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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第百三話 轡(くつわ)を並べん

 ――なっ、なんてことだ! ミーア姫殿下……カルラを料理で殺っちまうつもりのようだぞ!

 ミーアの言葉に、サフィアス、心底から震える。その、一切の悪意のない笑顔が、ただただ恐ろしい。が……。

 ――い、いや、だが、そのようなことは、さすがに……。

 サフィアスは、じいっとミーアを見つめる。んっ? と小首を傾げるミーアに、再び思い直す。

 ――ミーア姫殿下は、善良な方だが――その叡智がどのような計算をはじき出すのか、わからないぞ!

 慌てて、サフィアスは口を開く。

「ちっ、ちなみに……キースウッド殿はいらっしゃるのでしょうか……?」

 救いを求めるように問えば、ミーアは楽しげに笑った。

「あら、やはり仲良しなのですわね。もちろん、キースウッドさんにも参加していただいておりますわ。とても熱意をもって仕事にあたっていただいておりますわ」

「ああ……そうですか。それなら……」

 かの正義の国、サンクランドに属する彼ならば滅多なことはしないはず……っと、そう安堵しかけて……違和感!

 ――いや、いやいやいや……。ミーア姫殿下が、充実した顔をしておられる……実に、満足げな顔をしておられるぞっ!

 はたして、キースウッドのストッパーが働いているのに、こんなに、輝かんばかりの笑顔をしているものだろうか? 彼が正常に働いているのであれば、ミーアは思い通りになどできないはず……。このような……思うようにやってやった! という満足感に溢れた顔をするものだろうか!?

 芽生えた疑問に危機感を刺激されたサフィアスは、尋ねてみる。

「ちなみに、そのプニッツァなる料理、どのような料理なのでしょうか……?」

「そう……ですわね。それは見てのお楽しみ!」

 なぁんて、悪戯っぽい笑みを浮かべるミーアに、イラァッとしかけるも……。

「と言いたいところですけど、ふふふ、わかっておりますわよ。サフィアスさんもキースウッドさんと同じく、お料理好きですものね」

 続くミーアの一言に、やっぱりイラァアッとしてしまうのだった!

 それをなんとか呑みこんで……。

「え、ええ……そうですね。なにか、お手伝いできることがあればと思いまして……」

「ならば教えて差し上げますけど、薄く伸ばしたパンの上に色々な具材をのせて、チーズでとじたような食べ物ですわ」

「色々な具材……それは、具体的には……?」

「そうですわね。キノコはもちろんですけれど……」

「キノコ……」

 確か、ここは静海の森のそばだったはず。キノコは、まぁ、当然、のせるか……などと思っていると……。

「ふふふ、ビックリしますわよ? 目玉は、なんと毒抜きした毒キノコで……」

 ――毒キノコっ!? それは、本当に毒が抜けてるのか? あの、いわゆる『死ななければ毒とは呼ばない』とかいうトンデモイエロームーン理論で毒抜きされたものなのでは……?

 ニッコリとシュトリナの可憐な笑みが頭に思い浮かび、サフィアス、震える。

 ――こっ、これは、場合によっては早期に撤退もあり得るか……。くぅっ、すっすまん、我が妹よ。そして、母上、どうぞ、ご無事で……。

 撤退の判断が非常に早いサフィアスであったが……。

「失礼いたします……おおっ! これは、サフィアス殿!」

 部屋にキースウッドが入って来た!

「お、あ、ああ……き、キースウッド殿……これは……」

「ふふふ、お二人はお友だちのようでしたから、気を利かせてお呼びしておきましたの」

 シレッとミーアがそんなことを言いやがった!

 呆然とするサフィアスの手を両手でギュッと握りしめ、

「よくぞ……よくぞ来てくださった。サフィアス殿」

 しみじみとした口調で、キースウッドが言った。彼の嬉しそうな……心底から嬉しそうな笑顔を見て……友の、戦友の、顔を見て……サフィアスは思い出す。

 この友が以前、ブルームーン家に助けに来てくれた日のことを……!

 彼を残し、逃げることなどできるだろうか?

 友を戦場に残し、自分一人が撤退する……? そんなこと、できようはずもない。

「なぁに……ミーア姫殿下が、料理の腕前を振るおうというのだ。俺にも、なにか役割が回ってくるのではないかと思ってね」

 引きつった笑みを浮かべつつ、サフィアスは言った。

「それに……グロワールリュンヌの代表には、我が妹も選ばれているらしくてな。母もいることだし……」

「それは……。そうだな、引くわけにはいかない戦いというのは、あるものだ」

 腕組みし、うんうん、っと生真面目な顔で頷くキースウッド。

「では、共に、この、災難……」

 サフィアスの合流で気が抜けたのだろう。うっかり災難などと言いかけたキースウッドであったが……。

「はて? 災難……?」

 きょとんと小首を傾げるミーアに咳払いを一つ。それから、キースウッドは笑みを浮かべ、

「この際……なんにも代えがたい光栄を、二人で享受しましょう……」

「なんにも代えがたい光栄か……ははは、そうだな。そうしたいものだな、アハハハ」

 サフィアスもまた、乾いた笑みを浮かべる。

 そう……戦友との絆は、時に家族の絆を上回るほどに重いもの……。事ここに至っては、もはや撤退はあり得ない。となれば……。

「それで、そのプニッツァという料理を実際に見てみたいのだが……」

 事前にできる限り備えるしかない。

 覚悟のキマッた顔をするサフィアスに、キースウッドが感動した様子で頷いた。

「それは……実に心強い」

 感動に、声を震わせるキースウッドであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しいことだけではなく、 苦しいことも共有してこそ友人。 ならば、キースウッドとサフィアスは間違いなく友人だ。
[良い点] お互い地獄に仏な状況(笑)。 思わず失言が出てしまうくらいには多少の心の余裕が出来たかな? >>――なっ、なんてことだ! ミーア姫殿下……カルラを料理で殺っちまうつもりのようだぞ! ま…
[良い点] 胃痛コンビ強く生きて……
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