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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第九十一話 こっそりと、さりげなく……

「なるほど……。ブルームーン公爵夫人の件、安心いたしました。ところで……」

 こほん、と咳払いを一つして、ルードヴィッヒはチラリとミーアのほうに目を向けた。

「ミーア姫殿下……なんでも、新しいお料理の開発をなさるとか……」

「あら、ルードヴィッヒ、耳が早いですわね。ええ。そのとおりですわ。先日食べたプニッツァに、わたくし、大いに感動してしまいましたの」

 ミーアはパンッと手を叩き、ニッコリ笑みを浮かべた。

「あれは、素晴らしいお料理でしたわ。パンともケーキとも違う味わいで。薄めのパイと言えばいいのかしら……。ふふふ、ともかくとっても美味しくって。わたくし、大いに想像力を刺激されてしまいましたの」

「なるほど、それで、さらなる美食の開発のために御自らが開発に参加なさるということなのですね。使者の胃袋を掴んでしまうというのは、確かに、良い手段だと思います」

 応じたのはバルタザルだった。これが帝国の叡智か、やっぱり違うなぁ! とひとしきり感心した様子の彼に、ミーアは上機嫌に微笑んで、それから、ハッとした顔でアンヌのほうに目をやって……。

「ええ、まぁもちろん美味というのも大切なことですけれど、わたくしは、別のことも考えておりますの」

「別のこと、と言いますと……?」

 不思議そうな顔をするバルタザルに、ミーアは、もったいぶるようにたっぷり溜めてから、

「食べる者の健康を視野に入れたメニューですわ!」

 ばばーんっ! と、腰に手を当て胸を張り、ミーアは言った!

 その答えに、意表を突かれた、とばかりにバルタザルは目を見開く。

「なるほど。食を通した健康……ですか。それは盲点でした……。確かにそれは他国との関係構築で使えるメニューができるかもしれません」

 『王よ、永遠に健やかに生きられますように』という文言は、古き時代の外交使節の常套句だ。食を通し、相手の健康を願う姿勢を見せるのは、外交手段として有効なように思えた。

「他国の使者の食べ慣れたメニューを出すのももてなしならば、相手の健康を祈るのもまたもてなし。なるほど、実に理に適っている」

「ついでに、帝国の各地の食材を楽しんでもらえればいいとも思っておりますの。その地域ごとに、あるいは季節ごとに使える食材は異なりますわ。今回は、静海の森が近くにあるということで、森で採れる食べ物を使うのはどうかと思っておりますの。ウサギとか、野草とか……キノコとか」

 こっそりと、さりげなーく、キノコを付け足すミーアである。

 そんなちょっとした工作でも、バルタザルはコロッと騙されてしまうようで。

「おお、それは素晴らしい!」

 キラッキラと目を輝かせるバルタザルに対し、黙って話を聞いていたルードヴィッヒは、あくまでも冷静な態度を崩さなかった。

 彼は眼鏡をグッと押し上げ、

「ミーアさま、その件で、お願いしたきことがございます」

 キラリと光るレンズの奥、知性の色を湛えた瞳は真っ直ぐにミーアを見つめている。

「あら……ルードヴィッヒ、なにかしら?」

 その視線の鋭さに、ミーアは、ゴクリと喉を鳴らす。

 彼の発する圧力が、かつてのクソメガネ・ルードヴィッヒを思わせるものだったので、ついつい、自分に不手際があったのではないか? と不安になってしまう。

 ……いや、まぁ実際には不手際……というか、不正な改竄をプニッツァ・ポイントに対して行っているミーアなわけなので、かつてのクソメガネが現れたら、怒られるというか、呆れられることは間違いないミーアなのであるが……。

 けれど、生憎なことに、かつての澄みきった眼鏡は、今やすっかり白く曇ってしまっているようで……。

「私も、その新メニュー開発会に参加させていただけないでしょうか?」

 真っ直ぐな瞳で、ルードヴィッヒは言った!

「あら、ルードヴィッヒも……? お料理ができるんですの?」

 意外な申し出にミーアは目を丸くする。一瞬、この忠臣は料理までできるのか? などと驚くミーアであったが……。

「いえ、残念ながら素人です。もっとも、師匠のところで、一人で生きていける程度のものは仕込まれておりますが……、残念ながら、ミーアさまのお役に立つ意見を出せる自信はありません。しかし、その……」

 ルードヴィッヒは、心なしか、ソワソワした顔で言った。

「噂に聞くミーアさまのお料理会を、一度見学してみたいと思っていたのです」

「あら、そうでしたのね? ふふ、プニッツァは美味しいですしね。参加希望というのもよくわかりますわ」

 楽しげに微笑んで、ミーアは言った。

「もちろん、歓迎いたしますわ。ルードヴィッヒの視点からもぜひ、意見がいただきたいですわ」

 快く参加を許可して、満足げに頷くミーアである。

 ――まぁ、謙遜しておりますけど、ルードヴィッヒのことですし、きっと料理にも卓見を示してくれるに違いありませんわ。

 っと、そこでミーアはポコンッと手を打った。

「あ、そうですわ! ガルヴさんにも、なにか良い食材を紹介していただくというのはいかがかしら? 確か、大陸中を旅されているということでしたわよね?」

「そうですね。それに、ルールー族の族長殿にも協力を要請して、なにか良い食材を紹介してもらうのが良いのではないでしょうか?」

「名案ですわね。きっとわたくしたちの知らないとっておきのキノコを紹介していただけますわよ。うふふ、楽しみですわ!」

 上機嫌に鼻歌混じりに笑うミーアだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 眼鏡の曇りがとれる最大のピンチでは?
[良い点] ナレーター「その日、キースウッドは久しぶりに悪夢を見てうなされた。巨大な毒キノコプニッツァの斜塔が倒れてきて下敷きになる夢であった」
[良い点] >>「噂に聞くミーアさまのお料理会を、一度見学してみたいと思っていたのです」 ルートヴィッヒからすれば、歴史の転換点に立ち会うような高揚感なんだろうなあ。 せっかくミーア様の側でその手腕…
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