表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
1193/1477

第八十七話 ミーア式高等算術

 料理学部に寄った後、ミーアは宿泊している部屋へと向かっていた。

 教室と、ミーアたちが宿泊している建物とは繋がってはいないため、一度、外に出る必要があった。

 青々とした芝生をザクザク音をさせて歩くと、心地よい緑の香りが匂い立つ。

 爽やかな夏の空は、ミーアの晴れ晴れとした気持ちを表すように雲一つない青空だ。降り注ぐ日に軽く目を細めながら、ミーアはつぶやく。

「ふふふ、上手くいって良かったですわ。キースウッドさんも快く引き受けていただけましたし……」

 なぁんて、ほくそ笑むミーアに、アンヌが心配そうな顔をする。

「でも、ミーアさま、食べ過ぎは……」

「アンヌ……だからこそ、ですわ」

 ちっちっち、と人差し指を振り振り、ミーアが言った。

 なんというか、こう……見る人が見たら……それこそ、キースウッドやサフィアス辺りが見たら、非常にイラァッとするような、余裕たっぷりの顔で。

「だからこそ、新しいプニッツァを開発しようというのですわ」

 偉そうに胸を張り、ミーアは言う。これまた見る人が見れば、という態度なのだが、生憎とここにいるアンヌの目には、それはひどく頼りになる態度に見えてしまう。

「それは、どういう意味なのでしょうか?」

「ふっふっふ、いいですこと? アンヌ。プニッツァは、確かに食べ過ぎると体に悪そうですわ。たぶん、タチアナさんに怒られてしまうであろうこと、想像に難くありませんわ。けれど、ここの料理学部のみなさんならば、作ることができるのではないかしら……体に良いプニッツァを!」

「体に良い、プニッツァ? あ、もしかして、それでキノコを……?」

 腕組みしつつ、ドヤァ顔でミーアは頷く。

「ええ、その通りですわ。リーナさんが以前言ってましたの、キノコの中には体に良いものがあると。さて、ここで高等算術の問題ですわ。もしも、プニッツァが体に悪いもの……プラスであったとしても、その上に体に良い食べ物、すなわち帳消しにするマイナスをのせれば、どうなるかしら……?」

「……っ! まさか、悪いものが相殺される……ということですか?」

 愕然とした様子でつぶやくアンヌに、ミーアは格好よくウインクして。

「ええ、そのとおりですわ! 一マイナス一はゼロ。その応用ですわ。一の良いものを食べることで、一の悪いものを食べることを相殺する。すなわち、結果は……」

「なにも食べてないことになるっ!」

 ハッと目を見開いたアンヌ。よくできました、とばかりに、ミーアはパチパチ拍手した。

「わたくしは、さらに考えを進めておりますわ。むしろ良いものを二食べれば、多少体に悪い甘いケーキを食べても良いのではないかしら? 体に良いプニッツァを二枚食べれば、甘い甘いケーキを食べる余裕も生み出すことができるのかもしれませんわ」

 ミーアは、タチアナが聞いたら気絶してしまいそうな、実に、良からぬことまで言い出した!

「そう……なのでしょうか。でも……う、ううん……」

 アンヌは、混乱に目をグルグルさせている。

「もちろん、運動も頑張りますわよ? それならば、この理屈が多少間違っていたとしても、問題ないのではないかしら?」

 大いに間違っていたら問題大ありなのだが、その可能性は考慮しないミーアなのである。そんなミーアに押されるように、アンヌは……。

「確かに……そう、なのかもしれません。特別初等部の子どもたちも楽しそうでしたし……それでいい、のかも……?」

 ついに押し負けてしまう!

 ……だが、ミーアには一つだけ見落としていることがあった。

 それは、とても基本的なこと……。自らが蒔いた種は、自らが刈り取らなければならないということ。

 すなわち、いくらアンヌが納得してくれたとしても、食べ過ぎた反動は確実に自分に帰ってくるのだ、ということだ。けれど……残念ながら、それに気付くことはなく……。

「そうですわ。ついでに、ティオーナさんもお料理会に誘うのはどうかしら? お野菜も体に良いと言いますし、たっぷりプニッツァの上にのせれば、その分、たくさん食べられ……あら?」

 と、そこで、ミーアは気が付いた。

 ミーアたちの宿泊している部屋の前に、一人の少女が立っていることに。

「あれは……パティ?」

 心なしか肩を落とし、立ちつくしていたのは、ミーアの祖母であるパティだった。どこか思いつめた顔をしてうつむいているパティに、ミーアは首を傾げる。

「パティ、どうしましたの? こんなところで……そんな顔をして」

 小走りに近づき声をかける。っと、そこでミーアはハッとする。

 普段、表情の変化が薄いパティが……、いつでも沈着冷静な祖母パティが……こんな表情をするとは……。ただ事ではないと気付いたのだ。

 パティは顔を上げ、ミーアのほうに目を向ける。けれど、すぐに、ううっと頭を抱えてしまう。

「ちょっ、どうしましたの、パティ。ヨハンナさんになにかされましたの? それとも、あ! あの、フーバー子爵とか言う野郎に……」

 などと、思わず、姫らしくない言葉がチラリしかけるが、パティはゆるゆると首を振って、

「……ヨハンナさんとお話はできた。フーバー子爵や従者に邪魔されることもなかった。それに、ヨハンナさんがどうして、あんな感じなのかは、だいたいわかった、けど……」

 パティは困り切った顔で言った。

「どうしよう……どうすればいいのか、わからない」

「な、なるほど。わかりましたわ。とりあえず、ここでは落ち着けませんし。部屋の中に入りましょうか。アンヌ、申し訳ありませんけれど、気分を落ち着けるお紅茶を持ってきていただけるかしら?」

「はい。かしこまりました!」

 ビシッと背筋を伸ばし、走っていくアンヌを見送ってから、ミーアは改めてパティから事情を聞くことにした。


 ちなみに、ミーア式高等算術がイマイチ釈然としなかったアンヌは、タチアナに検算をお願いし、その結果、いろいろと大変なことになったりするのだが……。

 まぁ、それは別の話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ギロちん「忠臣を騙すような悪い子は……ギロっちゃうぞ♪」 ギロちン「ギロッテアゲヨウネ……ギロッテアゲヨウネ……」
[一言] ミーアエリート達に囲まれヘルズキッチンへと招待されたキースウッドに絶体絶命の危機が!負けるな挫けるな!君が諦めたら世界の危機だぞ! ちなみに毒キノコを昔の人は意地でも食べるために塩漬けは当…
[一言] 馬サンドイッチマン『カロリーゼロですわ~』
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ