表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1272/1477

第二十話 オウラニア、ついに師匠の自分ファーストに気付いてしまう! ついに!!

「……ところで、オウラニアさん? わたくしは、ここで待っていればよい……のかしら?」

 ハンネスとの会談を終え、ミーアはオウラニアのほうに目を向けた。

「はいー。実は、お父さまはすでに王宮には来てると思うんで、すぐに呼びますねー」

 オウラニアは実にぞんざいな態度で言う。

「そうなんですの? しかし、一応はネストリ陛下は、この国の国王陛下だったかと思うのですけど……よろしいのかしら?」

 良いのだろうか……? 客室とはいえ、自身が王宮で待ち、そこに国王がやってくるというのは、良いのだろうか? なにやらミーアの小心者の心臓が落ちつかなげに騒いでいた。

「形だけでも、わたくしのほうから訪ねたほうが……」

「うふふー、なに言ってるんですかー、師匠ー。師匠のほうから出向くなんてもってのほかですよー。あんなの、呼び出してやればいいんですよー」

「しかし……」

「もうー、師匠は気にしすぎですよー。礼を払うべき相手には礼を払うべきですけれど、そうでない相手には、そうでない態度を取ったほうが良いと思うんですけどー」

 頬に指を当て、きょとんと小首を傾げるオウラニアに、

「いいえ、オウラニアさん、それは違いますわ」

 ミーアは、はっきりとした口調で断言しておく。

 あまり、偉そうなことは言いたくなかったが、一応、ミーアは師ということになっている。オウラニアが弟子として慕ってくる以上は、やはり教えておいてやらねばならないだろう。

 姫道の心得を。すなわち……。

 ――相手に礼を尽くすことなど安いもの。お金も労力もかからぬのですから、それで有利になることがあるのなら、しっかりしておくべきですわ。

 そう、ミーアは革命期に痛いほど知ったのだ。

 笑顔は無料。ならば、とりあえず微笑んで相手の好意を得ておいたほうが良い。それと同様に、礼を尽くすこともまた、無料なのだ。

 相手との交渉において、それで有利に働くことがあるならば、意地を張る必要はないのだ。

 不利な取引に何度も付き合わされたミーアは、そのことを深く知っている。ゆえに……。

「オウラニアさん、相手に礼を尽くすことと、相手が礼を返してくるかどうかということは関係ありませんわ。こちらの礼に対する相手の態度は、あくまでも相手の問題であって、わたくしの感知することではございませんもの」

 こちらの礼に、相手も礼を返してくるならば、それでよし。イーブンと言える。

 対して、こちらの礼に対し、相手が礼を返してこなかったら……? 相手は礼を失するという失態を犯すことになる。それは相手の評判を貶め、ひいてはこちらの有利に繋がるのだ。

 だからこそ、ミーアは強調する。

「腹が立とうが何だろうが、礼は尽くすべきですわ。それは、相手のためではなく、自分のためのことなのですわ」

 それは、自分が不利にならぬよう、ラフィーナやルシーナ司教、ユバータ司教のような、清廉潔白な人々から睨まれないようにするための術なのだ。

「なるほどー、相手がどうこうではなく、自分がー」

 オウラニアは考え込むようにして一瞬黙ってから、

「ありがとうございます、ミーア師匠ー。大変、参考になりましたー」

 深々と頭を下げた。


 ――そうかー、相手が礼を欠いたところで、それは相手の品位が貶められるだけのこと。それに合わせて自分の品位まで落とさないようにって、ミーアさまはお考えなんだわー。

 オウラニアは、改めて、自身の未熟さを実感する。

 ミーアの、自分に厳しく、他人には優しい、この清廉潔白な生き方は、オウラニアにはとてもまぶしく思えた。

 ――確かにそう考えていないと、支援とかも疲れてしまうかもしれないわー。

 ヴァイサリアンの受け入れは、ビガスの言うように上手くいっていた。けれど、簡単でもなかった。

 どうしたって、軋轢は生まれるもの。その報告を受けるたび、オウラニアは疲れを覚えるようになった。

「どうしてー、私がこんなにしてあげてるのにー、そんなわがまま言うのー? あなたたちのためにしてあげてるのにー」

 そんな風に、怒りを覚えることすらあったのだ。

 けれど……姫道の大家にして、オウラニアの尊敬する師であるミーアは言う。

「相手ではない。問題は自分のことなのだ」と。

 ――そうかー。要するにミーア師匠は自分ファーストなんだー。

 相手に優しくするのは、相手から報いが欲しいからではない。

 ただ、相手に優しくできる自分でありたいからなのだ。

 相手に礼を尽くすのは、相手に礼を返してほしいからではない。

 どんな相手にも礼を尽くせる自分でありたいから、なのだ。

 ――相手の反応に左右されず、ただ誇り高い自分を貫く……。さすがは、ミーア師匠だわー。すごく格好いいわー!

 師匠への尊敬を新たにオウラニアは深々と頭を下げる。

「善き姫への道、大変、勉強になりましたー。ミーア師匠ー」

 そう言うと、ミーアはどこか照れくさそうな顔で頷き、

「ふふふ、ずいぶんと、偉そうなことを言ってしまいましたけれど、あくまでも、わたくしが体験して得た教訓ですから。参考程度にとどめていただけると嬉しいですわ」

 ――ミーア師匠は、こんなふうに、姫としてのご自分を律しておられるんだー。すごいなー!

 っと、ますます、黄金に輝く尊敬の念を深めてしまうオウラニアなのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
暫く忙しくて未読が溜まってしまいました。 久しぶりですが、相変わらず相手が良いように解釈してくれる展開。 そうしてしまうミーアの話術は天才級?と思ってしまう。
>>笑顔は無料。ならば、とりあえず微笑んで相手の好意を得ておいたほうが良い。 それと同様に、礼を尽くすこともまた、無料なのだ。 この場合とは違いますが、たとえ好ましくない相手だったとしても、 とりあ…
ボランティアなんかでも本当に助けが必要な相手は助けたい姿をしていないと言いますからね どうしても心のどこかでこんなにしてやってるのに!と言う気持ちになってしまう私はそっと募金だけする……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ