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第百十九話 先導者・扇動者ランベール

 ミーアたち三人は、なるべく目立たないように都市長の館を目指した。

 変装のためにシオンは帽子を、ミーアは布を頭にかけ、ベールのようにして……。

 シオンの方はともかく、ミーアは、こそこそ、きょときょと、落ち着きがなくって、実にアヤしい……。

 もっとも、それどころじゃないからか、二人が注目を集めることはなかった。

 町のところどころには、武器を手にした若者たちの姿があった。

 みな着の身着のままで、正規の軍隊のような統一性はそこにはなく。ただただ、その顔を興奮と高揚に紅潮させていること以外に共通点はない。

「革命軍……」

 前の時間軸を一瞬思いだしたミーアであったが、すぐにその違いに気づく。

 その瞳に宿る光は、どちらかというと祭りの前のような純粋な興奮。

 あの時の帝国革命軍のような刺すような憎悪も、ねっとりと絡みつく暗い欲望の色も感じ取れなかった。

 通り沿いの家は巻き添えを避けるためか、どこも固く戸を閉ざしてはいるが……。

 見た限りでは、略奪行為などは行われていないし、騒然としてはいるものの殺伐とはしていない。

 ――さっきの連中も、人を殺せそうには見えませんでしたし……。

「あれが、革命派の同志よ。ほら、あそこを見て」

 リンシャが指さした先には人だかりができていた。そして人だかりから離れていく者たちの手には青い布のようなものが握られていた。

「あれは……?」

「革命派のシンボルみたいなものかな。あれを頭に巻くんだって。蒼巾党(そうきんとう)とか名乗ってたかな」

「そっ、そうきんとう……?」

 ミーアは口の中でつぶやいてから、

 ――んー、微妙な名前ですわ。なんか、パクリっぽいような。どこかの怪しげな教祖に率いられた連中みたいな名前ですわね。

 冴えわたるミーアの勘が、ついに異世界の情報をもキャッチした!

 ……勘の無駄遣いである。

 ――金剛歩兵団の方がぜんぜん強そうですわ。

「ちなみに、彼らにはどのぐらい俺たちのことが知られてるんだ? まさか全員ではないんだろうが……」

「もともとの同志には連絡は行ってると思うけど、あの人たちはどうかしら? 多分、兄さんの呼びかけに反応して集まってきた人たちだと思うから……」

「なるほど。それならば好都合だ。あいつらに紛れて急ごう」

 シオンは小走りに人垣の方に行くと、青い布をもって戻ってきた。

「ほら、ミーア、君も」

「だ、大丈夫かしら……?」

 ミーアは、頭に青い布を巻いた。

「まぁ、そうね……。頭から布をかぶってるよりはマシかしら」

 リンシャは、小さくため息を吐きながら言った。



 都市長の館は、ちょっとした貴族のお屋敷といった風情の建物だった。

 すでに、騒乱は収まっており、広い庭には、続々と青い布を頭に巻いた男たちが集まってきていた。

 そして、その彼らを煽り立てるように、一人の青年が声を上げていた。

 リンシャと同じ、ブラウンの髪と深みのある青い瞳。その瞳にはどこか陶然(とうぜん)とした光が宿っていた。

「我々は当たり前の要求をしているだけだ。重税によって苦しむ我々の声を届けたい。その代弁者たるダサエフ宰相を我々のもとに返してもらいたい。それだけだ。しかし、王政府は我々の声に耳を貸さない。こんなことが許されるだろうか? ゆえに我々は立ちあがったのだ。都市長は、我々が館を包囲する前に護衛を伴って逃亡した。我らの訴えを無視して、無責任にもだ」

 それは、聞き惚れるような歌手のような声ではない。

 力強い騎士団長の声とも違う。

 絶妙に抑揚のついたそれは、ある種のカリスマを持った政治家が国民を鼓舞し、あるいは扇動(せんどう)するときの声音に非常に似ていた。

「それを阻止できなかったのは残念だが、こうして町を無事に押さえることができた。すべては我々の訴えに応えてくれた同志諸君のおかげだ。みんな、ありがとう」

 その声に、広場の若者たちが一斉に吠える。別に戦闘に勝利したわけでもないというのに、その士気は非常に高い。

扇動者(せんどうしゃ)……か。民を()きつける語りは見事だが……。リンシャ、もしかすると、あれが君の兄君かな?」

 シオンの問いかけに、リンシャが返事をする前に、

「ああ、リンシャ。来ていたのか……」

 青年がこちらに目を向けた。

「ランベール兄さん……」

「おや? その子どもたちは?」

 ランベールは怪訝そうな顔で、シオンたちの方を見たが、

「ひょっとすると、ジェムが言っていた子たちかな? 革命を邪魔する危険性があるとか、何とか……」

それを聞き、彼の周りにいた者たちが一斉に剣に手をかける。

 呼応するように、シオンもまた身構えるが……。

「やめておこう。年端もいかぬ子どもに剣を向けたとあっては、誰も我々の話など聞いてくれなくなるよ」

 ランベールは手を挙げて、周囲の者たちを制した。

「お願い、兄さん。この子たちと話をして」

「話を……か」

 彼は静かにシオンとミーアの顔を見つめてから、薄っすらと笑みを浮かべた。

こんにちは、餅月です。もうすぐ十二月ですね。

寒くなるのでお体に気を付けてお過ごしくださいませ。

では、また火曜日にお会いできると嬉しいです。

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[一言] 異世界の情報まで...なんて勘してやがる...!
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