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第八十一話 ミーア姫、冴え渡る!(ひさびさに……)

「ふぅむ、本当に水路がございましたわね……」

 目の前に現れた地下水路に、ミーアは小首を傾げる。

「これは、図書館になにかを運び込むために作られたというよりは、もともと町に張り巡らされた地下水路の上に図書館が作られたと見るべきか……。そこに繋げる形で秘密の通路を作ったけれど、図書館の歴史の中で忘れられていった、という感じなのかしら……」

 ふぅむ、っと唸りつつ、ミーアは腕組み。

「これは……」

 カッと目を見開いてっ!

 ――ベルが知ったら、とっても(たぎ)ってしまいそうですわ! 秘密にしておくことにしましょう。

 ベルがひょいひょい探検に出発してしまわないように配慮が必要な情報っとミーアの中でカテゴライズされる。ベルに対するリテラシーも完備しているミーアお祖母さまなのである。

 それはさておき……。

「この水路脇の道を通っていけば、いずれはどこかに出られそうですわね」

「でも、上流と下流、どちらに行きますか?」

 クラリッサの言葉に、ミーアは、再び考え込んでから……。

「そうですわね。では、上流に向かってみましょうか……」

「なにか理由があるのですか?」

 首を傾げるクラリッサに、ミーアは難しい顔で……。

「それほど深い理由があるわけではありませんけれど……。ジーナさんはヴァイサリアン族という海洋民族の出身のようなんですの。だから、万が一にも舟で追ってこられないように、ですわ」

 見たところ、水路の流れは速くない。これならば、走って追いかけてきたほうが速いだろう。けれど、この先、水路が合流するなどして、流れが速くなっているところがあるかもしれない。それに、ヴァイサリアン秘伝の、トンデモナイ操舟術があるかもしれない。

 それらを危惧したミーアであるが……実のところ、悩ましいところでもあった。

 なぜなら、ミーアの思考は、ある種、理に従ったもの。それゆえに、ジーナも同じように思考して、上流に向かってくる恐れがあるからだ。

 現状、理想はジーナを撒くことだ。

 彼女の裏をかいて、彼女と反対方向に逃走することが一番である。だから、ジーナの裏をかくために、あえて下流へ向かうほうが良いのかもしれない。

 けれど、それを踏まえたうえで、ミーアはあえて上流を目指す。なぜなら、上流に向かうならば、たとえ裏をかけなくとも、距離のアドバンテージがあるのだ。トンデモナイ操舟術で、考えられないような速度で追いかけられる、という可能性を潰せるからだ。

 それに、この距離を縮めるため、一発逆転を狙ってジーナが下流を目指す可能性もある。もしそうなってしまえば最悪だ。

 逆に、この距離さえ縮められなければ、なんとか逃げ切れるはず……。

 最悪な状況が揃ってもなお、なんとか逃げられるように備える、それこそが、小心者の戦略なのだ。

「さっ、参りましょう。クラリッサお……うじょ殿下」

 そうして、ミーアは歩き出した。水が流れてくる方に向かって。

 水路脇の道は、先ほどまでと比べて少し狭かった。

 気を付けていないと水路に落ちてしまいそうだが、幸いなことに、水の流れは穏やかだ。そよそよ、という水音を聞きつつ歩く、歩く。っと……。

「あの……ミーア姫殿下、一つお聞きしても、よろしいでしょうか?」

 不意に、クラリッサが話しかけてきた。

「あら……なんですの? クラリッサ姫殿下。わたくしに応えられることでしたら、なんなりと……」

「では……なぜ、あのような場所にいらっしゃったのですか?」

 クラリッサはわずかばかり逡巡した後、単刀直入に聞いてきた。灯りを透かして、クラリッサの視線を感じる。

 ――むっ、これは……。少しばかり答え方に注意が必要な気がしますわ。

 まさか正直に、クラリッサが放火する可能性があったから、などと言うわけにはいかない。ベルの秘密をバラすわけにはいかないが、それを抜きにして話すと、どうしても、疑っていたという悪感情を持たれてしまいそうだった。

 ――クラリッサお義姉さまを守るため、クラリッサお義姉さまがジーナさんに狙われていると考えたから、というのはどうかしら……?

 それならば、一見すると好感度を稼げそうなものだが……。しかし、後で嘘がバレると気まずいことになるだろう。

 それに、あんな危険人物に狙われていると知っていたのに、護衛の手配をしなかったのか、と、非難されないとも限らない。

 あくまでも、ジーナのことはイレギュラーとして扱うべきだろうと結論付ける。

 ――その辺りに触れずに……もっと平和な理由を……そうですわね。

 ミーアは一つ頷いてから、クラリッサの目を見つめて……。

「少々、クラリッサ姫殿下のことが心配だったものですから」

「心配? 私が、ですか?」

「ええ、そうですわ。どこかお元気がない様子でしたし……」

 それは、嘘ではなかった。もっとも、出会ったその日から、彼女の印象は一貫して、あまり元気ではない、なのだが……。そんなこと、おくびも出さずにミーアは続ける。

「パライナ祭の準備も、手こずっているご様子ですし、いろいろと鬱憤が溜まっておられるのではないか、と思いまして……あっ!」

 心配してますよアピールをした、まさにその瞬間っ! ミーアの中に、悪ぅいアイデアが生まれる! すなわち、それは……。

「クラリッサ姫殿下、いろいろと気が進まないところはあるかもしれませんけれど、ジーナさんが、何を思って襲ってきたのかわからない現状。この危機を打破するためにも、ここは一つ、腹を割って、お互い本音で語り合いたいと思うのですけど、いかがかしら?

 命のかかっているこの状況を利用して、未来のお義姉さまと仲良くなることを思いつき、即実行に移すミーアであった。

 思わぬ流れに呑まれても、そこでの最適解を模索する……熟練の海月の手腕が光る一手であった。

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― 新着の感想 ―
波に飲まれる海月は三流。 波に漂う海月は二流。 波を操る海月は一流。 そして波を作り出す海月こそが超一流。 ………いやそれポケモンだよな?
[一言] > ベルがひょいひょい探検に出発してしまわないように配慮が必要な情報 通路壁の穴からベル嬢が顔を出したりするかも?と思うミーア姫であったが、壁や床、果ては天井から顔や手を出すのはベルだけで…
>カッと目を見開いてっ! パカッと足元の床が開いてっ! ミーア「真っ逆さまですわ〜!?」
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