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第一話 深読みと駆け引きの食レポ

「改めて、ミーア姫殿下。娘とお友だちになってくださって、ありがとうございます」

 ニッコニコ顔でパンを頬張っていると、ルーツィエが静かに頭を下げてきた。

「そんな! 頭をお上げくださいませ、ルーツィエさま。わたくしのほうこそ、いつもラフィーナさまにはお世話になってばかりで……」

 ミーアが慌ててワタワタ手を振れば、ルーツィエは眉間に皺を寄せて……。

「でも……この子、ちょっと面倒くさいでしょう?」

 悪戯っぽい顔でそう問われ、ミーア、思わず考えこむ。

 ――ま、まぁ、放っておくと、うっかり司教帝になったりもしますし、それはそう、かも……?

「みっ、ミーアさん? どうして、そこで黙るのかしら?」

 今度はラフィーナがちょっぴり慌てた様子で言った。

「あら、ラフィーナ。あなた、自覚がなかったんですか? ずっと心配していたのですよ。あなた、融通が利かないから、お友だちもなかなかできなくって……」

「なっ! なっ! ぁ……」

 口をパクパクさせるラフィーナに、ルーツィエは頬に手を当てて、小さく首を傾げる。

「それが高じていって、聖女であることを理由に、あまり人と関わらないようになって、司教たちとだけ会うとか、山や島に閉じこもって、一切の繋がりを断つ、なんてことを始めるんじゃないか、とすごく心配していたのです」

 その言葉に、ミーアは瞠目する。

 ――ルーツィエさま、なかなかに鋭い方ですわ……。確かに、前に、ベルから聞いた司教帝は、セントノエル島に居を築いて、そこに閉じこもっていた、みたいな感じでしたし……。

 さすが母親だなぁ、娘のことわかってるんだなぁ、と頷きつつ、次なるメニューをウッキウキで待つミーア。

 晩餐会を楽しめないとか、まったくなかった! 完全に無駄な心配だった!!

 いかな緊張も、ミーアの美食に対する飽くなき情熱を抑えることはできないのだ。

 まぁ、それはさておき……。

 ルーツィエは真面目な顔でラフィーナに言った。

「私はね、こう思います。聖女と呼ばれる人間は山にこもるようではいけない。人々の間で生きなければいけない、と……」

「お母さま……」

「船が濡れて傷むからといって、湖に浮かべない、などということがあるでしょうか? いいえ、それは大きな誤りです。同じように聖女が、心が汚れるからと言い訳して、俗人と関わらないというのは誤りでしょう」

 それから、ルーツィエは目を閉じて、首を振った。

「いいえ、そもそも、人が人を俗人と貶すようなことを、たぶん神はお許しにはならないでしょう。まぁ、いずれにせよ、ラフィーナがお友だちを作って、充実した学生生活を送れたようでよかったです。母は喜ばしく思います」

「お母さま……」

 ラフィーナは、意外そうに母を見つめていた。どうやら、今まで、そんな話をしたことがなかったようだ。

 一方でミーアは、運ばれてきたヴェールガ湖魚ヴェールガーユのパイ包み焼きに舌鼓を打っていた。

 ――外はパイ生地でパリパリ。身の部分はほくほく。上にのった小さなキノコの演出がまた憎いですわ。主役も務められるし、わき役もいける。やはりキノコは素晴らしい食材。積極的に取り入れるべきですわね。

 と、そんなミーアに再び、ルーツィエの視線が向いた。

「どうかしら? このお料理は、ご満足いただけましたか?」

 ミーア、口の中に入れていたお魚の身をもぐもぐ、ごっくんしてから……。

「ええ、それはもう……」

 言いかけ、ミーア、刹那の思考。

 ここで、あえて、料理の味を聞かれたことの意味を考える。

 ――この質問の意味は、先ほどのパンと同じかしら? ご自分で作ったお料理の味が気になっているのか……あるいは、わたくしをもてなすことができているか、公爵夫人として気になったか……。そんな感じ……いえ、そんなに単純なものかしら?

 思い出すのは、ミーアの原点にして、始まりの質問。

『お前は自分の食事にいくらかかっているか、知っているのか?』

 という、あの、クソメガネの問いかけだった。

 食事に対するスタンスを通して、こちらの心情を知ろうとしている可能性は、あるだろうか? とミーアは考える。

 ――これは……、豪勢なお料理を褒めてもよろしいのかしら? 相手はラフィーナさまのお母さまで、清貧な方とお聞きしておりますわ。民の犠牲の上に成り立つような豪勢なお料理を、素直に美味しいと言っても良いものか……。しかし、もしもこちらのお料理も手作りだったとしたら褒めないとまずいですし……。ううぬ……。

 しばし迷ってから、言葉を選びつつ、ミーアは答える。

「非常に美味ですわ。こんなに美味しい物を食べたことありませんわ」

 まず、事実を告げる。美味なものは美味なのだ。そこで偽りを口にする必要はなし。多少のヨイショを上積みしてお料理を褒める。そのうえで……。

「きっと、ラフィーナさまのご家族と一緒に食べることができたからですわね」

 ここで、ミーア、料理の質ではなく、誰と一緒に食べたのかというところに評価基準をずらす! これにより、いくらかかってるか、とか、豪勢なお料理とか、変に引っかかりそうなところから、論点をずらしていく。

「ご存知かと思いますけれど、わたくしの母はすでに亡くなっておりますの。父と食事をすることはありますけれど、やはり、二人では味気ないものですから……。ふふふ、こうして、ヴェールガ公爵家の家族の温かな団欒に、お招きいただいたこと、心から感謝いたしますわ」

 それから、小さく笑みを浮かべて……。

「願わくば……このような温かな食卓が一つでも守られるよう、パライナ祭と世界会議が用いられればよろしいのですけど……」

 一応、真面目に考えている感じでまとめておくのであった。

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― 新着の感想 ―
まぁたそうやってミスリル像を招くような真似をする。 何も知らずに聞いたら軽く涙目になるぞ今の話。 ラフィーナ以上に聖女してどうするんすか。
ミーアさまの口から発せられる言葉はまさしく聖女に相応しいそれ モノローグがどんなものだったとしても!w
うっかり司教帝とうっかりギロちんでいいお友達と思いますわぁ~
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