第百十五話 ミーア姫、見破られる!
ごそごそ、体が揺すられるような感触で、ミーアは目を覚ました。
「ん……んぅ?」
ぼんやりと、目の前が霞んでいる。目をこすろうとすると……、腕が動かないことに気づく。
どうやら、後ろ手に縛られているらしく、手首に縄が食い込んで、かすかに痛みが走った。
仕方なく、瞬きを何度もして、それからもう一度辺りを見回す。
どこかの部屋……、結構広いけれど、土埃に汚れた床は、あまり横になっていたい場所ではなかった。
「こ、ここは……?」
「おっ、目が覚めたみたいだな」
頭上から声が聞こえる。
――わたくし、どうして――っ! そうですわ、確かあの時、誰かに捕まって……。
ミーアの脳裏に、馬車で襲われた時の記憶が蘇る。
――まさか、わたくしたちを狙ったという、あいつらの仲間ですの?
一瞬、身構えるミーアだったが、目の前に現れたのは二人の少年だった。
ミーアよりは少し年上、十六、七歳といったところだろうか。そこら辺の町の中を歩いていても、不思議ではない、普通の少年たちである。
――なんか、ちょっと違うみたいですわね。
思わず拍子抜けするミーアである。
「あー、さっそくなんだけどさ、お嬢ちゃん、お金持ってない? 金貨とか銀貨とか……。恰好からすると、どこぞの商家の娘さんってところ? それなら、アクセサリーとか……」
その言葉に、一瞬、前の時間軸で革命軍に捕まった時のことが頭を過る。
その場で飛び跳ねさせられて、金貨の音がしたら、ものすごーく馬鹿にした目で見られて……。
あの時の屈辱感が甦ってきた!
「そんなの持ってませんわ」
ぷいっと顔を背けて、ミーアは言った。
「ほんとかよ? じゃあさ、そこで飛び跳ねてみろよ」
「ふふん、よろしくってよ?」
ミーアは勝ち誇ったドヤ顔でその場で飛び跳ねて見せる。当然、音は出ない。
――そんな程度で見つけられると考えてるなんて、甘いですわ。音が出るような場所に大切なものを隠しておくはずが……。
「靴か、靴下の中じゃないか? 子どもが隠す定番だし、調べてみろよ」
「なっ!」
あっさり見抜かれてしまった。しょせんは、ミーアの浅知恵である。
子どもが隠す定番などと言われてしまった屈辱感に震えるミーアをよそに、少年はミーアの靴を奪い、さらに靴下を脱がせたが……、当然そこにもない。すでに銀貨はシオンに渡してあるのだ。
「外れかー。くそー」
「まぁ、よく考えたらこんな子供に金持たさないか」
「ふふん! だからないって言いましたわ!」
悔し紛れに言うミーアに、少年がムッとした顔で、
「このガキ、生意気だな。お前なんか、人買いに売り飛ばして……あたっ!」
すぱーんっと、突如、小気味いい音が鳴って、直後、少年たちが「いってー!」と声を上げた。
「あんたたち、そんな小さな子をからかって楽しい?」
いつの間にやら少年たちの後ろには、彼らと同い年ぐらいの少女が立っていた。
肩のあたりまで伸ばした髪を揺らしつつ、あきれ顔でため息を吐く少女。その手には、自身が履いていたであろう、使い古した靴が握られていた。
「り、リンシャ。いや、その……、ちょっと脅せば、金目のものが出てくるかなって……」
慌てて言い訳しようとする少年だったが、その頭を再び、少女リンシャが引っ叩いた。
「その子を連れて来いってのがジェムの命令でしょ? ここの見張りはいいから、とっとと手はずを整えてきなさい」
「て、手はずって……」
「まさか、縛り上げた女の子を抱えて歩いて行くつもり? 革命派で自由に使える馬車がいくつかあるはずだから準備して。それと決行前の準備にも人手が必要でしょう? そっちのほうも様子を見てきて」
「わかったよ。けど、逃がすなよ」
少年たちはしぶしぶといった様子で、その場を後にした。
それを見送ってから、リンシャは改めてミーアの方に目を向けた。
「それで、あなた……、いったい何者なの?」
「それは……」
その質問に、ミーアは思わず考えてしまう。
さすがに、自身の身分をしゃべることがまずいことぐらい、ミーアにだってわかっている。けれど、冷静になって考えてみると、先ほどは結構ヤバかったような気がしないではない。
――人買いに売ってやるとか、言ってましたし……。
思い出すと、ちょっぴり怖くなってきて、頭の中がぐるぐるし始める。
――どっ、どう答えるのが正解なんですの?
うつむき、考え込むミーアを見て、リンシャはため息を吐いた。
「言いたくない? まぁ、別にいいけど……。というか、これでペラペラしゃべられても、それはそれで心配だしね……」
それから、少女は懐からナイフを取り出した。
「動かないでね」
「……はぇ?」
ごくごく唐突に、刃を向けられて、ミーアはただただポカーンと口を開けるのみ。
そんな彼女に向け、ナイフが振り下ろされて!
ぷつり……。
ミーアの腕を縛っていた縄が切り落とされた。
「え? あ……へ?」
「ねぇ、あなたは、この革命を止められる?」
呆然と、手を握ったり閉じたりするミーアに、リンシャは真剣そのものの顔で続ける。
「もし、止めることができるなら、お願い。兄さんを助けて」
必死に懇願する人の口調で、リンシャは言った。
こんにちは、餅月です。
ということで、金曜日更新でした。
新キャラ登場ですね。はたして、物語にどのように絡んでいくのか……。
では、また火曜日にお会いできるとうれしいです。




