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第十八話 冒険家ハンネス、大冒険譚を語る

 さて、明けて翌日。

 ヴァイサリアン族の集落を調査していたハンネスが面会にやってきた。

 王宮の客室に颯爽と入って来たハンネス。帽子を脱いだところで、

「ハンネス師匠、お疲れさまです」

 すちゃっ! と背筋を正して、ベルが歩み寄る。帽子を受け取り、深々と頭を下げる。

「ああ、すまないね、ベル嬢」

 穏やかな笑みを浮かべるハンネスである。

 ……最近、姫友の間で、師弟ムーブが流行っているのだろうか? と、ミーアは思わず首を傾げる。

 ――ううむ、あれ、楽しいのかしら……? わたくしの師といえば、やはりクソメガネでしょうけれど……アレに師匠というのは、あまり愉快なこととは思えませんけれど……。クソメガネはクソメガネですし……。

 なぁんて、かつての師匠の姿を思い出しつつも、ミーアはちょこんとスカートを持ち上げる。

「ハンネス大叔父さま、ご機嫌麗しゅう」

 ハンネスは胸に手を当て、恭しくお辞儀をする。

「ご機嫌麗しゅうございます、ミーア姫殿下。みなさまもお変わりないようで……」

 ベルやシュトリナたちのほうに目を向けて、それから、ハンネスはパティに目を留める。

「パトリシアお姉さまも、お元気そうでなによりです」

 っと、そんなハンネスに、パティは小走りに近づき、彼の顔をペタペタ触ってから、

「……ハンネス、無理してない? 疲れた顔してる」

 むーっと眉間に皺を寄せる姉に、ハンネスは苦笑いを浮かべ、

「ははは、実は、つい先ほど着いたばかりでして。いろいろと飛び回っているので」

「あまり、冒険とかで無理しないほうが……」

 なぁんて、実に心配そうな顔をする姉に、彼は小さく首を振り、

「この程度のこと、なにほどのこともありません。こうして姉上と会い、話ができていること自体が奇跡のようなものなのですから。これほどの奇跡を得られたのです。多少の無理は、無理の内に入りません」

 それから、ハンネスは改めてミーアのほうに顔を向けた。

「ご報告申し上げます、ミーア姫殿下。あれから、いくつかのヴァイサリアン族の隠れ里を発見いたしました。隔離縞のヴァイサリアン族の協力を得たことで、すでに壊滅した集落の調査もでき、いくつかの貴重な資料も回収することができました。中でも、地を這うモノの書の、かなり古い写本の一部と思われるものを発見することができました。そこは、海沿いの、木々の奥に秘された洞窟で……」

 と、ちょっぴり興奮気味の顔で語り出したハンネスだったが、直後、ハッとした顔をして、

「ああ、申し訳ありません。つい、みなさまに興味がなさそうな冒険譚を……」

「ぜひ、聞かせてください! ハンネス師匠!」

 明るい声を上げたのは、ベルだった! ハンネスの経験した大冒険譚への期待に、瞳をキラッキラさせている。

「……私も、ハンネスがなにをしていたのか、聞きたい」

 微かに眉間に皺を寄せ、パティが言った。こちらは、弟が無茶をしていないか、きっちりチェックしてやるぞ! という気持ちがにじみ出ているようだった。

 そんな二人の様子に苦笑いをしたミーアは、

「そうですわね。それでしたら、お茶でもいただきながら、ハンネス大叔父さまの冒険譚を聞かせていただくことにいたしましょうか。アンヌ、お願いできるかしら?」

「はい。かしこまりました、ミーアさま」

 ミーアの言葉を受けて、アンヌが素早く動き出す。

 オウラニアの専属メイド、トゥッカの手も借りて、素早くお茶とお茶菓子の用意が整えていく。それをルンルン気分で眺めつつ、体を弾ませることしばし。

 やがて、場が整ったところで、ハンネスが話し始めた。

「では、改めてお話しさせていただきます。まずは、一つ目のヴァイサリアン族の隠し里の話なのですが……。そこは、例の初代皇帝の碑文が残された島のほど近く。同じような島の中にありました」

 彼が最初に行ったのは、今は無人島になっている島だという。大きさ的には、ミーアたちが遭難しかけた島の、およそ半分程度とのことで……。

「小舟で近づこうとしたのですが……そこに近づいてくる、巨大な背びれ! そう、島の周りを泳ぐのは、世にも恐ろしい巨大な人食い大魚――」

 何やら、ノリノリで語るハンネス。が……。

「……そっ、そんな危険な場所に行ったの!?」

 驚愕に青ざめるパティに気付いたのか、ハッとした顔をしたハンネスは、

「…………と呼ばれていた、実際には、大変、温厚なムーンボウという魚で。背びれだけ見て大慌てした船員と笑い合ったという笑い話です、姉上」

 微妙な軌道修正をかけた。

 実に調子よく話すハンネスを眺めながら、ミーアはふと思う。

 ――ふふふ、温厚なお魚を人食い大魚と盛るなんて、ハンネス大叔父さまはなかなかにお調子者ですわね。

「とまぁ、そんなわけで、無事に島に入り、滅びた集落の跡も発見したのですが。あいにくと、そこに住んでいる者はおりませんでした。そして、それは他の場所でも同様でした。回ったのは全部で三か所。いずれも、生き残りのヴァイサリアン族を発見することはできなかったのですが……」

 言葉を切って、意味深にミーアたちの顔を見回してから、ハンネスは言った。

「これは、三つ目の集落の話です。その集落は森の中、丘の斜面沿いにあったのですが、そこに、まるで怪物が口を開けるがごとく、洞窟があったのです。それも、今にも崩れそうな……」

「……まさか、危ない場所に入ったんじゃ……」

「えー、崩れそう、と思ったのは気のせいで。そう見えるだけでした。で、その奥の、壺の中に保管されていたのです。何かの海の獣の皮で作られた巻物が……」

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― 新着の感想 ―
>>「ああ、申し訳ありません。つい、みなさまに興味がなさそうな冒険譚を……」 多分歴史学者がひっくり返りそうな大発見をしてると思いますが……? 成果じゃなくて過程に意味を見出すあたりが生粋の冒険好き…
ハンネス氏とベル嬢の様子を見ていると… ベル嬢の治世になった頃、各家には「ラヂヲ受信機」なるものが備えられ、 『水曜スペシャル「ベルとハンネスの探検隊」』と言う自称未踏の地や廃墟を女帝自らと、その大叔…
>ムーンボウという魚 ハンネス「ええ、とても不思議な姿をした魚でしてね。何でも、全身を最初に見た人間達は『何者かが首と胴体に切り分けたのだろうか?』『この魚は生首だけで泳いでいるぞ。胴体は一体どこへ…
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