ベルは、しかつめらしい顔で頷くと日記帳に目を落とし……、ちょっぴり慌てた様子で、両手でバッテンを作った!

 ――ああ、やはり、またまずいことになっておりますのね。ここは、一度、クラリッサお義姉さまを元気づけるということで……。

 深々と頷き、ミーアはクラリッサに優しい笑みを向ける。

「クラリッサお義姉さま、そのように気落ちせずとも大丈夫ですわ」

 そこで、チラリとベルを確認。ベルは腕組みしつつ、うむうむ、っと頷き、続けて、続けて! っと手で指示を出してくる。

 それに背中を押されて、ミーアは続ける。

「というか、この程度のことで肩を落としてどうしますの? クラリッサお義姉さまの覚悟は、この程度でしたの?」

「かく、ご……?」

 顔を上げたクラリッサに、ミーアは深々と頷き、

「そうですわ! 国を変えたい、と、クラリッサお義姉さまはおっしゃったのではありませんの? そのお覚悟を、今こそ示す時ではございませんの!?」

 グッと拳を握りしめ、力説!

 そうなのだ、これまで散々鍛えられてきたミーアにとって、初心なクラリッサに発破をかけることなどわけないこと。

 どうだ!? っとばかりにベルのほうに目を向けると、ベルは……あわわ! っと口を震わせて、大きく両手で、ばってんを作っていた!

「え……?」

 ミーア、思わず、その様子に目を見開く。直後……、

「覚悟を示す。そう……ですね、当然、必要なことでした。ここは覚悟を示さなければ……ドノヴァン宰相と果し合いになったとしても……」

 ――はっ、果し合い!?

 ミーアが顔をサッと青くする。

 ……どうやら、ミーアに発破をかけられたクラリッサが、ナニカをヤッちまったらしい! ドノヴァン宰相をヤッちまったんじゃなければいいのだが……。

 ――あ、あら、心なしかベルが薄っすら透けているような……。

 無論、んなわきゃあないのだが、焦るミーアは、大慌てで首を振り振り!

「い、いえ、そういうことではありませんわ。ええと、覚悟というのは、ドノヴァン宰相と対峙することではなく、その言葉と対峙する覚悟という意味ですわ」

「言葉と……?」

「そうですわ。ダメ出しの言葉と向き合うのは、勇気がいること。時に自分が傷つくことすらある、非常にやりたくないこと。でも、クラリッサ姫殿下はそれと向き合わなければなりませんわ! そのための覚悟ですわ!」

 ミーアはババッとベルのほうに目を向ける。っと、日記帳を凝視していたベルは、ほーふーう……っとため息を吐き。それから、疲れた笑みで頷いてみせた。

 どうやら……上手くいったらしい。

 ミーアが視線を向ければ、クラリッサは、

「ドノヴァン宰相の言葉……具体性がなく、民をいたずらに混乱させる、というものでしょうか?」

「そうですわね。まず、それではないかしら? つまり、方針に沿った具体案があれば検討していただける、と……」

 なんとか、クラリッサの暴走しがちな使命感と純粋無垢な武人の(おとめごころ)をなだめんと腐心する。

「むしろ、それさえ解決すれば検討する、と、助け舟を出してくださった可能性すら考えられるのではないかしら?」

 念のため、クラリッサがヤッちまわないように、ドノヴァン宰相の弁護も欠かさない。

 気配りの人、ミーアなのである。

「教えてくださろうとした、そう言うことでしょうか……。なるほど、確かに言われてみれば……」

 っと、納得顔をするクラリッサ。その後ろで、日記帳を眺めていたベルが、胸に手を当ててほひゅーっとため息を吐いた。どうやら、問題はなさそうだった。

 ――しかし、クラリッサお義姉さま……大人しい方かと思いましたけど、物騒ですわね。まぁ、あのでっかい斧を持って追いかけてきたジーナさんに立ち向かえるのですから、それはそうかもしれませんけど……。もしかすると、ヨハンナさんあたりと話が合うかもしれませんわね。

 武闘派として知られる、ヨハンナ・エトワ・ブルームーンと同じカテゴリーに分類された、クラリッサお義姉さまなのであった。


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― 新着の感想 ―
いつもミーア様がどんな薄氷の上を歩いているか、何を気に留めているか、少しでもベルがこの十一部で感じ取れたらいいなあ。
危ない危ない・・・暇をもてあましたギロちんがドノヴァン宰相のもとへ遊びに行くところでした・・・
「教えてくださろうとした、そう言うことでしょうか……。なるほど、確かに言われてみれば……」  っと、納得顔をするクラリッサ。その後ろで、日記帳を眺めていたベルが、胸に手を当ててほひゅーっとため息を吐…
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