表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第九部 世界に示せ! ミーア学園の威光を!
1174/1477

第六十九話 わたくしのように少々の心得がなければ……わたくしのように?

「それは、どういう……」

 怪訝そうに眉をひそめて、つぶやくヨハンナ。対して、ミーアは落ち着き払って紅茶を一すすり。それから、静かな声で答える。

「簡単なことですわ。ここでわたくしたちが、いくら話したところで、水掛け論。どちらの学校が優れているかは、明らかにはなりませんもの」

 小さく肩をすくめて、ミーアは首を振る。

「例えば、そうですわね。パライナ祭には、帝国内の最も優れた学校が出るべきだと思いますけれど……では、学校の良し悪しはどのように判断いたしますの?」

「それは、もちろん、その学校でなにを教えているかで……」

 歯切れ悪く答えるフーバー子爵に、ミーアはスゥっと視線を向けて。

「なるほど、教えていることが正しければ優れた学校であると……。であれば『正しいこと』とはなにかしら? すべての人が等しく正しいと、あるいは、優れていると認める知識は、神聖典以外にはないと思いますけれど……最低限、神聖典を教えるのは、どこの学校でも変わらぬことでしょう?」

 チラリとユバータ司教に視線を向けて、ちょっぴりアピール。帝国の叡智は常にアピールを忘れない。

「だから、比較すべきは各校が独自に教えるもの、あるいは、力を入れて教えるものであるべきですわ。けれど、そうですわね……例えば、帝国貴族の文化を教えているとして……それが、なぜ、聖ミーア学園で教えていることより優れていることだ、と言えるのかしら? テーブルマナーが調理知識より優れていると、どなたが決めるのかしら?」

「いや、それは……」

 反駁の言葉が一瞬行き詰ったのを見計らい、畳みかける!

「それに、仮に教えている内容が正しいとして……それが学生たちに身についていなければ意味が無いことですわ。ただ、正しい知識を提供するだけで良いならば、正しいことが書いてある本を配ればいい。それだけではないかしら?」

 クソだメガネだなんだと言いつつも、ミーアはクソメガネ・ルードヴィッヒのことを評価している。彼が教えたことは、腹立たしくはあったが、それでもミーアの中にしっかりと記憶されていたのだから。腹立たしくはあったが……。

 ――まぁ、わたくしの記憶力が優れているというのもあるのでしょうけど、彼の教え方が上手かったということもあるはずですわ。教えられている時には腹が立ちましたけど!

「もっ、もちろん、教え方というのもあります。ええ……」

 慌てた様子で、フーバー子爵が言う。が、ミーアは特に気にした様子もなく。

「なるほど。では、教え方が優れているというのは、どうやって判断するのかしら? 授業の内容を、みなで精査するのかしら? それとも、皇帝たるお父さま、あるいは、皇女たるわたくしも、優劣を判断する資格があるかしら?」

「なっ! い、いえ、それは、その……」

 ここは帝国だ。皇帝一族のわがままが、ほとんどすべてのものに優先される国なのだ。

 その権威を使われれば、反論の余地などないわけで……。

 しかも、皇帝マティアスはミーアを溺愛している。ミーアが「パパ、お願い」などと言おうものならば、いくらでもわがままを聞いてしまうだろう。

 フーバー子爵が慌てるのはもっともなことだった。まぁ、ミーアは間違っても、パパ、とは言わないのだが。

「わたくしは思いますの。そんな面倒なことをせずとも、どのような学校が優れているのか、判断するのは、とても簡単なことですわ。どちらの職人の腕が優れているか見るには、彼らの技を見るのではなく、その作品を見ればよいのですわ」

 辺りをキョロキョロして、空の皿の上に視線をやったミーアは、テーブルの外れ、カッティーラのお皿を手に取る。

「例えば、このデザート……。料理人の腕前の良し悪しを判断するのにはどうするのが賢明か。わたくしのように、少々、料理の心得がある者であれば、調理の姿を見れば、多少は判断できるかと思いますけれど、そうでないなら、その技術を見ただけで判断することは不可能、けれど……」

 一部、若干の異論が出そうなことを言いつつも、ミーアは続ける。

「こうして、食べてしまえば……」

 素早く、カッティーラを、ひょいっ、はくっ、もぐもぐっ、ごっくん! としてから、

「結果は明らかではありませんの? 料理人の腕前の良し悪しを見たいならば、単純に彼の作った料理を食べるのが一番ですわ」

 ミーアはペロリ、と唇についた甘い欠片を味わいつつも……。

「では……学校という料理人の作った料理とはなにかしら?」

「なるほど、料理は学生じゃな?」

 いち早く答えに行きついたのはヨハンナだった。

 ミーアは、満足げに頷いて腕組みする。

「そう、その通りですわ。学校の良し悪しを判断したいなら、その学生を見れば良い。そこにいる特別初等部の子どもたちを見れば、セントノエルがいかに優れた学校であるか、一目瞭然でしょう?」

「ぐむ……」

 微妙に苦い顔をするのは、フーバー子爵だった。いかに彼とて、大陸最高峰のセントノエルを否定することはできない。遠回しに、特別初等部の子どもたちを馬鹿にしたフーバー子爵を咎めたミーアである。

「それでは、逆に問いたいのじゃが、学生の良し悪しは、どのように判断しようというのじゃ?」

 ヨハンナの問いかけに、ミーアは自信満々に胸を張り……。

「簡単ですわ。両校の生徒たちに、直接、語り合わせれば良いのですわ。そうですわね。せっかくですし、グロワールリュンヌの学生たちにも、この聖ミーア学園の見学をしていただいて、その後で、討論会でも開けばよろしいのではないかしら?」

 そっと瞳を閉じて……。

「帝国の未来にとって、有望な若者たちの、貴重な交流の機会となるでしょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ぶん投げる、という方針が決まって気が楽になったのがグイグイ攻めますね。 ヨハンナに口を挟ませるスキを作らなかったのは大きい。 >>その権威を使われれば、反論の余地などないわけで……。 …
[一言] >ミーアはクソメガネ・ルードヴィッヒのことを評価している。彼が教えたことは、腹立たしくはあったが、それでもミーアの中にしっかりと記憶されていたのだから。腹立たしくはあったが…… ミーア「大切…
[一言] 「例えば、このデザート……。料理人の腕前の良し悪しを判断するのにはどうするのが賢明か。わたくしのように、少々、料理の心得がある者でなければ、調理の姿を見れば、多少は判断できるかと思いますけれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ