第百十四話 ミーアの脳みそ、運動によりいい感じに整う!
「ふぅむ……」
さて、朝食を食べ終えたミーアは、お腹を軽くさすり……。
「なにやら……とっても美味しくいただけましたわね!」
早起きしての運動は、実に良い具合にミーアの体を整えてくれた。
正直、眠いし面倒だなぁ、と思っていたミーアだったが、アンヌの熱心さに負けて、仕方なく運動に参加したのだが……そのおかげで、しっかり目が覚め、そのうえ、お腹も良い感じに減ってくれた。
ということで、朝食も大変美味しくいただけたのだった。
「ありがとう、アンヌ。なんだか、すごく調子が良いですわ」
「はい! それはなによりです」
ニッコリ嬉しそうに笑うアンヌに、ミーアも穏やかに微笑み返す。
ちなみに朝食は、昨日、野菜刻み隊が刻み過ぎた野菜をたっぷり、たぁっぷりと入れたスープだった。
スープにはパンが入っており、しっとりとしたパンと野菜の甘味を十分に味わうことができた。
ピリリとした香辛料も相まって、大変美味な野菜スープに、ミーアはついついお替りをしてしまったりもして。
「ああ、なにやら、とってもすっきりとした気分ですわ。充実した朝という感じですわね」
憑き物が落ちたような、すっきりした顔をしていた。なんだったら、実際に余分な憑き物(FNY)が落ちたのではないかしら? などと思うミーアであったが、さすがにそこまで甘くはなく、アンヌトレーニングは、とりあえず、一週間の予定で実施されることになるのであった。
翌日からは、マティアスも参戦してきて、ミーア的には大変面倒くっせぇ! ことになったりするのだが、まぁ、それはさておき……。
「やはり、健康のためには、たっぷり食事を食べて、適度に運動する。これこそが大切なことですわ。食事、食事、運動、食事……。これが大事なのですわ」
改めて、食事の大切さを実感するミーアであった。
ナニカがすり替わったような気がしないではなかったが、まぁ、それはさておき!
本日の討論会の会場へ向かいつつ、ミーアはすっきりした頭で考え始める。
討論会の、目的を再確認しておかなければ、と思ったのだ。
――討論会の達成目標を、きちんと設定しておくことが必要ですわ。
今のミーアにとって、パライナ祭はメインではない。そもそも、よくよく考えれば、パライナ祭では、どちらにしろ、セントノエルとの共同研究開始を発表しなければならないため、ミーア学園の参加は確定しているのだ。
――たぶん、ラフィーナさまがその辺りのことはなんとかしてくださるでしょうし、ぶっちゃけ、別にミーア学園が出なくても問題ありませんわ。面倒そうですし……。
そう割り切っている。
ゆえに、ミーアの真の目的は「グロワールリュンヌの学生たちに、このミーア学園の良さを伝えること」であった。
ここで教えている農学の良さを伝え、反農思想を払しょくすること。また、できれば、中央貴族の子弟たちに、ギロちんの危険性をわかってもらい、意識改革を進めていくこと。
それこそが、ミーアの達成すべき目的だ。
――今の貴族の当主たちは、わたくしが女帝になる頃には引退している者も多いはず。となれば、若い世代に正しい認識を持ってもらうほうが効率的というものですわ。
楽して、ギロちんを遠ざけられるならば、それに越したことはない。朝から運動&水浴びしたミーアの頭は、すっきり冴え渡っているのだ。
討論会の会場は、聖ミーア学園で最も広い教室だった。
大きな六角形の教室の中央には、机が四角く置かれており、それを取り囲むように傍聴用の椅子が並べられていた。
机には向かい合うようにして、すでに、聖ミーア学園の生徒たちと、グロワールリュンヌの生徒たちが並んでいた。
ミーア学園のリーダーは新月地区の孤児院出身、孤児院の歴史上一番の秀才と謳われた少女、セリアだった。
やや緊張して、うつむいている彼女に、ミーアはそっと歩みより、その肩に手を置く。
「あ……ミーア姫殿下」
「セリアさん、今日はよろしくお願いいたしますわね」
「はい……精一杯務めさせていただきます……」
そう答えたものの、その声には覇気はなく。その瞳は不安に揺れていた。
数瞬、迷った様子を見せたうえ、セリアは続ける。
「あの……本当に、私で、よろしいのでしょうか?」
「…………ふむ」
不安そうな顔で問いかけられて、ミーアは思わず考える。
――ここで、口先だけの適当な励ましを言っても、意味はありませんわね。
朝の適度な運動が、ミーアの脳みその血流をいい感じにしていた!
自らの勘に従い、ミーアは、嘘偽りのない本音で勝負することを決断。口を開く。
「わたくしが選んだわけではないので、あまり軽々しくは言えませんけれど……わたくしは、あなたが、この聖ミーア学園で努力してきたことを知っておりますわ」
そう……ミーアは知っている。この学園は、あのクソメガネの師匠、ガルヴが理事長をしている学園なのだということ。しかも、セリアに関しては、他ならぬミーアが余計なことをやっちまったせいで、ガルヴに直接、師事するように手配してしまったのである。
――あのガルヴさん……見た感じは好々爺っぽいですけど、それでも、ルードヴィッヒらの師匠ですし……。きっとあのクソメガネの数倍は心を抉ってくるはず。厭味ったらしくねちねちと、言ってくるはずですわ……にもかかわらず、ここに踏みとどまっているというのは、十分に誇るべきことなのではないかしら……。
そうして、ミーアはセリアの目を見つめ、頷いてみせる。
「あなたは、あの孤児院から聖ミーア学園にやってきて、逃げることなく、学びを続けてきた。それこそが、あなたがこの席に座る資格を持っているという証左なのではないかしら……?」
ミーアのその言葉に、セリアはポカンと口を開けたが……その顔が徐々に嬉しそうに笑みを浮かべていく。
「それに、あなたは一人ではありませんわ。セロもワグルもおりますし。だから、絶対に大丈夫ですわ」
「はい……! ありがとうございます、ミーアさま」
明るくも、活力のある声を上げたセリアに、ミーアは満足げな笑みを浮かべた。




