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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
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第六十九話 ミーア姫、ぶん投げる!

「生徒たち自身に討論会を……?」

 意表を突かれたのだろうか、フーバー子爵は目を白黒させていた。ヨハンナも何事か考えるかのように黙り込む。

 一方で上手いこと結論にまで行きついてから、ミーアはニンマリ、内心で笑みを浮かべる。

 ――ふふふ、なんとか話を持っていけましたわ。あとはこのまま……。

「なるほど。学生同士の討論会……。しかし、その優劣はどうやってつけるおつもりじゃ? まさか、ミーア姫殿下、あるいは、陛下が判断するなどと言うことではありますまいな?」

 安堵しかけた直後、ヨハンナのツッコミが飛んでくる。

「もしくは、司教さまにお願いするとか? それともミーア姫殿下とたいそう仲がよろしいと聞く、ラフィーナさまにでもお願いするつもりかえ?」

 どうやら、ミーアの提案をそのまま受け入れることに危機感を覚えたらしい。討論会の不備を突こうとしてくるが……。ミーアは落ち着き払った様子で首を振る。

「生徒同士の討論の優劣を、外部の我々が付けるなど、野暮というものですわ」

 ミーアやマティアスが評価するとなれば、当然反対されるだろうし、自身が懇意にしているラフィーナにお願いするのも賛成はされないだろう。ユバータ司教やレア、リオネルなども、同様にミーア有利な審判をすると思われるだろう。

 正直、それで揉めるのは、ミーアの望むところではない。かといって、相手に有利過ぎるような人材を選ぶわけにもいかない。聖ミーア学園の側に敵を作っては本末転倒だからだ。

 それゆえに、落としどころが難しくはあったが……ミーアは、なんでもないことのように言う。ごくごくあっさりと……、自明の、当たり前のことを言うかのような口調で。

「討論をした生徒たち自身が、それを判断すればよいだけのことですわ」

 そう……ミーアは責任を、ぶん投げる! 自分が選んで恨みを買うのもごめんだし、自分が指名した審判の件で恨みを買うのもごめんだからだ。

 けれど、ミーアのその言葉に、その場のみなは驚愕に目を見開いた。

「当人たち自身に判断させる……ですと?」

 はじめに口を開いたのはフーバー子爵だった。

「そんな……そのようなこと……」

 対して、ヨハンナは、ふん、っと鼻を鳴らし、

「なるほど。そうすれば勝てる……そのような算段が立っている、と、そういうことかえ? 討論会ならば、必ず勝てる自信があると?」

 そんなヨハンナの言葉をミーアは涼しい顔で聞き流す。

「別に勝てる算段なんかありませんわ。というか、そもそも勝ち負けの問題というわけでもございませんし。ただ、学校の良し悪しを論ずるには、学生を見るのが一番というのは厳然たる事実。そして、その結果を目の当たりにすれば、教師陣も文句のつけようがございませんでしょう?」

 お前もな! っとフーバー子爵のほうに目を向ける。

「それに、討論の中で自身の勝ちを、負けを、悟り認められないような者は、その事実をもって劣っていることを衆目に証明するのだと思いますわ。まさか、グロワールリュンヌには、そのように潔くない生徒はおりませんわよね?」

 問われ、フーバー子爵は、むっつりとした顔で、

「もっ、もちろんでございます。ですが……」

 その言葉をパンッと手を叩くことで封じつつ、ミーアはニッコニコと上機嫌に笑った。

「ならば、なにも問題はありませんわ。パライナ祭にどちらの学校が出るのが相応しいか、ぜひ、討論会を開いて決めることにいたしましょう」

 ビシッと言いつつも、ミーアは思う。

 ――まぁ、正直、討論会の勝ち負けなんか関係ありませんし……。これで問題ないですわ。

 グロワールリュンヌの学生たちを、この聖ミーア学園に呼び寄せて、農業技術の向上の大切さをわからせる。ついでに料理学部の絶品料理で胃袋を掴めてしまえば言うことなし。

 ミーアには確固たる自信があった。なぜなら、つい先ほど食べたプニッツァがとても美味しかったからだ!

 ――ウロスさんのような、食べ物に興味のある方が増えてくれれば、美味しい物が食べられるところが増えて、言うことなしですわ。帝国内に美味しい物が増えれば、なにかあった時に民の不満が噴出することも少なくなるはず。その分、ギロチンは遠ざかるというものですわ。

 心の中で皮算用……否、プニッツァ算用をしつつ、ミーアは勝利の笑みを浮かべるのだった。


 さて、一連のやり取りを見ていたユバータ司教は、小さくつぶやく。

「学生たちの、討論会……」

 思ってもみなかったミーアの提案に、思わず唸ってしまう。

 ――それが、私の懸念に対するミーア姫殿下のお答え、ということか……。

 いかに、ミーア学園が優れた教育方針を持っていようとも、帝国内で認められていないのであれば、世界に見せたところで意味がない。まず、自国内で認められるのが先だろう、と指摘されてしまうからだ。

 そうなっては、パライナ祭が台無しになってしまう。だからこそ、ミーアはグロワールリュンヌと対決し、聖ミーア学園が優れていることを圧倒的に示さなければいけないのだが……。

 ――その重大な役割を、学生たち自身に……。学園の生徒たちを信じ切っている、ということか……この聖ミーア学園の生徒たちを……。

 そこで、彼は眼鏡の位置を直しながら……。

 ――あるいは、グロワールリュンヌに通う生徒たちをも……。

 ミーアの器の大きさに慄くユバータ司教だった。


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― 新着の感想 ―
割と今まで出てきた帝国貴族教育そのものが「思考停止しろ」に終始してるから、実は学生自身に考えさせた時点でミーアの勝利というか、ミーアミームに感染して終わりな気がしますね。
[良い点] おかしい…最初はただミーア様が勘違いされていく様を見ていてオモシレーと思っていたはずなのに、最近だとただただひたすらミーア様スゲーとなっていく… こんなのルートヴィッヒじゃなくても眼鏡曇っ…
[良い点] >>「討論をした生徒たち自身が、それを判断すればよいだけのことですわ」 そりゃそうだ。 第三者にとやかく言われる筋合いはない。 かたや帝国貴族として、かたやミーアの期待に応える為、 それ…
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