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第三十四話 第六資料管理室

 神聖図書館は、一種の円形図書館であった。

 天井のステンドグラスから差し込む光には荘厳な色がつき、なんとも厳粛な気持ちになってしまう。

「こちらは、ロビーとなっています。本の保管庫は建物の中心付近に、また、本を読むスペースもそちらにございます」

「ああ、本を日の光で傷めないためですね!」

 意外な蘊蓄を披露したのは――なんと、ベルだった!

 驚きのあまり瞠目するミーアとパティに、指を振り振り、ベルは解説する。

「本って、太陽の光にあてると、紙が傷んだりするんです。古い本だから、大切にしないといけないんですよ」

「正解です。よくご存じですね」

 同行していた司書神官の女性が感心した様子で頷いた。

「そうなんです。古い写本や巻物などは、光によって傷み、時に崩れてしまうことがあるのです。ミーア姫殿下もお読みになられる際には、お気をつけいただけると幸いです」

「なるほど。ああ、そういえば、ハンネス大叔父さまが発見した海獣写本も洞窟の中で保存されていたのでしたかしら?」

「さようです、ミーアさま。あれはまことに幸運なことでした」

 微笑むハンネスを横目に、ミーアはベルのほうに目をやった。

「しかし、そんなこと、よく知っておりましたわね、ベル」

「ふっふっふ、当然です! なにしろ、ボクは尊敬するミーアおば……姉さま……の皇女伝を守るために頑張っていたのですから!」

 それは、すでに消えた未来の世界の物語……。

 帝国最後の姫となったベルは、たった一人で、育て親のエリスから受け継いだ皇女伝を守り抜いたのだ。そう考えると、少しだけ孫娘が頼りがいのある人物に見えてくるミーアであった。

「むっ……このステンドグラスから入ってくる光……もしかすると、この光を使って動く仕掛けが……」

 などと、早くも探検しがいのある建物に、ウキウキ顔のベルである。頼りがいがあるように見えたのは、どうやら、錯覚だったようだ。

「ところで、先にアベル殿下のところにご案内いたしましょうか? それとも、一度、部屋に寄られてからにしますか?」

 ユバータ司教の問いかけ。ミーアは小さく頷いて……。

「ああ、そうですわね。わたくしは、先にアベルの顔が見たいですわ。クラリッサお義姉さまにも、早くご挨拶したいですし……」

「それなら、私もご一緒するわ。ミーアさん。ドルファニアにいらっしゃったのであれば、ご挨拶しておかなければ……」

 などというやり取りを経て、ミーアとラフィーナは一旦みなと別れて、アベルらの滞在している部屋に向かった。

 廊下は円形の建物に合わせて、緩やかにカーブしていた。外側に向けては、ステンドグラスがはめられていて、そこには、神聖典のエピソードが描かれていた。

「それにしても、巨大な図書館ですわね。帝国にあるものとは、比較になりませんわ」

「いえ、白月宮殿のものもなかなかの規模ですよ。ただ、この図書館は、各国から本を収集するのみならず、神聖典の釈義や古文書の研究、各地の民間伝承や奇跡の記録の真偽の検証なども行っているので、これだけの規模になっているのです」

「ほう、なるほど。研究施設としての機能があるから、これだけの規模があると……」

 感心の声を上げるミーアに、ユバータ司教は頷いて。

「それだけではなく、各地の教会が収集した書物が、すべてここに集まってきているので、その保管場所としての意味も非常に大きいのです。巻物の形のものもございますし……。あるいは洞窟に描かれた壁画や文字を、現地の神父が書き写したものの場合もございます。本の形ならば置いておくことも比較的容易なのですが、写しの場合には保管も場所を取られることがございますので」

「まぁ、そんなにいろいろな物が送られてきますのね……でも、それを整理するのは、なかなか大変なのではございませんの?」

「そうですね。なので、この図書館には第一から第五までの資料管理室があり、それぞれに担当する分野をわけて資料整理と研究を行っているのです」

 それから、ユバータ司教は前方を指し示し、

「もう少し行った先にある第五資料管理室が、この大陸の歴史に関する資料整理を行っているところです。おそらく、ミーア姫殿下がお探しの情報は、そちらにあるのではないかと思います」

「なるほど、では、後でハンネスさんに伝えておきましょう。ちなみに、この図書館には最近、流行っている小説本などは……」

 さらりと自然に、優雅に、ミーアが難しい調べ物作業を大叔父のほうに流そうとした、まさにその時だった。

「ああ、こちらにいらっしゃいましたの、ユバータ司教」

 前方から、一人の女性が歩いてくるのが見えた。

 その姿を見て、ミーアは、はて? と首を傾げた。

 スラリと背の高い女性だった。その全身は神官用の白いローブに包みこまれていた。袖口から覗く手首は細く、その肌は、室内の作業が多いからだろうか、抜けるように白い。

 そして、その年の頃は……正直、よくわからなかった。

 なぜなら女性の顔の上半分、目元までが、純白のベールで隠されていたからだ。まるで、花嫁衣裳を身に着けてでもいるかのように……。

 彼女はユバータ司教のそばまで来ると、ミーアのほうに、次いでラフィーナのほうに顔を向けて……。

「ああ……この方が……。お会いできて光栄ですわ。ミーア姫殿下。ジーナ・イーダと申します」

 優雅な仕草で一礼をし、ジーナ・イーダは、ベールで隠されていない口元に小さく笑みを浮かべて言った。

「この神聖図書館で、()()資料管理室の室長をさせていただいています」

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>>優雅な仕草で一礼をし、ジーナ・イーダは、ベールで隠されていない口元に小さく笑みを浮かべて言った。 中央正教会の人間って比較的質素で清貧を旨とする人たちばかりと思ってましたが、 これまたクセの強そ…
「ふっふっふ、当然です! なにしろ、ボクは尊敬するミーアおば……姉さま……の皇女伝を守るために頑張っていたのですから!」  それは、すでに消えた未来の世界の物語……。  帝国最後の姫となったベルは…
「ところで、先にアベル殿下のところにご案内いたしましょうか? それとも、一度、部屋に寄られてからにしますか?」  ユバータ司教の問いかけ。ミーアは小さく頷いて……。 「ああ、そうですわね。わたくしは、…
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