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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第七十八話 きっとご褒美に違いない

「ミーアさまが、ダンスの手ほどきをしてくれる……?」

 その話を聞いた時、セロ・ルドルフォンは、思わず驚きの声を上げた。

 それは、彼が教室で、パライナ祭でのミーア二号のプレゼン方法を、セリアと検討している時のことだった。

 観察記録や育成の要点に関しては、アーシャと相談していたものの、その情報の出し方となると研究担当の自分たちは向いていない。専門知識に踏み込み過ぎてしまうからだ。

 だからこそ、万能の秀才、セリアに協力を求めていたのだが……、そこにワグルが駆けこんできたのだ。

 ミーアが、聖ミーア学園の学生にダンスレッスンを施してくれる、という、驚愕の情報を持って。

 教室に残っていた生徒も、それを聞きつけて、一様に同じような驚愕の表情を浮かべていた。

 まさか……と思う。

 そんなことはあり得ない、と常識が言う。

 けれど……。

「ミーアさまならば、そうなさるかもしれない」

 セロは思ってしまう。

 彼が知るミーア・ルーナ・ティアムーンという人は、そういう人だからだ。そして……。

「やっぱり、セロもそう思うか?」

 どうやら、ワグルも同じ考えのようだった。驚きつつも、その表情にはどこか納得の色も見えた。

「だけど、さすがに、ミーアさまご自身が教えてくださるなんてことは……」

 対して、異を唱えるのは、常識人のセリアだった。孤児院から、聖ミーア学園へと引き上げてもらった彼女だから、ミーアの慈悲深さはよく知ってはいるのだが……、さすがにダンスレッスンを、皇女殿下自らがしてくれるなどとは思えないようだった。が……。

「普通は、そんなことあり得ないって、僕だって思うよ。だけど、ミーアさまは慈悲深い方だから」

 あの、ミーアならば、身分の差なんか気にしないのではないかと、セロは思ってしまうのだ。姉であるティオーナの手紙を読み、すぐに助けに駆け付けてくれた、あの姫殿下ならば、と。

 けれど、そこでワグルが首を傾げた。

「でも、どうして、急にダンスレッスンをしてくださろうって、思ったんだろう……?」

 その疑問は、セロも同意するところだった。

 ――確かに、ミーアさまならそれをなさることに躊躇いはないだろうけど……、どうしてそうなさろうと思ったのかは、確かに気になるな……。なにがきっかけだったんだろう……?

 一瞬、考えてから……。

「もしかして、僕たちの生み出したものに感動して……それに応えるために、ご自身もなにか教えようって考えてくださった……とかだったりして……」

 思いつきを口にしてみる。っと、

「もちろん、そうだろうな。我ら学生の功績を評価してくださったに違いない」

 堂々と、そう主張するのは、いつの間にやらやってきた、ドミニク・ベルマンだった。

 偉そうに腕組みし、胸を張って、彼は言う。

「まぁ、俺の発案した小麦畑アートに一番感動してくださったことは、確実だろうが……、お前たちもなかなか頑張っていたしな。きっと、これは、ミーア姫殿下からのご褒美に違いない」

 なぁんて、ドヤァッという顔をしている。

 ちなみに、やって来た当初は中央貴族風を吹かせて、威張ろうとするドミニクに、微妙に距離を置いていたセロたちであったが……今となっては、ちょっと態度がアレなところがあって、時々、イラッとすることも言うけど、中身は真面目でいい奴という扱いである。ちょっと、結構、だいぶ態度がアレなところがあるが……。

 そんなドミニクに笑みを浮かべてから、セロはつぶやく。

「もしも、そうだったら、嬉しいな……」

 ミーアの役に立てているということ……ミーアが自分たちの発見に対して喜んでくれていること、それは、セロにとって何よりも嬉しいことだった。

「でも、ミーアさまとダンスかぁ……」

 それを想像しただけで、緊張に体が固まってしまう。

 セロとて貴族の一員。ダンスに関してまったく覚えがないということはない。

 むしろ、姉のティオーナに付き合って、きっちりと練習を積んできたほうだと言えるだろう。まぁ、それを披露する機会は、あまりなかったが……。

 そんなセロであっても、やはり、帝国の皇女殿下に、直にダンスの指導をつけてもらうなどということになれば、緊張しないはずもなく……。

 ――ミーアさまと、ダンス……かぁ。

 あの日、初めてミーアと出会った日……。

 自分の育てていた花を褒めてくれたこと、あの時の輝くような笑みを、今でも思い出すことができた。かすかに熱くなった頬を誤魔化すように、セロは首を振り、

「緊張して、まともに踊れないかも……」

「情けないことを言うな、セロ・ルドルフォン。我ら聖ミーア学園の生徒たるもの、ミーア姫殿下の恥とならぬよう、日々、鍛練と研鑽を……」

「ドミニクさまは、ダンスができるのですか?」

 微妙に長くなりそうな空気を察したのか、セリアがすかさず口を開く。

「無論だとも。むしろ、教導する側に回っても良いぐらいだ……。そうだ、せっかくの機会だし、特別初等部の者たちにも指導をつけてやるか……」

 ここ数日ですっかり、子どもたちに懐かれてしまっているドミニクである。まぁ、それはともかく……。


 さて、その翌日、午後の時間……、聖ミーア学園の生徒たちは、最も広い講堂に集められた。

 すでに、ミーア主宰のダンスレッスンの件は、噂として生徒たちの間で共有されていた。

 そんなことあり得ないだろう、という常識と、慈悲深きミーア姫殿下ならば、あるいは、という期待。

 その割合は、セロたちとは違い、おおよそ半々といったところであったが……。

 そんな彼らの期待に応えるようにして、帝国の叡智、ミーア・ルーナ・ティアムーンは現れた。

「ご機嫌よう、みなさん。お集まりいただいたこと、感謝いたしますわ」

 そうして、ミーアはニコリと穏やかな笑みを浮かべるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 社交の為のダンスなんて特に平民の学生にとってはメンドクサイものでしかないはずなのに、 皆はただのご褒美としか考えてないという……。 余裕というか、どこか緩いこの雰囲気がこれからの対決には…
[良い点] >あの時の輝くような笑み ナレーター「……の中身を彼は知らないのである」
[一言] >まぁ、俺の発案した小麦畑アートに一番感動してくださったことは、確実だろうが…… ミーア「お前か!!」
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