表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1304/1475

第五十二話 ミーア姫のメイスイリ

 その日の夜のことだった。

 ディナーとお風呂を終えたミーアはベッドに腰を下ろし、うつらうつらしていた。

 ちなみに、身を横たえていないのは、そのまま熟睡してしまいそうだったからだ。

「ふわぁむ……。お夕食も食べて、お風呂にも入って、本当であればもう寝てしまいたいところですけれど、まだすべきことが残っておりますし……ふわぁむにゅ」

 眠たげなあくびを二回ほどしたところで、幸いなことに、目当ての人物はやってきた。

 こんこんっと遠慮がちなノックの音。そうして入ってきたのは、ラフィーナだった。薄い水色の寝間着の上から、上着を羽織ったラフィーナ……どうやら、パジャマパーティーをやる気満々のようだった!

 ちなみに、室内にいるのはミーアとアンヌ、それにラフィーナだけである。

 ベルとパティはいない。二人は、シュトリナとハンネスに、それぞれ情報共有をしてもらっている。

 あまり一つの部屋に集まったりすると人目を引きそうだし、なにより狭いから、分散して行動するようにしたのだ。

「ご機嫌よう、ミーアさん。昼間は楽しかったわね」

 そうして、涼やかな笑みを浮かべるラフィーナに、ミーアも微笑みを返す。

「クラリッサ姫殿下のお相手をしていただき、助かりましたわ。荒嵐はひさしぶりでしたから、ついついそちらに力を入れ過ぎてしまいましたわ」

 そんなふうに和やかに言ってから……ミーアはそっと声を落とした。

「それで……そのクラリッサ姫殿下のことなのですけど……」

 ミーアの様子を見て察したのか、アンヌとラフィーナが近づいてくる。

「アンヌはこちらに、ラフィーナさまも……」

 自らを挟むようにして、アンヌとラフィーナに座るように促す。若干、ラフィーナに無礼かな……とも思ったが、今回は、機密保持のために我慢してもらうことにする。

 幸いなことに、ラフィーナは機嫌を損なう様子もなく……なんだったら、ちょっぴり嬉しそうに、ソワソワしながらミーアの隣に座った。

「お呼び立てしたのは、早急に情報を共有する必要が出てきたからなんですの。本当は、お茶とお菓子を楽しみつつ、のんびりできればと思っていたのですけど、少し急を要することでしたので……」

 ちなみに……ミーア的には寝る直前であろうと、あっまぁい紅茶とお菓子を食べる気満々であったのだが……アンヌに止められたのだ。

「昼間のご様子を見るに、あまり、そういったものを食べながらするのは、相応しくないのではないかと……」

 などと諫められたミーアは、なるほど、確かに、と頷く。

 なにしろ、アベルの姉の運命がかかっているわけだし、そもそもアベル自身の廃嫡問題にも関連することかもしれないわけだし……。さすがにお茶菓子がてら、というのは良くないかもしれない。

「ちょっとした香草茶(ハーブティー)ぐらいならばよろしいかもしれません。睡眠にも良い効果があると聞きますし……」

 ということで、アンヌが準備してくれた、ほのかに甘い香草茶を一口すすり、ほーふーう、とため息。それからミーアは言った。

「実は、クラリッサ姫殿下のことなのですけど……」

 いったん言葉を切って、もう一段、声を低くして……。

「クラリッサ姫殿下が……近いうちに、この神聖図書館に放火をする、という可能性がございますの……」

「それは……どういうこと?」

 眉をひそめて、ラフィーナが言った。アンヌも驚きのあまり、口をぽっかーんと開けている。ミーアは二人に頷いてみせてから、

「ベルからの情報ですわ……」

 そう言って香草茶を一口。そこで、改めてラフィーナとアンヌの顔を交互に眺めたミーアは、その表情を見て誤解の危険性を察知し……。

「ベルを経由した、ルードヴィッヒからの情報ですわ」

 それを聞き、二人の顔に、一挙に緊張が走る!

 ……普段のベルの立ち位置が偲ばれる出来事であった。それはさておき……。

「つまり、未来にそういったことが起こる可能性があると、そういうことね?」

 ミーアが神妙な顔で頷き、口を開こうとした……まさにその時だった!

 こん、こん……っと、部屋にノックの音が響いた。

 話していた内容が内容なだけに、ミーアたちは顔を見合わせる。

 それから、立ち上がったアンヌが恐る恐るドアを開ける。っと、廊下に立っていたのは、ラフィーナのメイド、モニカだった。

「ラフィーナさま、モニカさんが……」

「あら……? ちょっと失礼するわね」

 ベッドから立ち上がり、部屋を出て行くラフィーナ。ほどなくして戻ってきたラフィーナは、彼女にしては非常に珍しく、どこか焦燥感にかられた顔をしていた。

 ミーアの前に立つと、胸の前でギュッと拳を握りしめ、それから、気分を落ち着けるように、深々と深呼吸をして……。

「ごめんなさい、ミーアさん……」

 ラフィーナは深々と頭を下げた。

「え? どっ、どうしましたの? ラフィーナさま」

 ミーアの問いかけに、ラフィーナは泣きそうな顔で言った。

「蛇の巫女姫……ヴァレンティナ・レムノが脱獄したと、報せが来たの」

「…………はぇ?」

 急転直下の出来事に、思わず、目を瞬かせるミーアであったが……。

 ――ああ、なるほど……そういうことですのね!

 直後、ミーアのメイ推理が爆発する。すなわち!

 ――ヴァレンティナお義姉さまが、クラリッサお義姉さまに接触して、洗脳したと……そういうことですわ!

 実に、なんとも、安直な結論に辿り着いてしまったっ!

「ミーアさん?」

「なるほど……謎は、すっきり解けましたわ!」

 堂々と、メイタンテイのようなセリフを、厳かな顔でつぶやくミーアであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>>「ベルを経由した、ルードヴィッヒからの情報ですわ」   それを聞き、二人の顔に、一挙に緊張が走る! ウッキウキでパジャマパーティーできると思ってやってきてみればこんな話を聞く羽目になるとは……。…
……なお、ヴァレンティナが実際に行ったのはほぼ単なる駆け落ちである
>「蛇の巫女姫……ヴァレンティナ・レムノが脱獄したと、報せが来たの」 ベル「ふむ、さてはどこかに牢屋と繋がる秘密の通路が……」 ナレーター「もたらされた報せが、彼女の好奇心をくすぐってしまったようだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ