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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第百二十話 紅茶を飲みつつ、考えて……

「それは申し訳ないことをしましたわ。つい興味がある事柄でしたので、自分の意見を口にしてしまいましたの」

 フーバー子爵の指摘を受け、ミーアはちょっぴり反省した。

 ――ああ、いけませんわね。ついつい、口を挟み過ぎてしまったみたいですわ。今回の主役は学生たちですし……。少し控えなければ……。

 そうして、話をミーア学園の学生に譲ってから、ミーアは目の前のお茶に集中した。

 上等な紅茶と共に、目の前に出されたのは……美味しそうなケーキだったっ!

 わぁっ! と内心で声を上げつつ、ミーアは早速フォークを手に取る。いや、取ろうとした……。

 けれど、そこでミーアはハッとする。

 ススッと視線を動かす、と……アンヌが実に心配そうな顔で見つめていた。ギュッとスカートを握りしめて、真っ直ぐにミーアに視線を向けてくる。

 ――ここで好き放題にケーキを食べてしまっては、今朝の運動が無駄になってしまうかもしれませんわ。それに、アンヌの心遣いを無碍にすることになるかも……。

 ミーアは小さく息を吐き、フォークを置こうとした……置こうとしたのだ! しかし、そこで、驚愕の事実に気付く!

 ――て、手が、動きませんわ! こっ、これはいったい!

 すわ毒薬でも飲まされたか? などと思うも、すぐに違うと気付く。

 ――わたくしの身体が……この美味しそうなケーキを欲している。わたくしの理性に逆らって動こうとしているというんですの? はっ! ということは、わたくしが気付かぬうちに食べ物が消えている現象も、わたくしの身体が勝手に動いたということ? この体がわたくしに逆らっているということですの!?

 などと……愉快なことを考えつつ、ミーアは首を振り、

「美味しいお茶菓子を出されれば、食べるのが当たり前。それが自然というもの……それを食べないのは不自然ともいえる」

 思わずつぶやいてしまう。そうなのだ、目の前にケーキがあれば食べるのが当然というものなのだ。それは、ちょうど、手を放したフォークが下に落ちるのと同じようなもの。

 食べるのが自然。食べないのは不自然。その不自然をするためには……。

「それを、実現しようとするには、意志の力が必要……」

 うぐぐっと右の手を左の手で押さえ、意志の力を総動員。ケーキから全力で意識を逸らしつつ、なんとか、紅茶のほうに意識を向ける。

 ミルクたっぷりの紅茶には、当然、砂糖は入っていないが……仕方ない。これで我慢!

 ミーアは紅茶を一すすり、ふぅーっとため息を吐いたところで……。

「この帝国がより栄え、富むための方法、最も単純に、それを行う方法がある。にもかかわらず、それをしないのはひどく不自然なこと」

 なにやら、グロワールリュンヌの学生、ヤーデンが驚愕の表情を浮かべていた。

 ――はて、ヤーデンさん……。どうかしたのかしら?

 不思議に思いつつ、成り行きを見守っていると……。

「そして、その不自然さは偶然に生まれたものではなく……何者かの意志によってもたらされたもの……?」

「馬鹿な……。つまり、何者かが悪意を持って、この帝国の繁栄を阻害しようとしている、と……? いや、そんなことが……」

 なにやら、困惑の表情を浮かべるグロワールリュンヌの学生たち。それを見て、ミーアも、はて? と小首を傾げる。傾げつつも……、

「ミーア姫殿下! 要するにおっしゃりたいのはそういうことではないのですか? 何者かが、悪意を持って、帝国貴族の認識を変えようとしているのだ、と……」

 思わぬ質問が飛んできた。

「はぇ……?」

 思わずヘンテコな声が出るも、瞬間に察する! これは、なにか、流れが来ている気がするぞ! っと。

 即座に首の動きを修正、深々と頷くムーブを取りつつも、

「い……。まぁ、その……そういう感じですわ」

 それから、紅茶を一口。ゆっくり、じっくり飲んで、時間稼ぎをする。

 ――ヤーデンさんの言葉を、思い出す必要がございますわ。帝国がより栄えるために農地を活用すればいいのに、それをしないのはひどく不自然とか……そんな感じのことを言ってましたわね、そして、その不自然が起こるには、何者かの意志の介入が必要、と。

 幸い、ミーアがつい先ほど考えていた『美味しそうなケーキを食する必然性に関する哲学的考察』と同じようなことを言っていたため、すぐに理解することができた。

 そうして、ミーアは気付く。

 ――あら? これ、もしかして、初代皇帝を上手いこと炙り出すことができるんじゃ?

 ミーア学園の学生たちによって証明されつつある、農学の有用性。農地活用の合理性。にもかかわらず、それが今まで疎外されてきた不自然性。

 そして、その不自然に、何者かの悪意が絡んだ可能性……!

 グロワールリュンヌの学生たちは、貴族の常識に囚われがちではあっても、愚かではない。それを阻害する要素が多くあるだけで、合理的な思考ができないわけではないのだ。

 ゆえに、彼らは辿り着いた。

 初代皇帝の真実に繋がりそうな推論へと。

 けれど……ミーアは、もう一度、紅茶をすすりつつ、考える。

 ――その悪意を持った何者かを初代皇帝である、と断定してしまっても良いものかしら……?

 懸念点はそこである。下手に初代皇帝が犯人だったと言ってしまえば、受け入れられない者もいるだろうし、なにより……。

 ――それって、わたくしたち、皇帝一族の責任に繋がりかねないかもしれませんし……。

 お前らのせいで、帝国が豊かにならなかったんだぞ、ふざけんな! などと言われるような事態は避けたいところである。であれば……。

 ミーアは静かに頷いて、みなの顔を見つめて。

「そう、何者か……この帝国に悪意を持った者が、農業に対する軽蔑の思想を過去に取り入れた。帝国貴族の思想は歪められてしまった。わたくしは、そう考えておりますわ」

 キリリッとした顔で言い切るミーア。

 とりあえず、未知の仮想敵を登場させることに決めたミーアであった。

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― 新着の感想 ―
それもこれも全部混沌の蛇って奴らの所為なんだ!
[一言] この方向性で押していくと、農業をやれば楽なのにわざわざ他のことをするのは愚かなことって価値観にもなりかねないのが面倒な所ですね
[良い点] >>わたくしが気付かぬうちに食べ物が消えている現象も、わたくしの身体が勝手に動いたということ? 今の今まで自覚がなかったのもすごい(笑)。 >>思わずヘンテコな声が出るも、瞬間に察する…
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