表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1384/1475

第百二十九話 ベル探検隊のミステリークルーズ2

 恐ろしい怪談に、ちょっぴーり顔を青くしたのは、パティだった。

 辺りをキョロキョロ眺めて、なにかオソロシイモノがいないか、警戒する。

 古い水路は、そこらじゅうに物影があり、そこから、こう……なにか、得体の知れないものが、こちらを覗き見ているのを想像してしまって……。

 不意に、手を握られて、ひっと息を呑むパティ。だったが、そちらに目を向けると、ヤナが何でもないような顔で手を握ってくれていた。

「パティおね……お嬢さま」

 反対の手を、ハンネスが握ってくれる。

 ほんのちょっぴり心が落ち着き、パティは小さく息を吐いた。

 一方で、難しい顔をしていたのはベルだった。

 ふーむむむ、っと唸り声を上げるベルにパティは再び不安になる。

 ――なにか、今の怪談に気になるところが……? 

 自分が気付いていないナニカが、先ほどの話にあったと考えると、再び怖くなるパティである。今ですら怖いのに、なにか、気付いたらさらに怖くなるような秘密があったと想像してしまうだけで、きゅっと身がすくむ思いがする。

「なるほど、つまり、特定の順番で天使を追っていくと、幻の五十体目の天使像がある隠された場所に行くことができる、と……? それは……」

 静かに顔を上げて、ベルがワクワク顔を露わにした。

「宝物を隠すのには、とてもよい仕組みのような気がしますね!」

 その言葉に、パティはぽっかーんと口を開ける。けれど、すぐに、その言葉の意味を考える。

 ――怪奇現象じゃなくって、町の建て方によって、意図的に作った隠しスペースがある、ということ……?

 蛇の技術の中にも、人間の認識から外すことで、なにかを隠すというものがある。同じように、このドルファニアにも、そんな仕掛けの場所があっても、おかしくはない。

 ――考えてみると、天使像が四十九体もあるというのは、気になる。その一つ一つに番号が付けられているのも……もしかすると、船頭たちの意識を逸らすための、なにかの仕掛けなのかも?

 そう考えると、先ほどの話は、不思議な話ではあっても、怖い話ではなかった。

 船頭のしゃべり方が怖かっただけで。子どもたちを怖がらそうとする、あの船頭の意地が悪いだけなのだ。

 無表情を維持しつつも、心なしか、むぅっとした顔で船頭を睨むパティ。

 そうだそうだ、不思議な話ではあったけど、別にお化けとか出てこなかったし? ナニカ怖いものに追いかけられたとか、そう言うこともなかったし?

 なんか、怖い話じゃないかも! っと、パティは元気を取り戻した。

「だけど、順番に追いかけるだけで、秘密の場所に着くなんて言う仕掛けあり得るかしら……。むしろ、なにか、神の奇跡が起きたと考えるほうが自然な気がするけど……」

 そうつぶやくリンシャに、シュトリナが首を振った。

「それ自体が思い込みと言うこともあるのかもしれない……。この町ならば奇跡が起きても不思議はない、と思ってしまうからこそ、なぜ、そんなことが起きたのかは誰も考えない。不思議な場所が隠されているとわかっても、それは奇跡の結果だと考えて、あえて調べようとはしないとか」

 そもそも、その場所にあるのは、ただの石づくりの天使の彫像だ。

 黄金の像とかであれば意識的に探す人はいても、ただ変わった像があるだけだというのなら、あえて、噂の真相を確かめようという奇特な人間はいないだろう。

「ううむ……これは意外なところで冒険の匂いがしますね!」

 鼻息荒く、ベルが言う。

「セントノエルに帰ったら、テスト勉強の日々が待っているわけですし……。頑張れるように、ここで冒険英気を養っておくと良い気がします」

 それから、ベルは船頭に話しかける。

「船頭さん、第七天使の七番までとりあえず行ってみてくださいませんか?」

「別に構わないが、やってみるつもりかい? 天使の儀式を」

 驚いた様子の船頭に、ベルは小さく首を傾げてみせた。

「そうですね……。もしも船頭さんが、その若手の船頭さんと同じように天使像を辿れるならば、ですけど」

 煽るように、悪戯っぽい目つきをするベル。船頭はそれを見て、ニヤリと口元に笑みを浮かべ、

「へっへっへ、俺を誰だと思ってるんだい、嬢ちゃん。そんな駆け出しの若造に負けるほど、おつむは衰えちゃいないぜ」

 こめかみ辺りを、トントンと叩きつつ、船頭は言った。

「でもいいのかい? お嬢ちゃんたちもそうだが、そっちの子どもたちには、ちょっと怖いことになるんじゃないかと思うけどな」

 視線を向けられ、パティは思わず息を呑む。

 確かに……、そんなわざと怖そうな場所に行くような真似はしないほうがいいんじゃ、と思わなくもなかったが……。

「…………いえ、私たちも、一緒に行きます」

 眉間に皺を寄せ、まるで死地にでも向かうような、しかつめらしい顔でパティは言った。

 それは、自らの子孫が危険に踏み入ろうとしているのを見過ごせないから! などと言う理由ではなく、

 ――怖いものをはっきりさせておかないと、いろいろと想像して、余計に怖くなりそうだから。

 というものであった。

 極めて合理的なパティである。ベルよりよっぽど大人なのである!

 ……お化けは、怖いけれども。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
同じ話(事柄)でも、視点が異なれば違うものが見えてくる…当たり前の事だけど、そんな当たり前の事に気付かされました。 そうだよね…別に怪談話じゃないよね!お化けなんて出てこないよね!((((;゜Д゜))…
>蛇の技術の中にも、人間の認識から外すことで、なにかを隠すというものがある。 ミーア様「ふむ、この技術をうまく使えばFNYをかくしたり、こっそりおやつを隠してかけますわね!ぜひモノにしませんと!」 …
ああ、なるほど、そうなのか。ミーア様のチキンっぷりの源流がパティなのですね。父親(息子)はどちらかというと能天気なので、隔世遺伝したのですかねえ……() パティレベルでビビっちゃって身動きを阻害しちゃ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ