表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1349/1475

第九十五話 朝食会のお誘い

「う……ううぬ……これは……」

 朝……ミーアはベッドの上で唸っていた。

 体が、動かなかった!

 そう、それは金縛り――などではなく、まごうことなき筋肉痛である!

 ちょっぴーり動かそうとするだけで、微妙に鈍い痛みが走るのだ!

 昨夜の鬼ごっこは、ミーア的にはオーバーワークだったのだ。

「くぅ……これは……もう、今日は起きなくてもいいのではないかしら? 今日の分は昨夜、運動して消費してしまったのでは……」

 などと、ちょっぴり怠惰な気分に浸りつつ、ぬくぬーくと毛布にくるまっていたミーアであったが……ほどなくして、こう、少しばかりお腹が切なくなってきた。

 昨夜はあの後、小腹が空いたので、クッキーなどをサクリ、モグリとした後、就寝したのだが……。

「ふぅむ……きちんと食べたつもりでしたけど……。特に動かずに、眠っているだけでもお腹は空くものなのですわね……。何もせずとも、食べた物はお腹から消えていく……実に不思議な話ですわね……」

 などと、哲学的なような……そうでもないようなことをつぶやきつつ、仕方がないか、と起き上がる。

 ちょうどそこへ……。

「あっ、ミーアさま、お目覚めになられたのですね」

 アンヌが部屋に戻ってきた。

「ああ、アンヌ。おはよう。ちょうど良かったですわ。着替えを手伝っていただけるかしら?」

 などと言いつつ、さぁて、今日の朝食はなにかしら? などとウキウキしていると……。

「お着換えの途中で失礼いたします。先ほど、ラフィーナさまから、朝食のお誘いを受けたのですが、いかがなさいますか?」

「まぁ、ラフィーナさまが……。たぶん昨夜のことですわね……。ふぅむ」

 正直、食べながらする話題ではないような気もするが……。

 ――朝食後の眠たい時間にするよりは良いかしら……。眠いと変なことを口走ってしまいそうですし。その点、食べながらであれば……。

 ミーア、即座に判断。それから、小さく頷いて、

「わかりましたわ、アンヌ。でしたら、朝食会に相応しいドレスを……。もちろん、簡易なものでかまいませんけれど、用意していただけるかしら?」

「かしこまりました、ミーアさま」

 そうして簡易なドレスに着替えると、ミーアは颯爽と部屋を後にした。

 目覚めの食欲の前では、筋肉痛の痛みなど些細なものなのだ。


「失礼いたします、ラフィーナさま」

 指定されたのは、図書館食堂の奥の部屋だった。

 どうやら、要人が会談に使う場所らしく、中はそれなりの広さがあった。十人程度ならば、窮屈さを感じない程度だろうか。

 部屋の中央に置かれた長テーブル席には、すでに人が座っていた。

 てっきりラフィーナだけかと思っていたが、クラリッサとアベル、さらには、ユバータ司教に加え……。

「みなさま、ご機嫌よう。オルレアンさまもいらっしゃいましたのね」

 ラフィーナの父、ヴェールガ公オルレアンの姿もあった。

 いつも温厚な表情を浮かべている彼であったが、今日は心なしか、表情が暗いようにも感じる。

 ――それはさておき、今日の朝食は……ふむっ!

 ミーアはテーブルの上に目を移し、ほぅっ! っと息を吐いた。

 ――なかなかにベーシック。それゆえに、期待ができますわ。

 王道が王道たるは、それに相応しき理由あり。

 ミーアはありふれた朝食を馬鹿にする愚を犯すことはない。

 焼き立てのふかふかのパン、濃厚なバター、あまぁいジャム、卵焼きに燻製肉のスライス。新鮮な野菜のスープとサラダ。

 そこには、すべてが……そう、ミーアが欲するすべてが揃っていた。パーフェクトであった。

 ――ああ、まさに理想的。ふふふ、これは楽しめそうですわ!

 深刻そうな空気など一切気にせず、ミーアは言った。

「ラフィーナさま、もう、呼んでおられる方は揃っているのかしら? でしたら、お食事にいたしませんこと?」

「いえ、ミーアさん……。その前に……」

「わたくし、今、とーってもお腹が減っておりますの。お腹が空いていては、議論はできぬと申しますわ。空腹ではイライラして、冷静な話もできぬもの。まず、お腹を落ち着けてしまいましょう」

 ミーアの言葉を聞いたラフィーナは、すぐに苦笑いをし……。

「そうね……。それならば、そうしましょうか。クラリッサ姫殿下、アベル王子もそれでいいかしら?」

 レムノの王族にも確認した後、朝食会は始まった。

 食前の祈祷の後、ミーアはパンに突撃した!

 パリリッとパンを割くと、それにシュシュっとバターを塗りたくり、まず一口。

 もっ、もっ! と噛みしめれば、口の中にジュジュワッとバターの濃厚な香りが広がる。

 ――おおっ! 美味しい。素晴らしいお味ですわ。ふふふ、昨夜、消費した分はたっぷり食べなければいけませんわ!

 寝る前に食べたあれやこれやは、ミーアの中ではノーカウントになっているのだ。

 そうして、パンをパクパク、野菜スープをほくほく、心から朝食を楽しんでいたところで……。

「ミーア姫殿下、改めて、この度のことは、申し訳ありませんでした。ジーナ室長の凶行、その責任はすべて私にあります」

 ちょうど、ミーアがパンを頬張っているところで、ユバータ司教が頭を下げた。

「この度のことの責任を取るために、私は職を辞そうと考えています」

 続く言葉に、ミーア、現実に引き戻される。

「ふぁぇ……?」

 口の中のパンに邪魔されて、帝国の叡智らしからぬ声を上げてしまうミーアであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
よくよく考えたらギロチン、斧、剣に首を狙われ続けてるし作中最強の武力持ちと毒使いに別時間軸で命を狙わたんだよねミーア姫って。 全員、今ではズッ友で後方腕組みしてるような。
有能な人ほど責任感が強くて辞職したがるジレンマ 蛇の狡猾さを考えると腹の底まで見抜くのは難しいよなぁ
朝……ミーアはベッドの上で唸っていた。  体が、動かなかった!  そう、それは金縛り――などではなく、まごうことなき筋肉痛である!  ちょっぴーり動かそうとするだけで、微妙に鈍い痛みが走るのだ!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ