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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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番外編 楽しい夜の宴は続き

 それは、実に楽しい宴の夜だった。

 討論会が行われた日の夜、聖ミーア学園の学長室にて。

 賢者ガルヴとその弟子たちが旧交を温めていた。

 メンバーはルードヴィッヒとバルタザル。それに加えて、ミーア学園で教鞭をとる者が数名混じっていた。

 みな、ガルヴによって才能を見出された、優秀な弟子たちだった。

 その場にいた者たちの表情は、一様に明るかった。

 酒杯を手に、上機嫌に笑みを浮かべる者たち。誰からともなく、つぶやきがこぼれる。

「素晴らしい討論会だったな……」

「ああ……あれを見ていると、帝国の未来は明るいと思えるな」

 彼らは感動していた。深く、深く! 感動していた!!

 この聖ミーア学園で育ちつつある若き才能に。

 まぶたの裏、浮かぶのは、聖ミーア学園の生徒たちの堂々たる態度だ。中央貴族の子弟たちを前にして、臆することなく己が意見をぶつけ、そして、建設的に深めていく。

 罵倒しあうのではなく、揚げ足を取り合うのではなく、相手を言い負かすことを目指すのでもなく……違った視点、違った考えをぶつけることで、より高みを目指していく。

 この国をよりよくするためには、どうすればよいか……ただ、それを考え、熱意をぶつけ合う。

 馬鹿貴族どもに何度も苦杯を飲まされたことのある彼らにとって、それは実に理想的な光景だった。

「あのセリアという少女は、どの月省であろうと力を発揮しそうだな」

 バルタザルの言に、ルードヴィッヒは頷いた。

「そうだな。彼女は、確かミーア姫殿下が孤児院で見出された俊英だ。そういう意味では驚くこともないのかもしれないが……」

 いや、それでも、ここまで来るのは並大抵のことではなかっただろう、と思い直す。

 持って生まれた才能は、磨かなければ光りはしないのだ。きっと彼女は、この学園で努力を積み重ねてきたのだろう。

「セリアは、堅実で理性的な思考をすることができる。視野も広いから、官僚向きの子じゃな」

 ガルヴは、まるで孫娘の自慢をするような口調で言った。

「じゃが、他の子たちもそれぞれに優秀じゃ。ワグルは木材の加工に才能を示しつつある。他者に教えるのも上手いから教師などが向いているやもしれん。セロは言わずもがなじゃな。ドミニクはアイデアの閃きと、思いのほか人に頼るのが上手い。自らの着想を実現するために誰の力を使えば良いのかを把握している辺り、貴族の跡継ぎとしては優秀なのじゃろうな」

「ミーア姫殿下が目指されている国造りのために必要な人材が育ちつつありますね」

 感心した様子のバルタザルに、深々と頷き、ガルヴは続ける。

「そうであろうな。この学園の生徒たちは、その中核を担う者たちであろうが……同時に、あの方は、それだけでは満足されていないようにも思えるな」

 顎髭を撫でつつ、ガルヴが言う。その意味を考えるように、彼の弟子たちは黙り込む。

 軽く眼鏡の位置を直しつつ、ルードヴィッヒが口火を切る。

「グロワールリュンヌの者たちへの語りかけにも意味があった、と……?」

「しかり。そして、そこから、ミーア姫殿下の考えておられる改革の形が見える。すなわち、急進ではなく漸進を……とな」

 厳かな口調で、ガルヴが言った。それを認めるように、ルードヴィッヒは頷いた。

「そうですね。間違いなく、それこそがミーアさまのお考えなのでしょう……」

 自らの権力で強引に押し進めるのではなく、良くない物を一つずつ改めながら、少しずつ国を改革していく。

 急進的な改革というのは、目覚ましく華やかに見えるもの。とても魅力的に見えるもの。

 今日寝て、明日起きたら問題が解決している、というのは、理想的で、好ましく思えるもの。

 けれど、現実はそう上手くはいかない。

 急進的な改革は、しばしば混乱を生み、不安を生み、高い確率で誰かの血を流させるもの。生じた恨みは、さらなる復讐と血を生み、国内は荒んでいく。

 それが本当に急進であるならば、まだ救いはあるだろう。されど、急すぎる改革は、急進ではなく、ただの急変で終わることもよくある。変わる先のヴィジョンの共有のない変化は、ただの、旧勢力の破壊に過ぎず。やってくるのは、改善された未来ではなく、混沌と破壊のみ。

 仮に権力が腐敗しているからといって、強引に破壊してはいけない理由がそこにある。

 それでも時に、強引に改革をなさねばならぬ時もなくはないが……。

「ミーアさまのお働きにより、帝国には猶予ができた。食料事情に何の手も付けぬまま、この不作の年を迎えていれば、四の五の言ってはいられなかっただろうけれど……今は未来を考える余裕がある」

 はじめの頃、ミーアは自らの権力を使うことに遠慮がなかった。

 それは、喫緊の大きな危機に備えてのこと。今のルードヴィッヒには、それがよくわかる。確かに、あの時は、悠長なことは言っていられなかった。食料体制並びに新月地区の状況を改善し、食料不足に備えること。

 それを断行しつつも、ミーアの目はすでに将来のことへと向けられていたのだ。

 一つの危機を乗り越えたからと言って、今のままならばいずれは、帝国は斃れてしまう。多くの民の犠牲とともに……。それを回避するために……。

「人々がついてこられるように、人々が自分で考え、納得したうえで変わっていけるようにする、か……」

「さよう。ミーア姫殿下の改革は少数の精鋭によってなされるものにあらず。精鋭たちによって、多数の貴族を、民衆を動かし、より良き未来に向けての歩んでいくように促すものである、と、今回のことで明らかになったのではないかな?」

 師の問いかけに、弟子たちは納得の頷きを返し……そして、

「帝国の叡智に……」

「大陸が誇る叡智に……」

「帝国初の女帝陛下に!」

 誰からともなく、乾杯の声が上がる。


 楽しい夜の宴は続く。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ミーアには自覚の無いままなんとなく今後の帝国の進みゆく道が見えてきたようで……。 まぁこの人たちが健在の間はミーアの治世も安泰でしょう。 後継者も育ちつつありますし。 今回の討論会で収穫…
[一言] ガルヴ学長一派の眼鏡は、もはや通常レベルの曇りガラスでは無く、VRゴーグルか?
[良い点] ミーアがこれまで避け続けてきたこと。 ・きる→(有能な人材を無為に)切る→(ギロちんで自分の首を)斬る→kill ・たかい→(飢饉で食糧の値段が)高い→(民も自分も)他界 ・しぼう→脂肪…
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