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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第百三十二話 事情聴取

 別室に移動して早々に、フーバー子爵が口火を切った。

「して、我らにお聞きになりたいこととは、いったいなんでしょうか?」

「そう、ですわね……」

 ミーアは、すぐに本題に入っても良いものか……一瞬、考えて後……、念のために神聖典の一節を唱える。

「褒めたたえよ、神の名を。我らの日々の労苦に報い、我ら弱き者を養いたもう大いなる方を」

 高らかに声を張り、ミーアはみなに視線をやる。

 ――確か、蛇は神聖典に拒否反応を示す、という話がございましたけど……。

 そうして反応を確認するが……フーバー親子も、ヨハンナも、キョトンとした顔をしていた。

 ――まぁ、この確認の仕方は確実ではないようですけれど、一応は安心しても良いのかしら……。ん?

 その時、ふとミーアは気付く。

 自らのかたわら、しっかりついてきたパティが……パティまでもが不思議そうな顔で見上げていたから。

 ――あら、パティはこの確認の仕方を知らないのかしら?

 少々、不思議には思ったものの、ミーアは咳払い。それから、

「失礼しましたわ。先ほどの討論会が素晴らしくて、ついつい、神に賛美を送りたくなりましたの」

 ユバータ司教の目のないところでも、さりげなく、信仰に篤い皇女殿下をアピール。万が一にも足元をすくわれないように余念がないミーアである。

 一口のケーキは、ミーアの脳みそを活性化させているのだ。

「さて、実はお聞きしたいことがあって、こうして集まっていただいたんですの。まず、ナコルさんにお聞きしたいのですけれど……あなたが先ほど言った言葉、『政治とは集団行動である』というのは、非常に興味深い見解でしたわ」

 まず褒めつつ、ミーアは鋭い視線を向けて、ナコルに問う。

「あれは、あなたが自分で考え出したことかしら? 先ほどは“学んだ”というように言っていたかと思いますけれど、なにか、本の知識かしら? あるいは、どなたかから聞いた話か……」

「はい、ご賢察のとおり、私は、その言葉を父の持つ本の中に見つけました。厳密に言えば、本に挟まれたメモによって、ですが……」

「ほう、メモ……」

 ミーアは腕組みしつつ、深々と頷いた。

「なるほど、本ではないのですわね」

「はい。切れ端に書かれたものでした」

 眉間に皺を寄せつつも、ミーアは唸る。

 ――地を這うモノの書本体というわけではないのですわね。とすると……。

「ああ、それは兄の残したものではないかと思います」

 横から、フーバー子爵が口を挟んできた。

「我が兄、シドーニウスは、時折、そのように思いついたもののメモを本に挟む癖がありました。古の賢人の本を読みつつ、そこから得られた知識をどのように若者に伝えるか、日々考えている人でしたから。自らの考え付いたことを忘れないように、その都度、メモして残していたのだと思います」

「なるほど……先代フーバー子爵のメモ……」

「はい。日夜、本を読み、グロワールリュンヌの学生たちをよりよく導くために思索を深める、そういう人でした」

「そう……なんですのね」

 正直、よりよく導くに関しては、一言、物申したくはなるものの、それをグッと呑み込んで、それからミーアはパティに目を向ける。っと、パティも無言で頷いて応える。

 ――やっぱり、そういうことですわね。蛇の知識を書いたメモが、ところどころに残されている、だから、断片的な知識は得られても、蛇の核心、秩序を破壊し、混沌を招くというあたりまでは教えられていないのですわ。

 そこまで考えたところで、ミーアは小さく首を振る。

「いえ、そう判断するのは、早計かもしれませんわ……」

 自分にとって都合の良い情報こそ、信じやすいもの。

 今年は不作だったかもしれないけれど、来年は大丈夫だろう。きっと今年少なかった分、例年以上の豊作年で、切り崩した備蓄も回復するに違いない。

 そんな楽観主義に毒されて、斃れていった貴族が何人いたことか……。

 ――結論を出すにはまだ早いですわ。もっとじっくりと、そのシドーニウスさんという方のことを聞き出さなければ……。

「ああ、シドーニウス……フーバー子爵か。懐かしいな……。確かに、いつも考え事をしているような、物静かな男だった」

 そうつぶやいたのは、マティアスだった。

「しかし……ふふふ」

 そこで、マティアスは、なにやら思い出し笑いを浮かべる。

「今だから言えるが……てっきり、私は、母がシドーニウスに好意を抱いているものと思ったのだ」

「なんと! 陛下! それは、パトリシアさまに失礼というものじゃ。パトリシアさまは、表情にこそ出さないものの、当時の皇帝陛下にぞっこんであったことは、陛下もご存知でございましょうに!」

 ヨハンナが、抗議の声を上げる。

 それを聞きパティが……こう、なんとも言えない、味のある表情を浮かべる。嬉しげでもなく、照れるでもなく、なんというか……実に胡散臭そうな顔をしていた!

 えー、ぞっこんとか、本当かよ……とか、思っていそうな、しかめっ面だ!

 そんなパティの様子になどまったく気づかずに、マティアスは頷いた。

「わかっている。一度、聞いてみたことがあるからな……。フーバー子爵には悪いが、実に嫌そうな顔をされてしまった」

「滅相もございません、陛下。皇太后さまと兄が、そのような恐れ多いことにならず、安堵しております」

 恐縮するフーバーに一つ頷いてから、マティアスは言った。

「恐らく、母はシドーニウスが子を成さなかったことを気にかけていたのであろうな。子爵家の存続にも、グロワールリュンヌの教育にも影響があることであろうしな……」

 ――ふむ、パティが気にしていたというのは、少々、気になりますわね。

 チラリ、とパティに目を向ければ、パティは小さく頷いてから、

「……やっぱり、疑わしい人物のように思います。先代のフーバー子爵は……」

 囁くような声で言った。

 ――パティがそういうのであれば、もう少し、話を膨らませてみましょうか。

 ミーアは一つ頷き、フーバー子爵に目を向けた。

「シドーニウス殿……先代、フーバー子爵は、実に興味深い人物のようですわね。それに、わたくしも気になってしまいますわ。なぜ、子を成さなかったのか……。貴族にとって世継ぎは必須な物ですし……。なにか考えがあったのかしら?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >>――あら、パティはこの確認の仕方を知らないのかしら? そりゃあ、その方法はミーアが捕らえたジェムに対してラフィーナが始めたのが最初ですもの。 パティはその洞察力で見抜くから必要は無い…
[一言] ミーアが聖句使った所で本物の蛇に効くか不安…… ちょっと今まで捕まえた蛇で実験してみない?()
[良い点] ミーアは、すぐに本題に入っても良いものか……一瞬、考えて後……、念のために神聖典の一節を唱える。 「褒めたたえよ、神の名を。我らの日々の労苦に報い、我ら弱き者を養いたもう大いなる方を」  …
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