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第四十話 いつも心にラフィーナを……

 ラフィーナにお願いしたところ、すぐに部屋を用意してもらえた。

 小教室と呼ばれるその部屋では、定期的に子どもを集めて、聖人のエピソードの読み聞かせをしているらしい。

「勉学は大人になってからもできるけれど、倫理的なものは幼い頃から土台を作っておかないといけないものだから」

 というラフィーナの言葉に、なるほど、と頷くミーアである。

 ――ああ、それは実に大切なことですわ。聖人のエピソードというのは、要するに、ラフィーナさまのエピソードなどを聞くことでしょうし……。

 ミーアは涼やかな笑みを浮かべるラフィーナをチラリと見て……。

 ――わたくしも、幼い頃よりラフィーナさまのことを知っていれば、前の時に、パンがなければお肉を食べれば……などとは言わなかったでしょうし。

 民を小馬鹿にするような、そんなことを言えば、ラフィーナがどんな顔をするか……。想像して思わず、ブルルッと背筋が震えるミーアである。

 ――うん、大事なことですわ。こういった教育は。わたくしも子どもたちにしっかりと伝えていかなければなりませんわ。もっとも、ベルを見ていると、その辺りのことはきちんとしているのかもしれませんけど……。いや、でも、時折、恐れ知らずにもラフィーナさまに突っ込んでいっているような気もしますわね。ふむむ……。

 小教室には、テーブルがロの字に並んでいた。

 ミーアはラフィーナと並んで座る。遅れて、アベルが入ってきた。どうやら、アンヌが気を利かせて呼んでくれたらしい。

「アベル、こちらへ」

 ニコニコ顔で手招きし、自らの隣へと誘うミーアである。

「ふふふ、こうして並んで座ると、生徒会を思い出しますわね」

 この場に他の面々がいないのが少しだけ残念になるミーアである。

 やがて、全員が集まったところで……。

「さて、昼食前に集まっていただいて、恐縮ですわ」

 ミーアは立ち上がり、深々と頭を下げる。

 昼食の前、空腹の状態でこのような話し合いをしようなど……ミーア的に考えれば許されぬ苦行! そのような苦行をみなに強いてしまうことに、心からの謝罪とお礼をしつつ……。

「こうして、無事に神聖図書館にお招きいただけましたから、時間を無駄にせぬよう、これからすべきことを確認しておきたく思いましたの」

 それから、ミーアは静かに思考を巡らせようとして……。

「失礼いたします。ミーアさま。みなさまにも、お茶菓子を用意してまいりました」

 ちょうど良いタイミングで、お茶菓子とお茶を携えたアンヌが入って来た。

「昼食前なので、あまりたくさんはありませんが……」

 お皿の上に乗っていたのは、二枚のクッキーだった。

 ミーアは早速、一枚をペロリ、サクサク、ゴクリ、とし……。

 ――おお、甘さ控えめですけど、芳ばしくてとても美味しいですわ。

 昼食前、ちょっぴり減ったお腹に、クッキーが染み渡る。

 もう一枚を、大事に、大事に、味わって食べる。

 口の中、じんわりと溶けた甘味が、体の中に溶けだし、やがてはミーアの脳内に届く。

 頭が回転を始めるのを自覚しつつ、紅茶を一口。口の中をすすぎ、さっぱりした気持ちになってから、ミーアは名残惜しそうに空のお皿を眺め……眺め……眺めたまま……。

「ミーアさん……?」

 ラフィーナが不思議そうな顔で声をかけてきた。

「あ、ええ、少し考えごとをしておりましたわ。おほほ……。では、改めて。わたくしたちが、この図書館に来た目的は二つですわ。一つは、パライナ祭について。もう一つは、水土の薬について調べることですわ」

 確認するように指を折り……。

「パライナ祭については、まず、セントノエル、ミーア学園共同による海産物研究所のプロジェクトについて。そのパライナ祭での発表の仕方を検討する必要がございますわ」

 ミーアの言を受け、オウラニアが静かに立ち上がる。

「そうですねー。とりあえず、現状、ガヌドス港湾国にて、研究所は仮稼働していますー。育てやすく、いざという時には食料として使えるお魚探しを始めてはいますけどー。まだ成果と言えるものは出ていませんー」

「ヴェールガ公国から監視員として、すでに技術神官が派遣されているわ。パライナ祭の前に、学生、卒業生の中から有志を募り、ガヌドスへと派遣する予定よ」

 オウラニアに続いて、ラフィーナが言った。涼やかな笑みを浮かべつつ、ラフィーナは続ける。

「また、セントバレーヌのルシーナ司教にも、すでに連絡が行ってるわ。そちらには、レアさんとリオネルさんに行ってもらったの。ガヌドスと同様の研究施設を作れるよう、商人組合にも協力を要請する予定よ」

「なるほど。確かにお金が必要でしょうから、商人組合にお願いするのは妥当なことですわ」

「幸いなことに、ミーアさんの名前を出したら、簡単に了承を得られそうよ」

 ラフィーナは穏やかな笑みをミーアに向けた。

「さらに、セントバレーヌに加えて、セントノエルにも研究施設を作ろうと思ってる。海の魚だけでなく、湖の魚も研究の対象とするべきでしょうから」

 これで、都合三か所だ。

 ガヌドス、セントバレーヌ、セントノエルっと、話が想定以上に大きくなっていることに、ミーア、少々の不安を覚える。

 ――とりあえず、プロジェクト名には、わたくしにまったく関係のない名前を付けさせないといけませんわね。ミーアネットのような安直な名づけをさせないようにしなければ……。

 っと、思いつつも。

 ――なにか、ネーミングに使えそうな良いものがあればいいのですけど……。まだ、成果は出ていないといいますし……となると……。

 ミーアは難しい顔で頷いて……。

「……スケール感で押す感じが、よろしいかしら……」

 小さくつぶやいた。

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― 新着の感想 ―
>>――わたくしも、幼い頃よりラフィーナさまのことを知っていれば、 前の時に、パンがなければお肉を食べれば……などとは言わなかったでしょうし。 今となっては清廉潔白なミーアってどう頭を捻っても想像が…
>――わたくしも、幼い頃よりラフィーナさまのことを知っていれば、前の時に、パンがなければお肉を食べれば……などとは言わなかったでしょうし。 山椒は小粒でもぴりりと辛いと申しますが、ライオンさんはいる…
>いつも心にラフィーナを…… ナレーター「あとはギロちんでしょ?ディオンでしょ?シュトリナでしょ?タチアナでしょ?それから、それから……」 ミーア「いつまで経っても心が休まる気がしませんわ!」 ナレ…
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