表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1290/1476

第三十八話 とう……ぶんをの……ぞく?

「奇妙なことですわ……」

 ミーアのつぶやきに、ラフィーナはハッとした。

 それが、思ってもみない言葉だったからだ。

 ――奇妙というのは、どういうことかしら……?

 ラフィーナは、ミーアの怒りには同意できた。

「脅すなど、無意味なこと」

 武器を突きつけ、脅すことの不毛さに怒りを感じるのは、ラフィーナにとって当たり前のことだった。

 それは、なんと不毛なことだろう……。罪を重ねて得られるものなど何もないのに。誰かを脅しつけ、殴りつけて奪った対価が、その者の手にある時間など一瞬のこと。

 罪によって得た富は、死んでしまえば、その者のもとには残らない。されど、その罪は永劫残り続け、必ず裁きと報いがある。

 ミーアが時折、口にする通りである。蒔いた種の刈り取りは必ず自分でしなければならないのだ。

 ゆえに武器を突きつけ、他国を威圧して優位に立とうとする姿勢も、無意味なことであると、ラフィーナは考える。そんなことをすれば、必ず神の報いがあるのだ、と。

 道徳的な観点から、ラフィーナは、そう考えていた。

 けれど、ミーアの次のつぶやき……奇妙なこと、というのは、どういう意味か?

 ――ミーアさんが言うのだから、その言葉には必ず深い意味があるはず……。じゃあ、いったい、どういうことなのかしら……?

 ラフィーナは、そこで思い出す。先ほどミーアが、一瞬、アベルのほうに視線を向けたことを……。その後、ハッとした顔をして、すぐに表情を引き締めたことを……。

 あの意味は……。

 ――ああ、なるほど、考えてみると、確かにこれは奇妙な話だわ。パライナ祭で武器を披露するだなんて……。

 ラフィーナはすぐにミーアと同じ(……と彼女が考える)結論に辿り着いた。

 恐らくミーアは、先ほどアベルを見た瞬間に切り替えたのだ。道徳的な観点から、軍事的な観点に。

 道徳的観点から見れば、そのような脅しは不毛なことであるが、軍事的な観点から見ると、いささか奇妙である、と。

 ――レムノ王国が、仮に、許されぬ野心を抱いているのなら、わざわざ披露する必要はない。自身の力を誇示すれば、他国もそれに対応した軍備を整えてしまうのだから。

 仮に、レムノ王国が完全な大義名分を整えて、他国に攻め入り、領土を奪おうと考えているのなら、強力な騎馬隊を披露するのは無意味どころか、完全な悪手である。

 他国がそれに合わせて軍拡を進めてしまえば、なんの意味もないからだ。

 かといって他国に対する牽制、すなわち、自国へと攻め込まぬように脅しをかけたにしても奇妙な話だ。なぜなら、レムノ王国に攻め込もうという国が、そもそもないからだ。

 ――当時のレムノ王国は、どこかの国と関係を悪化させていたということはなかった。騎馬王国との関係も悪くはなかったし、なにより、レムノ王国に攻め込む大義名分を持つ国がなかった。奇妙なことだわ……。

 っと、その時だった! ミーアが、なにやらつぶやくのが聞こえて……。

「とう……ぞく?」

 極めて深刻そうな顔で、ぶつぶつつぶやいているミーア。それを聞いて、ラフィーナもハッとする。

 ――盗賊対策の装備としては、なるほど、有効なのかしら……。

 賊というのは、どこの国にも存在する。

 それらを討伐し、治安を維持するのは王の仕事だ。ゆえに、賊との戦いに良い道具があるならば、その情報を共有するというのは、パライナ祭の主旨に合致するかもしれないが……。

 ――騎馬隊の馬につける金属製の防具……盗賊団を威圧して降伏させる意味はあるのかもしれないわ。でも……。

 ラフィーナはミーアの顔を見る。どこかスッキリしない顔をしているミーア。

 ――ミーアさんは、レムノ王国の在りように、なにか、引っかかるものを感じているみたいだわ。

 それから、ラフィーナはクラリッサのほうを見て……。

「クラリッサ王女、ちなみに、それより前のパライナ祭は、どんな様子だったのかしら? レムノ王国では伝統的に、このような、軍事色の強い物を出しているの?」

「いえ、そうでもありません。その前は、農機具の一部に金属を使った物を出しているみたいで……」

「……つまり、急に軍事的な出し物をするように変わったということね」

 難しい顔でつぶやくラフィーナであった。


 さて……ちなみに、荒嵐の奇妙さに首をひねっていたミーアが、その後、どんなことを考えていたかと言うと……。

 ――ふぅむ、まぁ、荒嵐と運動に勤しむのはもちろんですけれど、ガヌドスから持ち込んだ食料にも限りがございますわ。海の幸による相殺が狙えないとなると、しばらくは糖分を除いた食料で満足する必要があるかしら……。糖分を除く……。

「とう……ぶんをの……ぞく?」

 ショックのあまり、思わず、途切れ途切れにつぶやいてしまう。

 ――除く、まではいかずとも良いかもしれませんわね。うん、控えめぐらいで。そう、レモンパイもちょっぴり控えめに、ジャムも多少は控えめに……そうですわ。一口分、控えることからスタートさせていくのが良いのではないかしら?

 アンヌに相談してみよう、と心に決めるミーアであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>>「とう……ぶんをの……ぞく?」 ラフィーナ、肝心な所を聞き逃したからこその閃き(笑)。 レムノ王国への対応の方向性は概ね決まったようですね。 某有名RPG3を買った事でティアムーン帝国物語を始…
――ふぅむ、まぁ、荒嵐と運動に勤しむのはもちろんですけれど、ガヌドスから持ち込んだ食料にも限りがございますわ。海の幸による相殺が狙えないとなると、しばらくは糖分を除いた食料で満足する必要があるかしら……
ミーア姫がこぼした言葉の、本当の意味にラフィーナ様が気が付いたら、どんな顔をするのでしょうね?w まさか「とう……ぶんをの……ぞく」が途切れて聞こえただけだなんてw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ