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第九十六話 KOUFUKU無限ループ

 ――なっ、じょ、冗談じゃありませんわ! 辞職するなどと……っ!

 これにはミーア、少々、慌てる。さらに……。

「ユバータ司教にだけ責任を負わせるわけにはいきません。奇跡的に、神の守りによってミーア姫殿下たちに被害が出なかったが……。それはあくまでも結果論……。私も責任を取って引退し、家督を娘に継ごうと考えています」

 などと、ヴェールガ公オルレアンが言い出したものだから一大事である! 一大事なのであるっ!!!

 こりゃーやべぇことになったぞぅ!!! っとばかりに、ミーアは手の中に残っていたパンの残り三分の二を、ひょひょいっと口に入れ、もっもっもっ! と咀嚼、急いでゴクリと飲み込み、仕上げにミルクティーを一口。

 うーん! 美味しい! もう一個……!

 ――ではなくって……!

 危うく、パンとミルクティーのKOU(こう)F(ny)UKU(ふく)無限ループに陥りかけたミーアは慌ててブレーキ。

 騎馬王国の特製バターおそるべし! などと慄きつつも、小さく咳払い。

「あまり……短慮は良くないと思いますわ。ユバータ司教。ヴェールガ公も、そのようなことを簡単に言わないでいただきたいですわ」

 真面目腐った顔でミーアは苦言を呈する。

 正直な話、ユバータ司教が交代したところで、百害あって一利なし。責任を取ってもらったところで、ミーアにとってはなんの旨味もない。

 オルレアンに関しては、家督をラフィーナに継ぐだけならば問題はないかもしれないが、ラフィーナが自由に動けなくなれば、それはそれで問題だ。

 それに昨夜も、ジーナへと向ける視線に、若干、獅子味がチラリしていることがあった。横から見ていて、軽く震え上がってしまった、子猫の心を持つミーアである。

 ということで、ラフィーナが今すぐにヴェールガのトップにつくのは、少々、心配なところがなくはないわけで……。

 むしろ、ヴェールガの人事に、下手な変更を加えないでもらいたいミーアなのである。

 ゆえに……。ミーアはそっと目を閉じて話し始める。考えながら、慎重に言葉を紡ぐ。

「わたくしは、こう思いますの……。此度のことには、いったい、どのような意味があったのか……? 神は、今回の出来事で、何を成そうとしているのか、と……」

 ヴェールガ的に説得力を持つように、っと、言葉のチョイスに気を配りつつ……。

 そう、馬好き(ウマニア)の国には馬好き(ウマニア)の国の言葉があるように、商人の国には商人の国の言葉があるように、釣り人の国には釣り人の国の言葉があるように……。

 同じ大陸共通語を使っているといっても、心に刺さる言葉には違いがあるように……。

 ミーアはヴェールガに適応された言葉で話さんとする。先ほど食べたパンが、ミーアの脳みそをギュンギュン回していた!

「ヴェールガ公のおっしゃるとおり、この度は大変な危機でした。クラリッサ姫殿下がいらっしゃらなければ、わたくしの命はなかったことでしょう。それほどの危機でした……でも」

 ミーアはすぅっと目を開けて、ミーアはそっと胸に手を当てる。

「わたくしは、こうして生きている。クラリッサ姫殿下もしかりですわ。誰も命を落としていないどころか、ケガもございませんわ。そして、潜んでいた蛇だけを炙り出すことができたのですわ。奇跡的……先ほどオルレアンさまはそうおっしゃられましたわね。確かに、奇跡的な幸運ということもできるでしょうけれど……奇跡を起こすものは神。であれば、この結末は天の配剤と呼ぶべきものではないかしら」

 そう言いつつ、ミーアはチラリと周囲を見回す。

 ロジック的には問題ないはず……と思いつつ様子を見れば、みな神妙な顔で聞いている。

「神の(おん)守りによって、一切の被害なく蛇を炙り出すことができた。ならば、わたくしたちは感謝こそすれ、余計なことをするべきではない、とわたくしは考えますわ。それとも、神がユバータ司教を辞任させるため……あるいは、オルレアン公を退位させるためにこのようなことをなさったとお考えかしら? あえて言いますけれど、否である、とわたくしは思いますわ」

 力強くグッと拳を握りしめ、ミーアが言った。

「蛇による被害が防がれたうえ、隠れ潜んでいた蛇を炙り出せた。放火を企んでいたエピステ主義者たちも捕らえることができた。それならば、このうえは、優秀な、善良な人材を退位させることで蛇を喜ばせるようなことはすべきではないと思いますの」

 それから、ミーアはクラリッサのほうに目を向けた。

「しかし、それでは、皇帝陛下が納得なさらないのでは?」

 眉をひそめるオルレアンに、ミーアは小さく微笑んだ。

「あら? お父さまに知らせる必要はございませんわ。情報を開示したところで、世が不安定になるばかり。であれば、時には秘することも必要なのではないかしら?」

 なにも馬鹿正直に情報を明かせばいいというものでもないとミーアは考える。

 蛇に利用されるような情報であれば、胸の内におさめ、サクッと忘れてしまうことも時には必要なのではないか、と。

 そう、そのために、ミーアの記憶の果ては非常に近くにあるのだ。テストが終われば溜め込んだ知識をひょひょいっと投げ捨ててしまえるように、ではないのだ。

 きっとそうなのだ!

「もっとも、そのためには、クラリッサ姫殿下にも、昨夜のことを忘れていただく……。黙っておいていただく必要がございますけれど……」

 チラリとクラリッサのほうに目を向けると、

「あ、はい。私は、別にそれでいいと思います……けど」

 っと彼女はアベルのほうに目を向ける。アベルは苦笑いを浮かべて、

「まぁ、蛇の問題に関しては我がレムノ王国もヴェールガを責められないしね。ヴァレンティナ姉さまのことを黙っていてもらったこともあるし。蛇に加担したうえに、数日前に脱獄までした、なんて聞かされると、ね……」

「…………えっ!?」

 唐突に、クラリッサが声を上げた。

「え……えっ? ヴァレンティナ姉さま、が……? どういう……」

「ああ……そうか」

 混乱した様子のクラリッサを見て、アベルは軽く頭を押さえた。

「そういえば、クラリッサ姉さまは知らなかったか……」

KOUF(ny)UKUは幸FnyKUなのか、高FnyKUなのか、議論の余地のあるところ。

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― 新着の感想 ―
……ミーア姫のこの詭弁が、最悪の場合蛇の側で振るわれていた可能性もあると考えると恐ろしいな
それに昨夜も、ジーナへと向ける視線に、若干、獅子味がチラリしていることがあった。横から見ていて、軽く震え上がってしまった、子猫の心を持つミーアである。  ということで、ラフィーナが今すぐにヴェールガの…
ロジック的には問題ないはず……と思いつつ様子を見れば、みな神妙な顔で聞いている。 「神の御おん守りによって、一切の被害なく蛇を炙り出すことができた。ならば、わたくしたちは感謝こそすれ、余計なことをする…
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